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少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第4章】少女漫画と乙女ゲームの間で
55/60

火の神子と相方の神

『浮かない顔だな』

 「赤イケメン(笑)」はその理由が分かっているのに、そう口にする。


 この(おとこ)はオレの心が読めるのだ。

 いちいち口に出して答える必要もない。


『それでも、お前の声を口にして欲しいのだが?』

 流石にイケメンと呼ばれる種族は面の皮の厚みが凄い。


 だが、男からそんな言葉を言われても嬉しくはないのだ。


「……失せろ」


 お望み通り口に出してやったぞ。

 文句あるか?


『人間の身で、我に向かってそんな口を叩くのは、お前ぐらいだ』

 そう言いながらも不敵に笑う「赤イケメン(笑)」。


 オレの言葉に対して、不敬とは思わないらしい。


『空々しい敬意など、今更、お前に望んでも仕方ない』

 まあ、心からの賛美ではないのが分かっているからだろうな。


「大多数の人間から多少、外れている方が貴方の好みだろ?」

 オレがそう言いながら、ニヤリと笑うと……。


『いや、美しくも誇り高い人間が唇を噛みながらその膝を折る方が好ましいな』

 さらに笑いながら返される。


 まあ、オレが何かを言ったぐらいで簡単に心を動かすようでは神など名乗れないだろうけどな。


『だから、お前が歯噛みしながら我のモノになる日を心待ちにしているところだ』

 余計な言葉まで追加された。


「少しぐらい隠せ」

『許せ。隠さない方がお前の反応が面白いのだ』


 とんだドSだ。


 確かにいずれ、そうなると、分かっているんだが、そこまで露骨なことを言われると、オレも抵抗はある。


 今のところ、行動に出る様子はないが、この神は随分前からそれを隠そうとしない。


 こちらがどんなに嫌がろうと、その意思とは関係なく、「神子」は、神のモノになるしかない、と。


 この「救いの神子」は、神の子を多く産むために選ばれた人間(いけにえ)でしかない。


 それは中身が男でも問題はないらしい。

 身体は清らかな「神子」なのだから。


 本来のオレなら全力で抵抗してやりたいが、残念ながら、この世界の人類の未来が人質になっているようなものだ。


 観念して全てを受け入れるしかない。


『よく言う。お前は既に人類などどうでもよい癖に』

「そんなことはないぞ」


 この世界の人類の未来は、オレの好きな世界に繋がっている。

 それを思えば、どうでもよいとは言い難いのだ。


 この「火の神子(アルズヴェール)」の子孫たちは、あの少女漫画の主人公の命を助ける存在となることを知っている。


 それは、気が遠くなるほどの遠い未来。

 その可能性を壊すつもりはない。


『相変わらず、その世界の存在を信じているのだな』

「あの世界(みらい)があると信じなければ、この世界を救おうとは思えない」


 オレは肩を竦める。


 身体はともかく、心は立派な青年男子なのだ。


 自分に課せられた使命とかそんな崇高な理由だけで、相手の顔がどんなに良くても、ヤられたいとは思えないのは自然だろう。


 目的、目標があるからこそ、このドSな神から与えられる苦行に耐えようとするのだ。


「だから、その時になれば、受け入れる」

 せめて、その予告があれば、心構えもできるだろうけど、それは望むまい。


 この神は性格が悪いのだ。

 だから、いきなり予告なくその日を迎えることになるのだろう。


 今から頭が痛い。


 だが、ハルナが言うには、この世界を元にした「乙女ゲーム」とやらは、5年の猶予があった。


 そして、現状、この世界の人間たちの人口はかなり上向きになってきているが、最近、気になる現象も起きている。


 そんな不安定な状況で、今、神子が不在となれば、人間たちの世が混乱することは間違いない。


 だから、今すぐに、オレをこの世界から引き離しはしないと、そう信じている。


 いくら人間のことに興味、関心が薄い神だって、この世界を創った「創造神」が関わっている以上、そこまで無責任なことはしないはずだ。


 だから、今、人間たちの世界で起きている問題が、ある程度解決してからということになるだろう。


