火の神子は設定を理解する
「ふぅ~~~」
オレは、自分のベッドに座って大きく息を吐いた。
ロメリアは先ほど部屋から退室させている。
少しだけ一人になって考える時間が欲しかったのだ。
―――― ちょっと押し過ぎたか?
明らかに男慣れしてない女に対して少しばかり攻めすぎた感はある。
焦ったのは認めよう。
だが、この世界にいつまで共にいられるか分からないのだ。
短期決戦を計るのは当然だろう。
だが、あまり攻めすぎてその結果、避けられても本末転倒というやつだ。
ここらで少し抑えることにしておこう。
それに……、オレは神子としての務めも果たさなければならない。
どこかの神子みたいに、始めから「面倒だ」と言い切って逃げようと思えば、逃げられるのかもしれない。
だが、オレがそうすれば、火の大陸は今以上に荒廃し、結果、風の大陸に影響が出てしまう。
それは避けたい。
あの「赤イケメン(笑)」の話ぶりから、オレが役目を放棄すれば、その皺寄せは確実にハルナにいくようになっているらしい。
それだけは絶対に阻止してやる。
オレは改めて、ハルナから渡された紙を広げた。
そこには性格通りに整えられた文字が並んでいる。
ノートのように罫線も引かれていない白紙なのに、真っすぐ書くことができるのは一種の才能だろう。
ただ……漢字は綺麗なのに、平仮名は妙に丸っこくて可愛い。
文字は人間を表すと言うのは本当だなと思える。
書かれている内容に目を通す。
ハルナからの情報。
例の乙女ゲーム……、「救いのみこは神様に愛されて! 」の内容だ。
分かりやすく女好みの展開だとは思う。
だが、選べる主人公が全部で7人。
神子全員がヒロインとか……、十年前のゲームだというのに限られた容量の中で製作者が頑張ったと言わざるを得ない。
全てにおいて平均以上の能力を持つ金色の髪と紅い瞳のアルズヴェール。
通称、赤のみこ。
つまりは、オレのこの身体だ。
メインヒロインらしい。
だが、何故、その中身に選ばれたのが、男であるオレなのかはよく分からない。
ゲーム中では放っておいても攻略対象の好感度が上がりやすいらしい。
そんな特殊能力は要らない。
寧ろ、邪魔だ。
男にモテても嬉しくない。
まあ、この世界ではオレが「赤イケメン(笑)」だけに関わっていれば、余計な絡みもないだろう。
黒く長い髪に黒い瞳。
今回、選ばれたみこの中でも、最も背が低く童顔なのに胸が大きいラシアレス。
通称、橙のみこ。
つまり、ハルナの身体だ。
そして、原作となっているあの少女漫画の主人公をモデルとしているらしい。
実際、よく似ている容姿だと思う。
あの少女漫画の主人公を3D化したら、あんな感じだと思うし、オレも初めてあの姿を見た時にそう思ってしまったぐらいだ。
尤も設定上は、遠い祖先らしいから、それ自体は問題じゃない。
だが、そのラシアレスの胸の大きさは「主人公の逆襲」とか「作者の願望」などと書かれているのはどういうことだろう?
そんなことを書かれても、正直、取り扱いに困る情報でしかない。
確かに、あの少女漫画の主人公の胸はそこまで大きくなかったけど……、それだけでそこまで考えるとは、女の発想は怖いとも思う。
ゲームの方は半端じゃなく「ドジっ娘」らしいけれど、中身がしっかりしすぎてそっち方面の魅力は皆無だ。
張り詰めた雰囲気の割に、隙はあるけどな。
紅いポニーテールに茶色の瞳、170センチと女にしては長身なシルヴィクル。
現実のオレよりは少し低いけど、このアルズヴェールの身体から見れば、確かに高かった気がする。
通称、黄のみこ。
ゲームでは頭脳派の割に内気で自虐型らしいが、中身がアレだったので、その印象は吹っ飛んでいる。
そして、主張が堂々とし過ぎて引く。
まあ、分かりやすく三十路を拗らせた感もあった。
十年前のゲーム……つまり、二十歳越えで「乙女ゲーム」と呼ばれるものをやっていたということだよな?
いろいろ淋しくないか?
