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06 推理すること

推理回です。パウロの心情も描きます。

パウロがセリーンと距離を縮めていた頃、ビョルンは王都にいるエヴァに様々な指示を送っていた。


もっとも重点的に調査をしたのはローレンス家の領地に関する事と毒に関する事だった。


また、セリーンの襲撃に関わった襲撃者の審問の後に黒幕と思われるブーリン子爵やフィンチ男爵への拘束手続きもあった。


王都にいるエヴァはビョルンの期待に見事に応えていた。


ここ二十年以内にローレンス家の領内で起こった数ある事件の中のどれかが今回の四人の婚約者の

死に関わっているとビョルンは確信していた。


なぜセリーンの悪い噂が流れたのか、これも意図的にローレンス家以外の誰かが流したのではない

か。


そして、本当に毒は使われたかどうか。


すべての情報がビョルンに届いた時、彼はパウロを久々に呼び出したのだった。


「傷はどうだい?」


「戦場と比べるとたいしたことない」


「セリーン嬢ともうまくやっているようだし安心はしてるよ」


「それで何か新しいことがわかったんだろ?」


「ええ。それを話そうと思う」


ビョルンがパウロに報告書を渡す。


「これは?」


「ローレンス家の領地で起こった事件を二十年前から遡った報告書です」


「で、何がわかった?」


「まず、ブーリン子爵やフィンチ男爵がセリーン嬢を拉致しようと裏稼業の者たちを雇い入れた証拠を手に入れました。これはあなたの部下である騎士団の方々の協力のおかげです。どうやらローレンス家に内緒で行ったようです」


「だとするとローレンスはまだこの事を知らないんだな?」


「ええ。ですのでこのままこちらも黙っていましょう。エヴァが今、彼らに審問をしていますので何かしらの切り札ができると思います」


「だがどうして奴らはセリーン嬢を攫おうとしたんだ?」


「これは私の考えですが、おそらくローレンス家の真似をしたのでしょう」


「真似?」


「ローレンス家は自家の繁栄のために汚れた事をやっていたのでしょう。その近くにはブーリン子爵やフィンチ男爵がいた。彼らはローレンス家が行う脅迫行為や害悪を加える行為を見てきた。その場合は必然的に彼らも同じ行為をするようになった。今回のセリーン嬢の襲撃を見ると対象者を攫うことで証文などを強引に署名させようとしたのでしょう」


「酷いな」


パウロは呆れてしまう。


「そこで私は思ったのです。このような汚れた方法をローレンスが過去二十年の間にセリーン嬢のいた場所で行ったのではないかと」


ビョルンが次の報告書を取り出す。


「これはローレンス家の領地に関しての書類です。そこで十五年前にある事件が起こっていました」


それはローレンス家がある領地を接収する前年の事件だった。


その領地にいた大農園を持つ一家が経営不振のため一家心中をしたものだった。


その一家に生き残りはおらず、大農園の証文を持っていたローレンス家がそのまま自分の領地にした。


だが、この事件にはローレンス家が一家心中に見せかけて殺害したのではないかと噂が立った。


噂の出どころは一家心中後の現場を見た幾人かの村人の証言だった。


食堂で一家全員が毒死と思われる状況で発見されていたのだが、村人たちが助けを求めた後に現場に戻るとすでに家は火事になっていたと言う。


だが、この証言は黙殺されることになった。


「当時の旅団や法務官が買収されたのでしょうね」


「つまり・・・ローレンスが動いたって訳か・・・」


「そこで最初の話に戻るのです。コルベリ家はどうやって生まれたのか。それをエヴァに調べてもらいました」


エヴァは神官ジュリアン・トランティニャンに協力を求めた。


神祇局には王都含め国中の死亡した者たちの記録がある。


エヴァは法務局が管理する出生証明書から十五年前に届けがあったセリーンの書類を見つけると、墓を管理する祭祀場にセリーンの名があるか調べて欲しいとジュリアンに願い出たのだった。


結果、その当時亡くなったセリーン・コルベリと同じ名前の墓をジュリアンは発見した。


出生時も今のセリーンと同じ年だった。


ただ、祖父であるジュールに関しては正当な出生証明書だったため、セリーンのみが証明書を偽造したことが認められた。


「おそらくジュール氏は亡くなった孫の出生を偽造し、セリーン嬢の戸籍を新しく作ったのでしょう。このような偽造手段は昔からよく使われるのですが今回は多くの協力者がいたのでしょう」


