表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第4章】少女漫画と乙女ゲームの間で
57/60

流行り病?

 その数字が変化したのは、この世界では一年前ほど前だったと思う。


 だから、この世界の十倍速らしいあの「火の大陸」と呼ばれる場所では、約十年前ということになるのか。


 それは本当に突然だった。


 若い女……、具体的には10歳から25歳ぐらいの女たちが死にやすくなったのだ。

 だが、死んだことは分かっても、その原因が分からなかった。


 神官たちの報告は若い女たちが死にやすくなったという結果だけしか教えてくれない。


 ただ「神の試練により『聖霊界(あの世)』に導かれた」と言うだけだった。

 自然死と言いたいらしい。


 だが、仮に女性特有の病気……、流行り病だったとしても、季節に関係なく十年間ずっと発生し続けているのはおかしいだろう。


 そして、気候変動とかも特に報告は受けていない。


 それにこの世界の人間たちが多少、気候が変化したぐらいでどうにかなるとは思えないのだ。


 あの少女漫画では、周囲が炎に包まれても平然としていたり、腕が凍り付いても淡々と対処するような人間たちだった。


 オレには分からないが、この世界には「大気魔気」と呼ばれる不思議なエネルギーに満ちている。


 それと同じように、人間の身体には「体内魔気」と呼ばれる力があり、自身の身体を護っているらしい。


 あの少女漫画には、「体内魔気」と呼ばれているものは、自分の身体を覆う防護膜のようなものだと説明されていた。


 MMORPGでいう常時発動(パッシブ)スキルのようなものだろう。


 具体的には、周囲の環境に適応する能力だったり、物理防御や、魔法耐性と呼ばれるものを高めるものがある。


 あの少女漫画に出てくる主人公は、男二人から剣で同時に斬りかかられて、目を閉じてその瞬間を見ていなかったにも関わらず、その刃を折ったり、欠けさせたりした。


 斬りかかった人間の感覚では、人間の皮膚を切る感覚ではなく、金属に当たったような手応えだったらしいので、相当な強度なのだと考えられる。


 因みに主人公に斬りかかったその二人については、その直後、壁に叩きつけられるという目に遭っている。


 それ以外では、航空機が飛ぶような高度にある場所に生身で向かって行ったという描写もあった。


 オレたちの生活していた世界の常識では、そんな高度にあれば、マイナス50度の極寒で、人間の身体では耐えきれないほど気圧も低くなる。


 さらに酸素も低濃度となるため、人間が生身で生き延びる可能性はかなり低い。


 つまり、それだけ無茶苦茶な設定である……、違う、そのありえないことを可能にしてしまう能力らしい。


 そんな能力を持っている人類たちが、病気に弱いという弱点があるとはいっても、簡単に死ぬだろうか?


