記憶に引っ掛かる小骨
皆様は「新都社」という漫画・小説の投稿サイトをご存知でしょうか。出身という言葉が適切であるかどうかは分かりませんが、後に売れっ子漫画家となった投稿者もたくさんおられるようです。
数年前、新都社の漫画を読み漁ることにハマっていた私は『民子』という作品に出会いました。ものすごく不潔でだらしなく、何に使うのかも分からないものを収集する癖を持ちつつ、でもどこか憎めない民子という女子高生が主人公の日常系漫画……だったと思います。
不確かなのは記憶がおぼろげなだけでなく、もう作品の内容を確かめる術が存在しないからです。先日、新都社で掲載されていた漫画がアニメ化したことを知り、それがきっかけで『民子』のことを思いだして検索してみたのですが、どうやら作品が削除されてしまっていたようなのです。
どんな経緯で作者様が削除なさったのかは分かりませんが、5年程更新されていないので恐らく二度と読むことは叶わないのでしょう。だからと言って、ごく最近まで作品の存在を忘れていたうえに、おおまかなあらすじや登場人物の名前さえ思い出せない私に悲しむ資格はない気がします。
ただ今でも一つだけはっきり覚えていることがあるのです。民子の同級生の男子が、なぜかインターネットのことを「インターネッツ」と呼び、それに対して別の女子が内心すごくイライラしていた描写だけが、なんとなく頭にこびりついて離れないのです。もちろん私は相当なザル頭なので記憶違いである可能性は否めませんが。
展開上、重要なシーンというわけでもないのに、なぜか鮮明に覚えていたそのやり取りがあったからこそ、かなりの月日を経ても民子のことを(一応)思い出せたに違いありません。当然作品が面白く、登場人物が魅力的だったことも事実ですが、具体的に何がどう良かったかを説明できない以上、私と『民子』を繋ぎ止めてくれていたのは「インターネッツ」に他ならないのです。
今こうして節操なくいろいろな小説を投稿するようになって感じます。私にとっての民子の『インターネッツ』のように、誰かの記憶に引っ掛かる小骨のような文章、作品が書けたらいいなと。読者様を身震いさせる感動的な作品を創り出すことはできないかもしれませんが、それでも時々ふとしたタイミングで頭をよぎり、気になってもらえるような小説をお届けできればと思っています。
そして、暇つぶしにちょっと検索してみた読者様が「あ……まだこの作者、投稿続けてたのか……」と呆れてしまうくらい、末永く活動していられることを願っています。