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08 審問

解決編です。

セリーン・コルベリ嬢に対する審問の日が訪れた。


法務局分所の一角にある審問室にはビョルンと共にパウロたち騎士団がおり、その左右にはセリーン嬢、ローレンス公爵がいた。


今回はセリーン嬢は弁護担当者はいない。


彼女は自ら弁明をすることを選んだ。


「では、審問を始めます」


ビョルンは開始を告げる。


「今回はセリーン・コルベリ嬢の婚約者が連続して不審な死を遂げております。その上で原因は何なのか、私はここにいる騎士団団長のパウロ氏と共に調査しました」


パウロは一つの調査報告書を出す。


「今回はなぜこのような事案が起こったのかを話そうと思います。なにせローレンス殿が話してくれませんので」


その場にいる皆がローレンスに視線を向ける。


「な、なにを言うのだ!?」


突然の指摘にローレンスの動揺が隠し切れない。


「ローレンス殿、あなたが十五年前に起こした事件をお忘れですか?」


「な、それは!?」


「思い出されましたね」


ビョルンが軽くセリーンを見る。


セリーンは真剣な面もちだが、少し怒りが見え始めているようだった。


「十五年前、ある地方の交易ギルドが詐欺行為により処分され、そのギルド長一家が心中をしました。今、その地方はあなたやブーリン子爵やフィンチ男爵の所有するところです」


報告書を見ながらビョルンはローレンスを見る。


「あれは偶然だ!」


「そうでしょうか?私が調べたところ、あなた方はその交易ギルドに対して相当な圧力をかけていたようですね。当時の職員や街の人々も証言しています」


「それはその交易ギルドの怠慢ではないか、私は何もしていない」


「ですが、ブーリン子爵やフィンチ男爵はお認めになりましたよ。あなたに誘われて一緒に圧力をかけたと」


ビョルンはローレンスの前にブーリン子爵とフィンチ男爵の告白書を渡す。


それに目を通したローレンスの顔が赤くなる。


「あの馬鹿ども!!」


ローレンスは怒りのあまり目の前にあるテーブルを叩く。


「せっかく甘い汁を吸わせてやったのに!!」


「お認めになると言うことですね」


「そうだ!だが、圧力をかけたとして十五年前の事件と関わりはないぞ。その証拠はどこにある?私はあくまであの交易ギルドの流通を押さえただけだ。これは商売として当たり前ではないか!!」


「ですが、すべての流通を押さえただけでなく噂まで流すのはどうかと思いますね。あくまで商売上と言うのなら今回の件もその延長だと思いますよ」


「何が言いたいのだ?」


「今回の事案はあなたの自業自得なのです」


「私の自業自得だと・・・」


「はい。なぜこの事案が起こったのか、それはあなた方に対する復讐となります」


ビョルンはセリーンに歩み寄る。


「セリーン殿にお尋ねします。あなたはローレンス殿に潰された交易ギルドの関係者、ギルド長の娘ですね?」


その言葉にその場にいた誰もが驚きの表情を浮かべる。


その中でパウロだけはすでにビョルンから真相を聞いているので動揺はしていない。


ただ、彼にとってセリーンだけが心配だった。


「はい。私の本当の名前は・・・」


躊躇うことなくセリーンは頷く。


その瞬間、ローレンスが雄叫びを上げながらセリーンに襲い掛かる。


だが、その行動を予測していたパウロがローレンスの前に立ち塞がるとすぐさま彼を押さえつける。


「離せ!!」


「それはできないな。お前はまだ法務官の話を聞く立場だ。勝手なことは許さん」


パウロの後ろに控える騎士たちがローレンスを拘束しながら元居た席に座らせる。


「続けましょう。セリーン殿、今回の動機は亡くなった家族の復讐ですね?」


「はい。その通りです」


「では、あなたがどうやってローレンス殿が裏で糸を引いていたと知ったのですか?」


「私の手元にあるこの宝箱を見て頂ければお気づきになると思います」


セリーンはパウロに小さな宝箱を渡す。


パウロはその中を確かめるとそこにはローレンスが書いたと思われる証文が入っていた。


証文を受け取ったビョルンはその内容を確かめる。


「あなたはこれをどこで手に入れたのですか?」


「家族が亡くなる前日に私が父より渡されたものです。そこにローレンス公爵のサインがありました」


「それは偽物だ」


ローレンスが笑う。


「偽物ですか?」


「そうだ!!」


「では、あなたはセリーンの父親を欺いた訳ですね」


「違う!!その証文は偽物なのだ!!」


「偽物と言うのをお認めになると言うことはあなたはこの証文が最初から偽物だったと話しているようなものですよ」


「そ、それは・・・」


「なぜ、最初から偽物だと言うのですか?セリーン嬢はあくまであなたのサインだったと言っているだけです。鑑定もしないうちにあなたはすぐに偽物だと言う。それはあなたが自分自身で作ったと告白しているようなものです」