 それに……、その不自然な状況が、「火の大陸」だけだというのなら分かるが、それ以外の大陸にも発生しているのだ。


 逆に全体で同じようになったのならば、理由ははっきりしないが、若い女だけ生きていけない環境に変化したのだろうと、ある種の納得はできる。


 だが……。

「育成に関わらないと宣言しているリアンズはともかく、ハルナの風の大陸に変動がないという点も気になった」


 急激な人口増加をしなかった「風の大陸」は、これまでと変わらず、人口が緩やかに上昇している。


 具体的な方法の詳細を聞いたわけではないのだが、この世界では医学が発展していないため、少しでも病気にかからないための環境を整えているのだと思う。


 出産率を上げるのではなく、死亡率を下げ、平均寿命を上げているのだ。


 少し間違えれば、高齢化につながりかねない方法だが、もともとこの世界の平均寿命が低すぎた。


 そして、寿命が延びれば、一人当たりの出生率も上がることになる。


 短い寿命だったから、一人しか生み育てることができなくても、それが二人、三人と増やす余裕ができるのだ。


 この世界では、子育て費用がそこまで膨大になるわけではない。

 だからこそできる手法でもあった。


「普通に考えれば……、その大陸特有の病気……、かな? 風土病ってやつ……」

 ハルナは少し考えて、そう言った。


「風土病?」 

「わたしも医学は専門ではないからはっきりとは言えないけれど、その土地の気候、虫や動植物、水や土に含まれる成分などによって、発症する病気……だったはず」


 オレの少ない言葉から、ハルナはいつも、結構な言葉を返してくれる。

 学生時代から詰込みではなく、しっかりと知識を吸収していったということだろう。


「公害病みたいなものか?」


 オレは少ない知識から、「四大公害病」という単語を思い出す。

 その中には確か、出産を経験した女性に多かった病気もあったはずだ。


 ……だが、四つの中のどれだったかは覚えていない。


「アレは人間の産業活動による環境汚染が原因。公害も地域限定ではあるから、広い意味では風土病と言えなくもないけど……」

 ハルナは、公害病を風土病と呼ぶのに抵抗があるようだ。


「どちらかと言えば……、自然発生の印象があるかな」

「なんとなく、インフルエンザウイルスみたいだな」


 インフルエンザは流行りの型に国や地域の名が付けられていた気はするが、地域限定ではないはずだ。


 だが、自然発生して流行る病気と言えば、どうしてもこれが最初に出てくる。

 毎年、厄介なんだよな。


「インフルエンザはともかく、有名な病気ならマラリアとか、千円札の肖像で有名な人がかかった黄熱病も風土病……だったはず」


 ああ、確かにマラリアなら聞いたことがある。


 千円札の肖像で有名な人の病気は風土病だったのか。


 一歳ぐらいで囲炉裏に落ちて大火傷をした話からスタートした覚えがある漫画の伝記では、黄色い熱みたいな名称の病気だったと思ったが違ったのか?


 いや、「黄熱(おうねつ)」って文字が……「黄色い熱」って書くなら、間違ってないのか。


 ……中途半端な知識は良くない。


 そして、この状況で下手なことを言えば、ただでさえ低い自分の株を下げてしまう気配がする。


「しかし……、その土地特有の病気か……。だが、火の大陸だけじゃなくて、水、光、地、空の大陸も人数こそ違うが、似たような状態だってのも知ってるだろ?」


 オレは素直に話を戻すことにした。


「各大陸の場所は分からないけど……、同じような条件下で行われていると考えるなら、多分、同じ惑星内……、だよね……」


 同じ惑星内でも同じ環境ではない。

 だから、どれも同じような状況になるとは思えなかった。


「とりあえず、原因究明の案として……、亡くなった人の症状を確認したら?」

「へ?」

「一言で病死って言っても、その症状はいろいろあるでしょう? 咳が続くとか、高熱だったとか、胸が苦しそうだったとか」


 言われてみれば、「神の試練により『聖霊界(あの世)』に導かれた」という結論だけで、その亡くなった原因まで細かく追求したことはなかった。


「又聞きだし、どうしても素人判断にはなってしまうけど、この世界、医学も発展してないっぽいから仕方ないよね」

「そうか……。まずは、何の病気かを判断するべきか」


 具体的な症状を上げ、その中から選択させることで、病因が分かる可能性がある。

 本当に、その死因が病気によるものならば……。


 だが、オレに亡くなった原因を告げる神官が、「神の試練により『聖霊界(あの世)』に導かれた」としか言わなかったのは、実は病気によるものではなかった時はどうすれば良いのだろうか?


 極端な人口の変動を見て以来、ずっとチラついている考えがある。


 それは、あの少女漫画に出てきた世界に生きる住民たちに施された「呪い」の話だった。

 そのために、主人公がかなり理不尽で酷い目に遭うのだ。


 そして、その「呪い」は「救いの神子」たちの時代に、生まれたとされた記述があったはずだ。


 本当にアレが関係ないのか?

 そして、それが記されていた時代に何が起きたと、当時の大神官は告げた?


「だけど……、もしオレが考えていることが本当の死因なら……」

 神官が口を紡ぐ理由も分かる気がするのだ。


 いや、寧ろ、一度その事実に気付けば、それ以外が考えられない気さえする。


「ハルナに聞きたいことがあるんだけどさ……」

 だから、それを客観的に確認してもらいたかった。


「オレのこと、どう思っている?」

 こればかりは、オレでは分からないことだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