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王子を乗せた白馬様  作者: DA
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ー白馬の定ー

 九ヶ崎白馬(クガサキハクバ)は自分の名前が好きではなかった。


 おとぎ話などで知られる『白馬に乗った王子様』とは、必ずと言っていいほど王子様にフォーカスが当てられている。王子様とお姫様の出会いの場面では、それを羨むように隣に据え置かれ、より王子様を引き立てるために背景に徹するのが『白馬』の役割だ。例え白馬がお姫様に淡い恋心を抱いていたとしても、その恋が実る事はまずないだろう。九ヶ崎白馬もまた、その名前により人生の肩書きまでもが決まってしまっているように思えていた。お姫様の近くに居ながら、見向きもされていない事ほど辛いものはない。

そんな性分とトラウマを受け入れながら、彼が『白馬』という名の生を受けて十七年目の春を迎えていた。


 高校二年生となった白馬は男子の平均身長に満たない少し小柄な青年だった。身の丈に合わない制服は成長を見越して購入したものだろう。日に焼けていない肌と内向的な性格は昔のままだった。

 そんな彼の目の前には一人の可愛いらしい女子の姿があった。白馬の通う月乃峠(ツキノトウゲ)学園高校に入学して間もない初な一年生だ。世間的男性視点から見れば羨むほどのこの状況を、白馬はまるで澄ました顔で立ち振る舞っていた。


「それで、お話というのは?」


「白馬先輩……」


 放課後の教室に西日が差し込んでいる。陽の光に照らされているとはいえ、白馬を目の前に女子は自身の頬が赤く染まるのを悟られまいと両手で覆い隠しては笑って誤魔化していた。


「あの……白馬先輩。先輩って確か、天王寺先輩とお友達なんですよね?」


「うん、ですよね。こうなる事知ってました」

「……え?」


 天王寺英(テンノウジスグル)。彼は白馬の親友のであり、小学校からの旧友でもある。身長は170センチ後半で細身の体型、誰もが納得するほどわかりやすい王子様気質を持っていた。今ではこの月乃峠学園イケメン三銃士の一人として有名な人物となっている。女子達は一様に、天王寺をお目当てとして白馬に近づいては、その間を取り持ってもらおうとしていた。この流れに対し白馬自身もフォーマットを持つ程、既に経験値を会得している。彼ら二人はセットでいるところをよく見かける事から『白馬に乗った王寺様』と女子たちの間で呼ばれていた。つまるところ、九ヶ崎白馬とは背景であり、ただ平凡な恋のキューピッドなのだ。


 ーー「天王寺、いい加減誰かと付き合っちゃえば?」


 白馬は屋上で仰向けになる天王寺に声を掛けていた。

 しかし反応はいつも通り上の空だ。白馬から見ても天王寺は決して女性に対してだらしない性格という訳でもなかった。むしろ律儀で頭も良く、欠点など見当たらないほどに。これまでだって白馬経由で何人もの女子たちと知り合ってはいたが、天王寺にその気は無いらしい。


「今回のあの子だって、一年生の中では可愛い方だと思うけど。何で誰とも付き合わないんだ?」


 白馬は問いかけた。


「みんな悪い子じゃないんだがねぇ。直感では違う気がするんだよな」


 白馬の問いかけに対して天王寺は欠伸を交えて言った。


「まぁ、天王寺には芹澤千夏(セリザワチナツ)がいるもんな」


「別に彼女って訳ではないだろ。俺らにしてみりゃお互いの恥ずかしい一面を知ってるただの幼馴染じゃないか」


 月乃峠学園には天王寺のようなイケメン三銃士と対をなすように、月乃峠学園三大プリンセスがいると言われている。彼らと幼馴染の芹澤千夏もまたその一人である。白馬と天王寺にとっては小学校からの付き合いで気の知れた仲だった。


「千夏レベルを見慣れてたんじゃ、天王寺は一体どんな女性にならなびくんだよ?」


「……さあね」


 九ヶ崎白馬にとって、お昼休みの過ごし方は大体こんな感じが日課となっている。数々の女子たちからの恋人申請はおろか、友達申請さえ天王寺スグルは面倒くさく感じている。白馬にとっては羨ましい限りだが、そんな想いは六年も前から封印してきた。彼に接触を試みる女子たちは皆、一様に九ヶ崎白馬の背後にいるイケメンにしかフォーカスが当たってはいない。彼が恋に臆病になるのも無理はなかった。


 ーー初恋のあの子は今頃何をしているのだろうか。ふとした瞬間、白馬は成長した彼女に一目会ってみたいと思うようになっていた。

 もし、彼女が転校する事なく、この高校にいたのであれば、三大プリンセスどころではなかっただろう。

 白馬にとって苦い思い出ではあったが、今でも彼の心の中であの頃の事が鮮明に蘇ってくる。


 「春が来る」とは読んで字の如くではあるが、白馬と天王寺にとっては、昨年同様に騒がしい季節が巡って来るのだったーー。


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