もしかしたら、ハルナ以上に男に縁のない生活をしていたかもしれん。
いや、縁があっても、相手がまともとは限らないのか。
それは身に染みてよく分かっている。
緑色の瞳、緑の髪を二つに丸めた作中、一番の巨乳設定らしいマルカンデ。
確かにデカかった。
ただ、普通の身長だから、ラシアレスよりはその胸が目立っていない気がする。
それにオレはそこまで巨乳が好きではない。
通称、緑のみこ。
ゲームでは、薄着をしていているだけで妖艶な魅力が漂うお色気担当だったらしいが、中身が男嫌いな時点でそれは無理だと思う。
背後をビクビクして見ていた印象しかない。
あれでは色気などでないだろう。
胸だけで男が釣れると思うなよ?
水色の短い髪、黒い瞳、どちらかといえば、ふくよかな体型のトルシア。
通称、青のみこ。
ゲームでは食いしん坊でほんわか癒し枠だったらしい。
その結果の体型だろう。
だが、その中身は分かりやすく男目当てを宣言する肉食系女子だったため、癒し要素は全くなかった。
それよりはオレはハルナを見ている方がずっと癒される。
ハルナに向かって一方的にライバル宣言をしていた割に接触はほとんどないので、正直、ホッとしている。
あんなのに関わられて、時間をとられるのは勿体ない。
蒼い瞳、こげ茶色の髪の毛を後ろで三つ編みをしているのがキャナリダ。
通称、藍のみこ。
だが、あの様子ではその中身となったBLスキーな女のせいで、「腐った愛のみこ」といった方が近いのではないだろうか?
ゲームでは腹黒で知的なキャラだったらしいが、自分の煩悩を隠せてない時点でいろいろ違い過ぎる。
できれば、関わりたくない。
変な妄想に登場させられるのは本当にごめんだ。
銀髪、紫色の瞳のリアンズ。
ハルナの記録を見た限り、なんかこの女の説明だけ妙に熱が入っているのは気のせいだろうか?
やたらと説明の行数が多い。
ハルナにとって、一押しのヒロインだったのかもしれない。
通称、紫のみこ。
紫の大陸って……、多分、あの少女漫画内で「闇の大陸」として描かれていた場所のことだよな?
原作の少女漫画のせいか、その大陸に良い印象はほとんどない。
あの少女漫画の中では、全ての発端であり、災厄の基ともなった場所だ。
そこの国王は最後まで吐き気がするぐらいの屑だったし、その息子は同じ男として同情したくなるような境遇だった。
リアンズはゲームでは気弱で病弱なキャラクターだったらしい。
少し動いただけですぐ行動不能になるために、ヒロインの中では最も高難易度だったそうだ。
その中身は、世界を救うことを「面倒」の一言だけで片付け、引きこもり宣言するような、正直、よく分からない女。
だが……、なんとなく引っかかるものを感じてはいるのだ。
一度だけしか見ていないが、作り物を思わせるような女だった。
神子の身体が、作られた人形のように見えるのは当然だ。
それ以外の神子たちだって、その肉体は平均以上だと思う。
だが、あの「上野美影」と名乗った女は、その中身まで作られたような印象を覚えたのだ。
あの引きこもり宣言も、まるで、人と関わらないことで、何かを隠そうとしているようにも見えると思うのは考えすぎだろうか?
ゲームの目的……、クリア条件を見る。
7人の神子がその攻略相手となるのが相方の神たちプラス創造神と結ばれるとエンディングを迎える。
……おいこら?
星の育成どこ行った?
いや、乙女ゲームなんだから、どこかに行ったのか。
一応、一番下に申し訳程度に書かれてはいた。
目標とする数値まで人口が増えれば、そこでエンディング分岐となるらしい。
……そこでも、男に告る展開となるのが解せない。
好感度が高くないとそれも上手くいかないらしいが。
つまり、このゲームの主題は、救いの神子たちと神々による様々な恋模様ってことだ。
……星の住人たちからすれば、マジでふざけるな! って暴動を起こすレベルの話じゃねえのか?
人口衰退が与える影響による意識が希薄だからまだなんとかなっているようだが、危機感が強くなれば、そんな呑気なことは言っていられなくなる気がする。
とりあえず、真面目にいろいろと考えてみるか。
今のこの環境を少しでも長く続けるために。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




