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少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第3章】少女漫画を知っているのに
40/60

火の神子は一年を振り返る

 昔、読み込んだ長編少女漫画「魔法探索~MAGICAL QUEST~」に似たこの世界。


 その少女漫画の過去にも出てくる「救いの神子」と呼ばれる神子の一人に、意識だけが乗り移って、一年間という短くはない月日が過ぎた。


 オレの意識は、まだ元の身体と世界に戻る様子もないが、この女体化生活にはかなり慣れた気がする。


 その間に、オレがした主な行動を振り返ってみよう。


 毎朝、書物庫へ行き、同じ「救いの神子」の一人「ラシアレス」という名の少女と交流を深めた。

 まあ、少女と言っても、中身は「ハルナ」という名前のオレよりも少しばかり年上の女ではある。


 だから、オレはロリコンではないと言い切らせていただこう。


 ずっと、毎日のように特定の女と会うことは苦痛だと思っていた。

 なんとなく、束縛がきつくねえか?


 だが、そんな感覚はない。


 彼女と話していると単純に楽しいとか居心地が良いというだけではなく、勉強になるからだろう。

 刺激を与えられ、自分の視野が広がるとでも言うのだろうか?


 「神子」としては勿論、考え方や物の見方がオレよりもずっとしっかりしていて、異性であることを忘れそうになる。


 素直に、こんな社会人なら尊敬できると思うぐらいに。


 だが、同時に、いろいろとかっちりしすぎて隙が少なく、生き辛そうだとも思う。


 そして、一緒に仕事をする相手にも似たようなものを求めてしまうために、上司になると、煙たがられるようなタイプだ。


 この世界は理不尽や不条理が溢れていることを承知していても、できるだけ自分なりの解決方法を模索しようとする。


 それは悪いことではない。


 だが、不器用だ。

 もっと楽な生き方があるのに、それを知った上で選ばないのだから。


 そして、前を向き、背筋を伸ばして、堂々と胸を張り、自分の足で立って支えを必要としないその生き方は、男なら敬遠したくなるだろう。


 自分を必要とされない気がするのだ。


 極端にかまってちゃんな女は嫌でも、承認欲求を満たしてくれる程度には自分を必要として欲しいと思う勝手な生き物である。


 まあ、オレからすれば、そんな強い生き方を選ぶような女が、不意に見せる人間的な弱さとかがかなりのツボなんだけどな。


 特に彼女と会う時間は決まっていない。


 だが、オレが書物庫に行くときには、既にハルナは机の上にいろいろな資料を広げて何やら調べ物をしている時が多い。


 ちゃんと眠っているか心配になるほど「ワーカーホリック」気味な女である。

 現実世界なら過労死一直線ではないだろうか?


 そう言っても、彼女は笑って「大丈夫だ」と答えるのだが、オレは割と本気で心配している。

 まさか、この書物庫で寝泊まりしているってわけではないだろうな?


 オレの監視役であるロメリアや、ハルナの世話役であるアイルという名の女は、最近、邪魔……、もとい、付き添わなくなった。


 お互いに無害だと判断したのだろう。


 もしくは、オレたちが日本語を使って、筆談で話をしているため、それを理解できない2人は立ち会っても仕方がないと思ったか。


 ハルナの世話役であるアイルは、半年ぐらいで部屋に入らなくなった。

 それでも、毎日、この書物庫の入り口までは案内してくれるらしい。


 ロメリアの方は、難しい顔をしながらも、最近までオレの背後に立っていた。

 もしかしたら、オレを信用できなかったのかもしれない。

 

