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少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第3章】少女漫画を知っているのに
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神子たちは待機する

『お待たせして申し訳ありません』

 そんな言葉と共に、金髪の女神、導きの女神ディアグツォープ様が奥の部屋の扉から現れた。


 その姿を拝見するのは実に一月(ひとつき)ぶりだが、やはり不思議な魅力に溢れた女神様だと思う。


 オレはこの女神が見た目ほど癒し系ではないことを知っている。

 その優しく柔らかな微笑みの下に激しく燃えるような情熱を秘めた方だ。


 そして……、あの少女漫画の主人公である「ラシアレス」の祖神……、その魂の元となった神でもある。


『それでは、お一人ずつ奥の部屋で報告をお願いいたします』

「奥の部屋に一人ずつ……ですか?」


 そう問い返したのは、シルヴィクル(姐さん)だった。

 その声も顔も、分かりやすく不信の色がある。


 流石、外見15歳、中身は三十路越え。

 オレたちのような中身まで未熟な若者よりも警戒心がもっとずっと強い。


『はい』

 だが、導きの女神ディアグツォープ様は笑顔で返す。


 その表情だけで、「聖霊界(死後の世界)」に導かれてしまいそうだ。


『そこで……、創造神が貴女方にお会いになられます』

 他の女どもがざわめいた。


 すぐ横にいたハルナすら、その表情には驚きが浮かんでいる。


 その気持ちはオレにもよく分かる。


 「創造神」とは、あの少女漫画の主人公たちすら会うことはなかったこの世界の最高神のことだ。

 この世界に最初に誕生し、この星の(もと)を創り出した存在だと言われている。


 聞きかじりの知識だが、日本神話で言う「天之(あまの)御中(みなか)主神(ぬしのかみ)」、ギリシャ神話なら「原初の神(カオス)」、旧約聖書なら「唯一神(ヤハウェ)」が、「天地(てんち)開闢(かいびゃく)」に関わった神の名前だったと記憶している。


 どうでもいいけど、「天地(てんち)開闢(かいびゃく)」って言葉の響きがでかいよな。


 ただ、この世界は日本神話やギリシャ神話と同じで多神教でもあるため、「創造神」と名前は付いているものの、全てのものを創り出した存在ではないらしい。


『それでは、闇の神子、『リアンズ』様はいらっしゃらないので……、空の神子『キャナリダ』様からお願いします』

「は、はいっ!」

 導きの女神ディアグツォープ様に促され、キャナリダ(BLスキー)が声を裏返らせて席を立った。


 ふ~ん。

 七羽(しちう)の上からじゃないんだ。


 オレはそんなことを考えた。


 あの少女漫画の世界の考え方となるが、「大陸神」と呼ばれる神は背中に御羽(みはね)と呼ばれる色のそれぞれの色の羽を背負っている。


 その羽の色が、「赤橙黄緑青藍紫」の七色。

 日本の虹と同じ色だ。


 そして、その力の強さから、いろいろなものが、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順番になっていることが多い。


 だから、神子たちだけの自己紹介の時でも、オレから始まっても違和感はなかったのだ。


 それと同じような考え方がどこかにあったのか、名を呼ばれたキャナリダ(BLスキー)は慌てたように返事をし、導きの女神ディアグツォープ様に連れられて、奥の部屋へと消えていった。


 それにしても「闇の神子」、「空の神子」か。


 導きの女神ディアグツォープ様は、それぞれの担当大陸の神子としてオレたちを呼ぶつもりのようだ。


 そうなると、火の大陸担当のオレは「火の神子」となる。


 なんとなく、あの少女漫画に出てきた「橙の王族」とか、「風の娘」という言葉を思い出す。


 主人公を名前で呼ばず、そう呼んだ奴らがいたのだ。

 そこには、それなりの事情があってのこと。


 だが、相手を一人の人間として見ていない印象が強いと主人公は感じていた。


 なるほど。

 それはこんな感覚なのか。


 世間がオレを一纏めに「大学生」という枠に収めるようなものだ。


 知らない人間からそう言われるのは気にならないけれど……、オレたちの心を読んでいるはずの人からそう呼ばれるのは少し、なんとも言えない奇妙な気持ちになる。


 神は、人間を下に見ている存在だ。


 あの「赤イケメン(笑)」も、導きの女神ディアグツォープ様も、オレたちに気遣っても対等に見ることは決してない。


 続いて、トルシア(肉食系女子)が呼ばれた。

 妙に軽い足取りで向かっている。


 だが、あの部屋はどうなっているのだろうか?