「違うのだ・・・」


ローレンスが言葉を詰まらせる。


この状況で否定すればするほど偽造だと認めることを彼自身理解できた。


「そう、あなたは最初に裁かねばならないのです」


ビョルンの言葉にローレンスが顔を上げる。


「今回の不審死は毒殺です。それもあなた方が農場で使用している農薬が使われています。この意

味はわかりますね?」


ビョルンは次なる証拠を示す。それは瓶に入った粉だった。


「それは・・・」


ローレンスがそれを見て焦る。


「これはあなたがセリーン嬢の家族に使ったもの、つまり農薬です。手に触れるのは問題ありませんが服用すれば心の臓が圧迫されてそのまま動きが止まり亡くなる劇薬です。あなたはこの証文を法務局に出される前に証拠を隠匿しなければならなかったのでしょうね。だからギルド長の家族を襲い無理やりこの毒を飲ませた。だが、証文が見つからず焦ったあなたは一家心中と見せかけるために家に火を放ったと言ったところでしょうか」


「それを見たのがセリーン嬢とジュール氏だ」


パウロが続ける。


「お前はセリーン嬢の家族を殺したがまさか娘であるセリーン嬢が生きているとは思いもしなかっただろう。現場で起こったことを一部始終目撃をしていることも」


「証拠は!!証拠は証言だけではないか!!」


「ブーリン子爵やフィンチ男爵がすでに認めています」


ビョルンはブーリン子爵とフィンチ男爵が殺人罪を認めた報告書を見せる。


そこには二人の被告が罪を認めた内容が記入されており、ローレンスが知る彼らのサインもあった。


王都にいるエヴァがセリーン襲撃の件を基に十五年前の事件の罪を認めさせたのだ。


その証拠もすべて押さえることに成功していた。


「あ奴らめ!!」


ローレンスの叫びが部屋中にこだまする。


興奮状態のローレンスを騎士たちがさらに押さえつける。


「では、なぜ銀が毒に反応しなかったのでしょうか?私はそこで薬学に詳しい医師たちにお願いし銀が反応しない毒殺の事例を教えて頂きました」


ビョルンは続ける。


「彼らが話すにはある特定の毒同士を混合すると時間差で回る毒が作れるそうです。そこで私は今回はこの農薬と混ぜると銀に反応しない毒があるかどうかをエヴァに調べさせました。結果、ある魚の毒と混合すると時間差で毒が回ることがわかりました。しかも銀に反応しない毒が生まれたのです。そうですね、セリーン殿?」


「法務官殿のおっしゃる通りです。私は家族が殺された後、お世話になっていた別の交易ギルドの元で保護して頂きました。そこで漁業関係の方から毒魚の存在を知りました。私はその毒が農薬と混ぜれば銀に反応しないことに気付いたのです」


「それでローレンス殿含めブーリン子爵やフィンチ男爵に復讐を行った訳ですね」


「はい」


「どうやって毒を盛ったのだ!!」


「私の口から知りたいのですか?」


セリーンがローレンスを睨む。

「では、話しましょう。私はあなたの息子たちと伽をする際に性的興奮を覚えることのできる薬があると教えました」


「伽だと・・・」


「彼らは喜んで飲まれました。私があなた含め父親に家族を殺された事を知らないままに」


「そんな馬鹿な・・・」


「彼らは私との伽が終わった後に、夜遅くに屋敷に戻りました。この後、夜中に彼らは毒が回り亡

くなったのです」


「セリーン殿、その毒は屋敷にありますか?」


「いえ、すでに廃棄しております。ですが、毒殺の件は告白したことを認めますので大丈夫です」


・・・やはりか


ビョルンの予想通りだった。


セリーンはここで罪を認めることで協力者を庇うために動くだろう。


彼らの存在は果たして導き出せるか、今のセリーンの態度を見ると厳しいかもしれない。


「改めて聞きますがあなたには協力者がいると思います」


ビョルンは自身がもっとも気にしていた内容に触れる。


「あなたがなぜ男爵家の長子になったのか・・・これはこの事案でもっとも疑問に思っていたことでした。復讐を遂げるには身分を偽るしかない。祖父の役割を果たしたジュール氏は亡くなりました。彼は亡くなった孫の戸籍を使いセリーン嬢の戸籍を作り上げた。ですが彼一人ではこのようなことはできない。あなたを保護した交易ギルド経由ならそれは可能です。つまり、あなたの身元は完全にするには他の協力者の手が必要です」


