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少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第4章】少女漫画と乙女ゲームの間で
53/60

火の神子は赤い部屋で会話する

 さて、ハルナを自分が使っている部屋に案内した。


 これがギャルゲーなら、確実に心が躍るイベントが起き、エロゲーなら、心と身体が沸き立つイベントが起きなければ確実に暴動を起こしたくなる状況だろう。


 だが、残念。

 ここはそんなに甘い世界ではない。


 最近では慣れてしまったために、きれいさっぱり頭に残っていなかったのだが、この部屋は笑えるぐらい赤い部屋だった。


 どこかの少年探偵漫画に出てくれば、確実に友人が巻き込まれて殺されそうな殺人事件が起きそうな部屋ほど酷くはないと思うが、それでも慣れない人間の目に直撃する程度ではあるだろう。


 ―――― 赤い部屋は好きですか?


 なんとなく甲高い声で語りかける都市伝説を思い出すようなこの部屋を見て……。


「赤い……」

 ハルナはそう呟いた。


「ハルナの部屋は赤くないのか?」

「……この部屋の赤さに、もう少し黄色成分が混ぜ込まれているような色だよ」


 どうやら、ハルナの部屋はオレンジ一色らしい。


 想像はしていたから意外でもないが、その表情を見る限り、やはりなんとも言えないような部屋なのだろう。


 あまり深く突っ込まない方が良い気がした。


 部屋にはロメリアが待機してくれていたので、お茶の準備を頼む。

 状態変化しにくいお茶ならロメリアでも準備ができるのは本当にありがたい。


 オレは……、お茶の準備なんかできなくても問題はない。


 状態変化しにくいはずのお茶でも、状態変化をさせてしまう稀有な才能の持ち主はどこの世界にも一人はいるのだ。


 お茶の準備をしてもらった後……。

「ロメリア、場は外せる? 神子同士の大事な話をしたいから」

 申し訳ないが、そう指示を出す。


「かしこまりました。御用の際は、またお申し付けくださいませ」


 そう言って、ロメリアは一礼をし、いつものように感情を出さないまま、すっと部屋から出て行ってくれた。


 三年の付き合いだが、ロメリアの表情の変化は本当に分かりにくい。


 でも、全く分からないほどでもないのだ。

 時々、微かに口元を綻ばせているのを見ることもある。


 それも何かを我慢するように。


 だから、無表情というよりも、表情の変化を表に出さないだけで、実際は表情豊かなのだろうなと思っている。


 この世界にいる間に、ロメリアが分かりやすい表情の変化を見せてくれるようにすることが、オレの密かな野望だ。


 好感度パラメータはどこかに落ちていないものだろうか?


 しかし、今は目の前のハルナと向き合った。

 いつもの赤い部屋ではあるが、ここにいるのが「赤イケメン(笑)」でなく、ハルナだということがかなり嬉しい。


 赤い部屋と黒い髪、黒い瞳の少女ってありなんだな。


 そう思う反面、そのフレーズだけを見ると、新たなホラー要素を含んでいるような気がするのは何故だろうか?


「どうした?」

 先ほどまで赤い部屋を物珍しそうに見ていたハルナは、何故か目を丸くしていた。


 オレの背後に誰かいるとか言うなよ?


「主従関係って……、別に男女じゃなくても良いもんだね」

「……なんだそりゃ?」


 全く考えてもいなかった方向の話に、思わず笑いが出た。

 オレとロメリアの関係のことだろう。


 だが、オレたちの場合、ある意味、男女だと思うのは気のせいだろうか?


「オレとしては……、男主人とメイドの関係が一番……」

 男として当然の言葉を吐こうとして……。


「いや、天然の女主人と男の護衛の関係もありだな。それが実は幼馴染だと尚、推奨!」

 あの少女漫画の設定を思い出して思わず叫ぶ。


 主人公とその幼馴染の付かず離れずの関係が、オレはかなり好きだったのだ。


 いや、現実的に考えれば、男の方がかなり我慢しすぎだとは思うけど、そこには事情があるから仕方がない。


 誰だって、自分の言葉に文字通り、命を懸けるなんて難しいよな。


「……女性に男の護衛……? ああ、騎士様と貴族令嬢の関係は確かに激しく萌えるね」

 ハルナもいろいろ思うところがあるらしい。


 だが……。

「騎士……? ああ、あれは、騎士と言えなくも……? でも……、あの二人の関係はもっと……」

 あの2人の関係を一言で説明するのは難しい。


 作中でも何度か、主人を護る「騎士」と称された男ではあるが、当人にその意識はなかった。


 そこにあったのは忠誠心よりももっと分かりやすい私心。

 あんなに激しい感情を主人に抱く「騎士」など、普通は早々にクビだろう。


 あの主人公もよく言っていた。


 護衛が一番、危険人物だと。


「いや、そんな話はどうでも良い」

 オレはこの部屋にハルナを誘うことにした当初の目的を思い出した。


「うん、わたしもそう思う」

 ハルナも素直に応じる。


「ハルナ、手を握らせてくれ」

 そう言いながら、手を握ろうとしたのだが……。


「……セクハラ?」

 蔑んだ目で見られた上、すっと両手を後ろに引かれてしまった。


 いろいろ傷付くが、これでこそハルナだと思ってしまうのはどういうことだろうか?

