ーもう一人のイケメン三銃士ー
平凡な白馬から見てもう一つ、程遠い世界に住まう者たちがいる。
イケメン三銃士の一人である天音ソラは今、校内で最も力を付けつつある不良グループ組織『skyhigh』のリーダーだった。少しくらい悪いほうがモテるとは聞いた事あるが、彼の場合、中学卒業と同時に当時の高校三年生、不良グループ十数人に殴り込みを入れ、高校入学前から今の地位を築いたらしい。物事には限度がある。噂だけ聞けば、よく入学できたものだと白馬は思っていた。
よりによって天音とは。白馬にとっては最も関係を持ちたくない人物だ。
ふと我に返ってみると、接点のない人物を紹介する義理などないし、もはやそれは紹介の域ではない。
しかし山下ハルコの発言が、白馬を彼がいる二年六組まで足を運ばせていた。同日の放課後の事。
六組に面した廊下を通過する際に、チラと横目で確認するだけのつもりだったが、通過も何も角部屋にそれは無理な話しだった。
こうなれば、他の人に用事があったかのように堂々とドアから覗いて見るしかない。
白馬は天音を直接見た事なかったが、まだいる群衆の中から一目で誰の事か分かってしまった。
天音ソラは椅子に仰け反るように腰掛けては右手に持つコッペパンをかじっていた。周囲にはいかにも悪そうなヤンキーが三人。skyhighのメンバーだろうか、天音を取り巻いていた。
とはいえ彼もまた、列記としたイケメン三銃士の一人である事に変わりないと白馬は納得していた。どのような強面かと思っていたが、意外にも小柄で細い線をしている。顔立ちも整っており、むしろ女顔に近い美少年だと思った。金髪に染めた少し長い髪は意外にもサラリとしている。
白馬は彼の存在を少し確認するつもりでいたが、不覚にも目が合ってしまった。そのままスルーしてもらいたかったが、わざわざ部屋の角から席を外して白馬の元へやって来る。蛇に睨まれたカエルのように、白馬はその場から動けないでいた。
「キミは確か三組の人間だろ? 俺に何か用?」
「オレの事知ってるんですか?」
「九ヶ崎白馬、別名キューピー。女の子たちの間でもある意味有名だよ」
白馬にとってはここまで噂が一人歩きしているとは思っていなかったが、天音のような人物にまで認知されている事に、少し嬉しい気持ちもあった。もしやモブを脱しているのでは。
やがて天音は白馬の耳元で囁くように言った。
「skyhigh入門希望と言うのならやめといた方がいい。キミは平凡な生き方のほうが性に合っているさ」
天音ソラは少しはにかんだような笑みを浮かべて踵を返した。意外にも人当たりがいい人物だと白馬は思った。イケメンとは何故か気が合う、白馬の特殊能力のようなものが幸いしたのかもしれない。山下ハルコが天音ソラを好きになるのも無理はないと感じていたーー。
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