「・・・もしかして交易ギルド<ルクス>か?」


パウロが噂を聞いたのは交易ギルド<ルクス>からだった。


そう考えるとセリーンと<ルクス>の関係性は見えてくる。


「彼らなら元老院や貴族院への陳情など可能でしょう。なによりセリーン嬢の事を一番知っていたと考えると彼女の復讐に手を貸すことは至極当然かと」


「だが・・・証拠はないぞ」


「はい。<ルクス>の方々は我々の前に出ることはありません。セリーン嬢が恩人である<ルクス>の方々の名前を出すはずはありませんので」


ビョルンの考えとしては交易ギルド<ルクス>から審問や調査により今回の証拠を引き出そうとするのは無理だと判断している。


セリーンが頑なに証言を拒んだり非協力的な態度を取られる可能性が高かった。


パウロ自身もビョルンと同じ考えだった。


パウロはここ数週間だがセリーンと接している。


彼女の性格を鑑みれば必ず<ルクス>に対する証言は拒むのは目に見えて明らかだった。


「それに<ルクス>が今もセリーン嬢と関わっているかと考えるとジュール氏が亡くなった時に縁は切れているでしょうし」


「セリーン嬢なら祖父であるジュールが亡くなった段階で<ルクス>を復讐の計画にこれ以上は巻き込まないだろうな」


・・・私もそのような友達が欲しかったです。


パウロの脳裏にセリーンの言葉が流れ出る。


「セリーン嬢の噂を流したのは<ルクス>なのか?」


「おそらく」


「俺にはわからん。なぜ<ルクス>はセリーンに不利になる噂を流すんだ?」


「セリーン嬢がわざと流させた。<ルクス>は彼女の最後の願いを聞いたのでしょう」


「なぜだ!?自分から審問の受ける可能性が出るんだぞ!?」


「それが彼女が望む最後の復讐劇です」


「・・・まさか!?」


「はい。彼女は我々をこの地に呼び寄せ自分が審問を受けることでローレンスたちを断罪する。これが彼女の計画です」


「俺たちが来たことでローレンスたちが動くことも計画のうちだったのか・・・」


・・・私もそのような友達が欲しかったです。


再びセリーンの言葉がパウロの中で響き渡る。


「彼女は・・・ジュールが亡くなった後、誰にも相談しないまま復讐の計画を進めたのか・・・。計画を打ち明ける友人も親族もいない。こんなこと・・・悲しいじゃないか・・・」


パウロはセリーンの孤独がどれほど辛いものか想像するだけで胸が痛む。


「そして、不審死に関しては目処がつきました」


「毒か?」


「はい。こちらもエヴァを介して王都にある文献や毒に詳しい医師や研究者、引退された法務官の方々の経験を聞いた上で何の毒を使ったのか見つけることができました」


これで審問の準備はできたとビョルンは考えている。


その上でパウロにやってもらわないといけないことがあった。


「パウロ、私は君の意見を聞きたい。私はセリーン殿を審問する。彼女の復讐の一端に加えてもらうよ。だが、その前に君からセリーン嬢へに自首を促してもらいたい」


「彼女は拒むぞ」


「構いません。要は私や君はどう足掻いてもセリーン嬢の計画に乗らねばならない。そして、ローレンスたちを拘束しなければならないのです」


「・・・俺は今でも信じられないんだ。彼女の近くにいたのは短いが、彼女は領民のために動き自らは豪奢にならずに誰にでも優しかった。復讐のためとは言えそこまでできる人はいないだろうな」


「ええ。ですから彼女の近くに今いるあなたがやらねばならない事なのです」


「・・・いいだろう。お前の言う通りだと思う」


「本当は君をセリーン嬢のところには送りたくなかったのです。こうなるかもしれないと。ですが騎士団に所属している限りは任務を進めてもらうしかないと」


「わかってるよ。お前の性格は昔から理解しているさ。お前の話を聞いて迷いはない」


パウロは立ち上がると両手で気合を入れるため顔を自ら叩いた。


「俺もセリーン嬢の復讐とやらに乗ってやろう」


パウロが笑う。


表情はいつもの凛々しい騎士の姿に戻っていた。


その姿を見たビョルンは微笑み返しながら頷くのだった。

〇補足

出生証明書の偽造は欧米では第二次世界大戦後に多く起こっていたそうです。亡くなった子供の墓から名前を奪い出生証明書を偽装する。デジタルでのデータ化がない時代ですと調べるのが大変ですべての帳簿を見ながら確認するしかなかったようです。

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[良い点] シリーズ順に制覇中です。淡々とした作風が良いですね。 [気になる点] ✕ 大事に世界大戦 ○ 第二次世界大戦 あとがきには誤字報告できませんでしたので、あしからず
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