 最近、オレの中でM属性が順調に育っている気がする。


「馬鹿言え。手を握るぐらいでセクハラ扱いされたら、フォークダンスなんか踊れなくなるぞ?」

「いや、フォークダンスはお互い、合意の上だからね? いきなり理由もなく握るってものじゃないからね?」


 オレの軽口に対しても、いちいち丁寧に言葉を返すハルナは本当に真面目だと思う。


「理由ならある」

 オレがそう口にすると……。


「さっきの話?」

 ハルナも気付いていたのか、そう問い返した。


 この部屋に来る前、オレはハルナの手を握ったまま移動しようとしたら、自分の部屋が分からなくなってしまったのだ。


 今までに一度もなかった記憶の混濁。

 それによって、オレの方向感覚も激しく狂わされた。


「『ラシアレス』の特性に、方向音痴があることは理解できる。だが……、それが手を握っただけでオレにまで影響するのはおかしいとは思わないか?」


 ハルナの意識だけの話なら分からなくもない。

 それがこの世界に必要だと言うことだろう。


 だが、それが、身体に触れた相手にも影響するとなれば、それだけではないような気がするのだ。


 それは、まるで「ラシアレス」に関わった人間までも狂わせようとする「運命(導き)」のような気がしてならない。


「それは思うけど……、手を握る必要性はないと思う」

 ハルナは両手を背にしたままそう言った。


「この『ラシアレス』の体質……、いや、性質は、それだけ、『すくみこ! 』のイベントに対する強制的な流れが強いってことかな……、とは思うよ」

「先ほどの……相棒とのやりとりは、ゲームにもあるのか?」


 ハルナの言葉に「運命の強制力」というものを感じた。

 必ずそうなるように仕向けられた流れ。


 そして、それには大半、神と呼ばれる存在が絡んでいる。


「ラシアレス限定でランダム発生する『迷子イベント』に似ていた。でも、全てではなかったと思う」

「『迷子イベント』?」


 恐らくは例の「乙女ゲーム」のイベント名なのだろう。

 しかし、「ラシアレス」限定とは。


 ある意味、そのゲームの製作者による「ラシアレス」への愛情を感じる気がする。


「『すくみこ! 』内は、同系統のイベントを『みこ』たち、攻略相手にあわせてCGとシナリオが違うだけのものが多かったのだけど……」

「組み合わせのCGとシナリオが違うなら、もはや別のイベントと言って良いんじゃないか?」


 同系統のイベントというのがよく分からないが、攻略相手に合わせてCGとシナリオが違うってそういうことだよな?


「具体的には『私室デート』。「みこ」の部屋に攻略対象者が来て、数種類の会話内容と段階に合わせたCGがある。他には『庭園デート』や、『書物庫イベント』とかな」

「ああ、つまりいろいろと使い回したやつか。名前を変えるだけのシナリオとか、CGもその部分だけ相手を入れ替えるようなやつだな」


 なんとなくレトロなRPGの中ボスを思い出す。


 昔の容量が限られていたゲームには、雑魚敵の色違いの中ボスとかは珍しくはないものだった。


 そんな中でも、限られた容量の中で、戦闘中に変化していくラスボスの存在は際立っていると思う。


「何を言うか!」

 だが、オレのそんな思考はハルナの大声にかき消された。


「『すくみこ! 』の売りは、『原作関係ねえ! 』だけじゃなく、当時としては珍しいほどのその膨大な文章量(シナリオ)(CG)だったんだから! 全てのヒロインと攻略対象者に合わせて、同じ場所で違う展開の書き分けと描き分けが凄くて……」

「ああ、悪い」


 どうやら、オレの言葉に腹が立ったようだ。


 確かに先ほどのオレの言葉は、その受け取り方によっては、好きなゲームを貶めたようにも受け取れる。


「別に馬鹿にしたわけじゃないんだ」

 それだけを伝えた直後、あることに気付いた。


「……って、全てのヒロインと攻略対象者って……、ヒロインが7人で、攻略対象者も7人……?」


 しかもそれだけの数のシナリオとCGを、個別に準備していた……だと?


「攻略対象者は相方の神様たちだけでなく、二周目以降は創造神様も入るから……8人だよ」


 さらにとんでもない情報が追加された。


 単純計算でも7人の「みこ」と8人の神の組み合わせで、56種類。


 しかも、「乙女ゲーム」と呼ばれているゲームのイベントが一種類だけなはずもない。

それを使い回さずなんて……。


絵描き(グラフィッカー)と、文章書き(シナリオライター)と、設定者(プログラマー)を過労死させる気か?」

「『すくみこ! 』の闇だよね」


 いや、それをそんな軽い言葉で済ませて良いのか?

 ブラックな企業にも程があるだろ?


 しかも、それだけの企業努力……、いや、プロ根性を見せてくれているというのに……。


「それでも……、最大の特徴が『原作関係ねえ! 』と言われてしまうのは、原作在りのゲームと言うのはどうなんだろうな?」


 それはプレイヤーと原作読者にも問題があるのではないだろうかと、ゲーム未プレイのオレは思うのだった。

今回は若い子置いてきぼりのネタを使いました。

だが、後悔はない!!

分かりやすくするために台詞は変えていますが、この部分に問題があれば削除します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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