ー噂ー
「千夏って、モデルの灰沢愛午に似てるよね?」
「そうかなぁ、それはさすがに言い過ぎじゃない?」
二年三組のお昼休み。クラスの女子達がファッション雑誌を開いて集まっていた。
九ヶ崎白馬にとって、いつもであれば屋上でランチタイムのはずだったが、天王寺は今日までサッカー部の遠征でお休み。珍しく自分の席で一人昼食を取っていた。
周囲の会話は嫌でも聞こえてくる。
「カサネはどう思う? 千夏って少し雰囲気が灰沢マヒルに似てると思わない?」
ファッション雑誌を食い入るように見ていた笹木ミドリが片桐カサネの席までやって来た。
片桐は急に話しを振られた事に対して動揺したのか、吹き出した様子で口元をハンカチで押さえている。
「どしたの? カサネ」
「いや、大丈夫」
片桐は差し出された雑誌にざっと目を通すと、閉じて答えた。
「確かにそうかもね。もしかしたら千夏さんの方が美人じゃない?」
「それはさすがに言い過ぎだよ。だって灰沢マヒルだよ? 今をときめくトップモデルだよ?」
笹木は再び雑誌をパラパラと巡り始める。
「へぇ、知らなかった」
「カサネも少しくらいファッションやメイクにも気を使ったらいいのに。せっかく身長も胸もあ……」
片桐は笹木の口を押さえた。白馬はそのやりとりから思わず目を反らす。片桐がこちらを見ている気がしていた。
「まぁ、千夏さんも三大プリンセスの一人だし美人だよね。だけど、性格のほうは色々と良くない噂が絶えないみたいだよ」
「笹木さん。千夏さんも教室に戻ってきたみたいだから、うわさ話しは程々にね」
片桐は笹木の耳元で囁いた。笹木ミドリはそそくさと自分の机に戻る。片桐はしばらくの間、隣の白馬を気にしている様子だった。
白馬はまるで聞いていなかったような素振りで、空になった紙パック牛乳のストローを口元に当てていた。
やがて片桐から話しを切り出す。
「ねぇ白馬」
「ん?」
「灰沢マヒルって知ってる? モデルの」
「う、うん。知らないのは片桐くらいだと思うよ」
「そう?」
片桐はしばらく考えこむようにして、そのまま口を閉ざした。
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