 そうなると、考えられるのは、「幕引き(エンディング)」はその5年……、つまり、来年だとは思っている。


 どこまでもあの乙女ゲームに合わせる気らしい。

 ふざけた話だ。


『それで、お前が気にしている現象とは?』

 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる「赤イケメン(笑)」。


 殴りたい、この笑顔。


 分かっているのに、いちいち確認しやがるのが腹立たしい。


『お前にとっては不本意だろうが、我は相方であるのだからな。話ぐらい聞くのは当然だろう?』


 正論だ。


 確かにオレの心や火の大陸のことを分かっているからといって、それを「神子」として相方の「神」に相談しないのは別の話だ。


 オレが変な意地を張って口にしなければ、この「赤イケメン(笑)」だって答えようもないだろう。


 これでも、大陸の状態について、必要以上のことは口にしないようにしているみたいだからな。


 オレに対して、余計なことを口にするのはこの神の性分なのだろう。

 そこまで言われても尚、頑なに口を開かないのはただのバカだ。


 オレは大きく息を吐いた。


()()()()()は、火の大陸の人口状況は把握されていますか?」


 オレがそう言うと、目の前にいる「赤イケメン(笑)(ジエルブ様)」もその表情を切り替える。


『ああ、()()の教導により、環境が改善され、どの大陸より目覚ましく人口が増えている。手を貸している身としても誇らしいことだ』


 それについてはほとんどオレの手柄ではない。


 オレが伝えたことを神官がさらに検討、改良をした上で、更なる発展をさせている。


 これまで、現れたら即、狩るようにしていた「魔獣」と呼ばれる獣たちに対しても、必要以上に狩らなくなった。


 そうすることで、大陸に存在していた人類にとって濃すぎる「大気魔気」と呼ばれる空気中の魔力も少しずつ変化していったのだ。


 そして、その「大気魔気」の調整に、この「赤イケメン(笑)(ジエルブ様)」も協力してくれている。


 だから、オレはほとんど口を出しただけで、何もしていないに等しい。


「他の大陸については?」

『人口状況については知ってはいるが、それに関与はしていない』


 当然だ。

 敵に塩を送るようなもんだからな。


 ハルナと一緒に行動をしているために忘れがちになるが、オレたちは競争相手なのだ。

 相手に手を貸すようなことはしていないだろう。


 オレとハルナが書物庫で勉強会と言う名の逢引をしていることはこの神も知っているが、それを許しているのは、互いに妨害の意思はないためだろう。


 僅かでもその気配があれば、どちらかの神が止めていたはずだ。


 だが、本来は、助言すら許されない話だと思っている。


 それを見逃してくれているのはせめてもの情けか。

 それとも……、その方が楽しめるからか。


 ……後者だな。

 間違いない。


「どの大陸も全体的に人口は増えています」

 それは良いことだと思う。


 本来の目的でもあることだから。


 これまでにも地道に堅実にこつこつやってきた風の大陸は、毎週、確実にその人口を増やしていた。


 それは当然だろう。

 あれだけ頑張っている「風の神子(ハルナ)」の努力が結果に繋がらないはずがない。


 だが、四年目に入ってからだろうか?

 その風と闇の大陸以外の大陸の人口上昇率が変わったのだ。


 そこには、オレの火の大陸も含まれている。


 火の大陸はもともと伸びていたが、他の大陸も一気に急上昇し、その人口は、風の大陸にも迫るほどだった。


 勿論、他の神子たちの努力の結果もあるだろう。

 

 だが……、その急上昇した時期が多少の時差はあったが、ほぼ同じ時期というのも気になったのだ。


 それだけではない。

 これはハルナが言ったように、細かく記録していなければ分からないほどの変化。


 だが、そこに重要な意味が隠されている気がしたのだ。


「風と闇の大陸を除いて、若い女性の死亡率が上がっているのです」


 そして、それを口にした時、目の前の神が、楽しそうにその口元を歪めたのを、オレは間違いなくこの目で見たのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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