ー芹澤千夏ー
幼馴染とは残酷なモノだ。白馬は時にそう感じる事があった。
白馬達がいる舞台の『脇役』とは違う、脚光を浴びるような、きらびやかな舞台に立つ者たち。
千里の妹、芹澤千夏もまた白馬と同じ月乃峠学園高校二年三組のクラスメイトだった。姉の千里同様に幼少期から恵まれた容姿ではあったが、高校二年生へと成長を遂げた彼女は月乃峠学園三大プリンセスの中でもトップクラスの逸材だった。身長170センチ前後の細身の体型、その長い脚はまるでモデルを思わせる。スカートの丈も短く制服を少し着崩しているのはこなれ感を出すための計算である事に違いない。小顔で少し赤味がかった茶髪は胸元で柔らかなウェーブをしている。左耳にはさりげなくルビー色の小さなピアスが光っていた。上品に取り繕ってはいるが、問題児扱いされていた過去を知る九ヶ崎白馬にとっては、被った猫がいつ剥がれるのかが密かな楽しみにもなっていた。
「なんでよりによって私と九ヶ崎が同じクラスなのよ」
千夏は珍しく屋上のベンチでソロ読書活動中の白馬に話しかけてきた。実際の所、天王寺も一緒にいるのではと思って出向いて来たのだろう。
「天王寺が隣のクラスで残念なんだろ? 残念ながら、ここにはオレしかいないよ」
「そう。九ヶ崎って一人でいる時はホント空気よね」
親しき中にも礼儀なしとは彼女の事だった。
「天王寺の隣にオレがいても背景にしかならないからな。なんら変わりないじゃないか」
「まあ、確かに」
見てくれはいいのに容赦がない事に対し、今更どうこう言うつもりもない。芹澤千夏は好き嫌いがハッキリしている。たまに交わす会話の中にトゲがない事などありはしない。彼女は高校でできた友達とつるんでいる間は、白馬など他人も同然だった。まるで庶民など相手にしないかのように。実は白馬と幼馴染でしたなど、千夏にとっては株価が下がるのだろう。その反面、天王寺との幼馴染説は至る所で出回っているが。これについては千夏本人が公言しているに違いなかった。
「千夏? 天王寺くんいたの?」
千夏の後を追って一人の女子が屋上の扉から顔を覗かせた。彼女、山下ハルコもまた天王寺取り巻きの一人だった。高校で出来たであろう千夏の友人で、長身の千夏をバレー部に勧誘した人物であるが、自身は意外にも小柄だった。愛嬌のある表情は一部の男性から評価が高い。
「いや、いないみたい」
千夏は白馬から距離を置いて答えた。
「そう、でも今誰かと話していなかった?」
「いや、気のせいでしょ……」
白馬は再び手元の活字に視線を戻した。背景なり空気なり、何とでも呼ぶがいいさ。これはもはや白馬の特技となっていた、にもかかわらず。
「あれ? もしかしてキューピーじゃない?」
『キューピー?』
白馬、千夏の両名は聞き返す思いだった。
「あの、人違いだと思うのですが」
当然、白馬にとっては初めて言葉を交わす相手だった。
「だってキミ、九ヶ崎くんでしょ? ある意味有名人だよ。イケメンを紹介してくれる恋のキューピッドの九ヶ崎くん、九P」
そのあだ名は白馬からきているのかと思ったが、九ヶ崎と言う苗字も一役買っているらしい。
そんな噂まで立っていたとは思ってもみなかった。
「千夏は知らない? キューピーの事」
「え、……ええ、はじめまして」
白馬は白々しいと思いつつも、千夏の反応に話しを合わせた。
山下ハルコは白馬が座るベンチの横に腰掛けた。普通の男子ならこの時点で勘違いするのかもしれない。
しかし性分をわきまえた白馬は至って平然としていた。
「ねぇキューピー、最近気になる人がいるんだけど」
「ん? それは天王寺の事じゃなくて?」
「天王寺くんもカッコイイんだけどね、もう一人いるの」
千夏も聞いた事なかったらしく、首を傾げていた。ハルコは恥ずかしいそぶりを見せているが、自分から話し出したことに変わりない。白馬は昼休みが終わる前に、早いとこ話しを進めて欲しいと思っていた。
「もう一人って言うと? やっぱりイケメン三銃士の誰か?」
「うん。……天音空くんなんだけど、知ってるよね?」
「うっそ!? 天音ソラって、ハルコ本気なの?」
芹澤千夏も驚きを隠せないでいたーー。
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