 いきなり食われたりするようなことはないだろうが、あの少女漫画は時々、ホラー漫画のようなノリに変わることがある。


 この世界も同じようになると少し困る。

 オレは……、ホラーが少し苦手だから。


 さらに言えば、完全な暗闇も怖いのだ。

 部屋が真っ暗になると眠れなくて、いつも常夜灯を点けていないと落ち着かないほどだった。


 だが、不思議なことに夜の屋外は大丈夫だったりする。

 星は見えるし、現代日本では完全に真っ暗になってしまうことはほとんどないから。


 誰もいない暗闇に閉ざされた室内が怖いだけだ。


 だから、この世界に来てからも寝る時は少しだけ明かりを付けている。


 勿体ないかもしれないが、仕方ないだろ?

 眠れなくなるよりはマシなのだ。


 因みに、修学旅行では級友たちが同室となるためにその弱点は誰にも知られず、ホッとしたものだった。


 マルカンデ(男性恐怖症)が呼ばれた。

 周囲を見ながら、ビクビクしながらも部屋に入っていった。


 その扉が閉まるのを確認した後、シルヴィクル(姐さん)がオレたちに向かって口を開く。


「ねえ……、この世界って、やっぱり『すくみこ! 』と違うわよね?」

 この女は、オレたちが無害だと判断しているのだろう。


 だが……。

「以前、言った通り、ワタシはそのゲームに対する知識がないので、よく分かりません」

 と、素直に答えさせていただく。


「あら、本当にゲームやってなかったの? ポーズかと思っていたわ」

「はい」

「ああ、だから『アルズヴェール』という初心者向けの役が貴女にあてがわれたのかもね」

「アルズヴェールは……、初心者向けなのですか?」

 そう言えば、ハルナもそんなことを言っていたな。


「その整いすぎた容姿。それだけで、勝ち組だとは思わない?」


 女って怖いな。

 そんな発想を自然にできるのか。


 少し考えて……。

「いえ、ワタシは、『ラシアレス』の方が好みの容姿なので」

 そう答えさせていただいた。


 胸が大きいことを除けば、本当に理想だと思う。


 オレの横でラシアレス(ハルナ)の慌てるような気配があるが、そこは気にしないでおく。


「ああ、美人系より可愛い系が好みなのね。分かる気がするわ」

 シルヴィクル(姐さん)に分かられてしまった。


 でも、美人よりは可愛い方が良いって男は多いと思うぞ?


「じゃあ、『アルズヴェール』というだけで、ゲームの攻略難易度が下がるとだけ理解できれば良いわ。男の人って、見た目で八割判断するらしいから」


 まあな。

 そして、見た目に騙されて、勝手に自己判断して、「裏切られた」と叫ぶ所までがセットだよな。

 オレの同級生のあるあるだ。


 個人的には、ある程度の年齢になったら、気の置けない相手の方が良くなる気がする。

 見た目が良くても、一緒にいて気詰まりするような相手は本当に疲れるんだよ。


 まあ、最低限、相手に対する礼儀や気遣いは絶対に必要だけどな。


「そっちのラシアレスは? 神様攻略は進んでる?」

「神様攻略?」

 ハルナはきょとんとした顔をした。


 あれだけ、乙女ゲームについてオレに熱心に解説しておきながら、本当に頭になかったようだ。


「まさか、貴女……。真面目に育成やってるの?」

 ハルナの言葉にシルヴィクル(姐さん)は目を丸くする。


「真面目に……って、神子は人類を繁栄させるために呼ばれたのですよね?」

「馬鹿ね。手っ取り早いクリアは、神様を落とした方が早いのよ」

「ワタシも……、人類の人口を増やすために頑張るって話だと思っていましたが……」


 この状態はアレだな。


 合コンとかに来て、男を落とそうとギラギラしている女の横で、目の前にある食事や酒しか見てない女。


 本来、合コン……「合同コンパ」は、参加者が費用を出し合って飲食をする懇親会のことだ。


 だから、飲食を目的としても間違いではないし、参加した人たちが親しみを深める方向でも間違いではない。


 ただそれぞれの目的が違うために空気が異なるだけの話。


 そして、「すくみこ! 」というゲームが「救いの神子」たちによる星の育成を目的としたものあり、同時に周囲にいる神々との親睦や深交のためでもあるのならば、方向性の違いが現れてもおかしくはないのだ。


「私たちはこの世界にとって『異物』って話はしたわよね」

「「はい……」」

 そう言えば、最初の自己紹介の後、オレたちにそんなことを言っていたな。


 同時に、オレたちが素直に頷くと、シルヴィクルは満足そうに微笑みながら……。


「だから、ほっといてもいずれは元の世界へ還されるはずなのよ」


 そんなとんでもないことを口にしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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