 それでも、最後の日。

 「貴女の判断を信じます」

 と、そう言ってくれたために、少しぐらいは信頼されたのかもしれないけど。


 そして、オレがいない間に何やら食材と格闘していることは知っている。


 料理ができないことはロメリアの最大の弱点だった。

 それをなんとか克服したいらしい。


 ある意味、健気で嫌いではないが、それでも「火の大陸」出身者と言うことで、料理が得意になることだけはないだろうなとも思っている。


 あの少女漫画の世界でも無理だったのだ。


 この世界からずっと未来の話のはずなのに、「火の大陸」出身者は、その血が濃いほど例外なく料理が苦手なままだった。


 もはや呪われているとしか言いようもない。


 世話役の二人の監視の目がなくなったことで、ハルナとは気兼ねなく話ができるようになった。


 筆談は手間がかかるし、時々、ハルナの書く漢字が読めないこともあるのだ。

 そして、適当に流すこともできない。


 漢字辞典が切実に欲しかった。

 だから、普通に会話ができるようになったことは喜ばしいことなのだ。


 ハルナとは基本的に午前中しか会わないことにしている。


 流石に「救いの神子」として、この世界を救うと言う本来の目的のためにもいろいろと動かなければならないのだ。


 オレは、この先の未来を潰すつもりはない。

 あの少女漫画の世界が大好きだったから。


 他の神子たちと会うこともある。

 一人を除いて、色惚けてはいても、最低限の仕事はしているらしい。


 流石に顔を合わせておいてお互い無視することはない。


 それどころか、各大陸の面白い話を聞けたりもするので、できるだけ声をかけるようにしている。


 この世界について無知で、他の神子にとって無害な女を装いつつ、こちらからも情報を渡すことで相手からも少しずつ話しかけられるようになった。


 全てを隠さず、適度に情報交換することは大事なことだと思う。

 それが、意外な事実に結びついたりするからな。


 やはり、情報というのは淀みなく流れる方が良いらしい。


 それ以外では……、三日に一度ぐらいの割合で、相方である「赤イケメン(笑)」が、部屋に現れるぐらいか。


 暇な奴だなと思うが、「赤イケメン(笑)」……、いや、ジエルブ様は、神子のご機嫌取りが上司から与えられたお役目というやつらしい。


 どの世界でも上下関係は面倒だよな。


 そして、少しぐらい隠せよとも思うが、そこまで開き直られると逆に信用できる。

 そんなオレの性格も見抜かれているということだろう。


 ヤツと話すのは腹立たしいことも多いが、貴重な情報源でもある。

 何より、神視点の話は、オレたち人間にはないものだ。


 まあ、あまりにも上から目線過ぎることが多いのだが、実際、人間より上位の存在なのだからそこは我慢している。


 良いように扱われている自覚もあるが、オレ自身も納得した上で行動するように仕向けてくれているので問題と言うほどでもない。


 ただ、「風の大陸」のことを常に引き合いに出すのだけは、そろそろ止めて欲しいとは思っている。

 そんな風に脅さなくても、ちゃんと仕事はしてやるから。


 あと、野郎から、手を握ったり、肩を抱かれたりしても、全然、嬉しくねえ!!


 そう何度か心の底から熱く訴えてはいるものの、改善されることはないことも理解している。

 何でも、神とのスキンシップは「神子」たちの身体に必要なことらしい。


 必要と言われたら仕方ねえけど、普通に嫌だよな?


 相手は心が読めるため、この中身が(オレ)って分かっているのだ。

 つまり、お互いに苦行の時間だと思う。


 因みにハルナからも話を聞いたが、そんなことはないとの返事だった。


 それを知った時、「赤イケメン(笑)」に抗議をしてみたが、何でも「火の神」と違って、「風の神」は近くにいるだけで相手に力を与えることができると返答された。


 つまり、力の与え方が違うらしい。


 羨ましいと思う反面、「火の神」と「風の神」の力の分け与え方が、逆の設定じゃなくて良かったと素直に思えた。


 他には、人間の神官との対話もしている。

 ハルナが週一で会うことにしたらしいので、オレも同じように週一で会うことにした。


 いつ会っても、「神子」崇拝の意識が凄い。


 だが、なんとなく……、前回、会った時にその念が薄れていたような気がした。

 勢いがなくなり、少しだけ落ち着いていたのだ。


 今度会う時は、もっと大人しくなっているだろうか?


 後は、月末に定期報告会が行われる……、と言いたいところだが、何故か、それは二回目以降、報告書の作成と姿を変えていた。


 つまり、報告を書き記して、導きの女神ディアグツォープ様に提出するだけの簡単なお仕事です?


 ……そんなわけがない。

 オレはハルナと違って、報告を纏めるのが苦手なのだ。


 毎回、四苦八苦している。


 そんな感じで、慌ただしくも一年は終わり、オレの「神子」生活は二年目に突入していくのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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