「それは可能なのか?」


パウロが尋ねる。


ビョルンから聞いていない内容だった。


「パウロ、その交易ギルドは君に今回の噂を流したところだと思うよ」


「まさか・・・」


パウロの脳裏に交易ギルド<ルクス>のギルド長が浮かぶ。


「残念ながら証拠はないのです。セリーン殿、君も話すつもりはないでしょう?」


「はい。私一人で行いました」


「私もそれ以上は踏み込むつもりはありません。今回は裁くべき人がそれ相応の報いを受けるべきですので」


ビョルンはゆっくりとセリーンの前へ歩み寄る。


「では、今日はお帰りなさい。明日、改めてこちらまで来て下さい。パウロ、彼女を屋敷まで送って下さい」


「よろしいのですか?」


セリーンは驚いている。


「あなたは逃亡する恐れはありません。あなたは最初から罪を告白するつもりだった。そして、ローレンス公爵たちの罪を暴くためにこの審問に来たのですから」


「ありがとうございます。戻りましたら、身の整理をしてこちらへ参ります」


セリーンの瞳から涙が流れだす。


その涙に嘘偽りはない。


やがて緊張感で体の力が抜けたのか倒れそうになったところをパウロは彼女を優しく介抱する。


「なぜ、あの女を拘束しないんだ!!」


だが、一人納得はしないローレンスが暴れ出す。


「拘束してどうするんですか?」


「罪を償わせるんだ!!」


「償わせたいんですか?」


「何度も言わせるな!!」


「ですが拘束するのはあなたです」


「なぜだ!?」


「あなたが罪を犯したからですが?」


「だが!?」


「ローレンス殿、あなたたちが犯した罪の償いが今戻ってきただけですよ。考えてみて下さい。相手にひどい仕打ちをする。その相手は当然恨みます。恨みを買った結果が今です」


「だからと言って息子たちを殺すことはなかった!!」


ローレンスが叫ぶ。


「そう言うのならどうしてセリーン殿の家族を殺したのですか?」


「そ、それは・・・」


ローレンスが応えられるはずもない。


自分が行った行為は見事に自分に跳ね返ってきたのだ。


「すべては結果ですよ」


そう言うとビョルンはローレンスの前に歩み寄る。


「な、なにをするつもりだ・・・」


「許せないですか?」


「と、当然ではないか・・・」


「では、彼女はどうでしょうか?あなたを許せるはずないでしょう。理不尽に家族を殺されたのですよ」


「だが、息子まで殺すことは・・・」


「あなたは本当に他人の都合を顧みないのですね」


「なにを・・・」


「自業自得ですよ」


ビョルンの手がローレンスの髪を掴み、強引に視線を合わさせる。


「痛い!!やめろ!!」


「痛いですか?彼女の痛みはこんなものじゃない」


「ち、違う・・・」


「違うはずないでしょう?お前が先にやったことじゃないか」


ビョルンが言葉を変える。


彼の怒りが漏れ出した。


「お、お前って・・・なにを・・・」


突然のビョルンの豹変にローレンスが怯え出す。


「お前が彼女の家族を破滅に追い込まなければ、お前の息子やお前に協力した者たちの息子たちは死ぬことはなかった」


「わ、私のせいだと・・・」


「ああ、お前のせいだ」


「・・・やめてくれ」


「お前がすべての元凶だ。受け入れろ」


「・・・許してくれ」


ビョルンの視線から目を外したローレンスの顔が沈み込む。


「何度も言う」


改めてローレンスの視線を戻させたビョルンは彼に言い放つ。


「お前が息子を殺した」


その瞬間、ローレンスの精神が崩壊した。


その後、ローレンスは拘束された。


その際、ただただ「自分のせいじゃない・・・」と呟き続けたのみだった。


こうして、セリーン嬢の審問は終了したのだった。

次回で最終回となります。


〇毒に関して

毒に関してはある事件を参考にしていますが、直接的な生成方法や使用方法などは避けております。


〇セリーンの本名に関しては

今回はあえて言わずに審問を展開させてかったので、次回にセリーン嬢の本名を出したいと思います。

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[一言] >ある魚の毒と混合すると時間差で毒が回る 現実でもあった保険金殺人のやつかな?
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