04 届いた調査報告書
ビョルンがエヴァに調査を依頼した内容は以下の通りだった。
1つは<セリーン・コルベリ嬢、つまりコルベリ家の成り立ち>。
もう1つは<ローレンス・ガーフィールド公爵の経済状況>。
「この二つの項目は共通項がないように思われるけど、私はそこに何かあるのではないかと考えた。結果として共通項があった」
「それはどんなものなんだ?聞かせてくれ」
この問い掛けにビョルンは調査報告の内容を話し始める。
コルベリ家が男爵として爵位を与えられたのは十三年前のことだった。
セリーンはその時は十歳と記録されている。
元老院とその直属である貴族院が爵位を与える前までは、当時のコルベリ家の長であったジュールはある有力交易ギルドの幹部だったと言う。
その後、ジュールは北属州で交易ギルドを立ち上げ、農地開拓などをしながらコルベリ家を盛り立てていった。
やがてジュールの設立した交易ギルドは前職にいた有力ギルドと協力関係になりコルベリ家は貴族階級の注目を集めることになった。
その中でもっとも私的な活動を行ったのがローレンス・ガーフィールド公爵であり、ブーリン子爵やフィンチ男爵だった。
「そこでガーフィールド家の経済状況を調べたのですがここ数年ほど財政が悪化していました。どうも無理に農地を開拓した影響で生産高が急激に落ちていたようです」
「ブーリン子爵やフィンチ男爵もか?」
「彼らは別です。婚姻関係を結ぶことでコルベリ家を取り込み元老院への足がかりを考えていたよ
うですね。実際に元老院への根回しも確認されていますので」
「だが、奴らの長子たちは死んだ」
「そうです。この場合、もっとも不利益を被ったのは誰でしょうね」
「ローレンスだな」
「はい。なにせ二人も後継者を失ってしまったのです。しかも次の手を打つにも男子がいない。そうなると奴は無理やりにでもセリーン嬢を取り込もうとするでしょう」
「だが、婚姻以外に手はないぞ」
「強引な手段でコルベリ家から領地の譲渡を考えるかもしれませんね」
「奴ならやりかねないな」
「そうだね。だからこそ今後の警備はより力を入れてほしいんだ。まだ調べが終わっていない事もあるんでね」
「わかった」
パウロは頷くとすぐに部屋を出ようとする。
「待って」
ビョルンが制する。
「どうした?」
「セリーン嬢はどんな印象だい?」
「なっ!」
唐突な質問にパウロは動揺してしまう。
「それはだな・・・俺としては素晴らしい女性だと思う」
「素晴らしいですか」
ビョルンの口元から微かに笑い声が零れる。
「君が素晴らしいと言葉にするとはね。いつもなら<俺好みの女性だ>とか<良い女>言うのにね」
「お前、悪戯が過ぎるぞ」
「いやいや、私は君の反応を見てセリーン嬢の人となりを知ることができたよ。でもね、前にも言ったけどあまり彼女に偏り過ぎないように。彼女は審問を受ける可能性があるからね」
「お前に言われなくてもわかってる!!」
「では、警備の方をよろしくお願いしますね」
ビョルンは首を右に傾けながら二つの掌を上に向けてお道化てみせた。
その様子に対抗することもできず、パウロは頬を紅潮させながら法務局分所を後にするのだった。