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少女漫画に異質混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】少女漫画と仮定する
19/60

火の神子は方向性を考える

 さて、当面の目的は分かった。


 オレの任務は「火の大陸」を救え。


 大雑把な割に、あまりにも壮大な話過ぎて、頭痛がする。


 人口減少が直接の問題というわけではないだろうが、魔力が強く魔法力の多い「火の大陸」の住人が少なければ、その分、空気中に含まれている魔力も落ち着きがなくなり、この世界が大変なことになるらしい。


 ……何故、そんな重大な問題を、「見た目は少女、中身は野郎」の俺なんかに押し付け……いや、任せるのか?


 仮に、この世界があの少女漫画の時代より、遥か昔の話だというのなら、少し、間違えればあの世界そのものが歴史から消えてしまう可能性もある。


 もしかしたら、たくさんある未来の可能性の一つとして描かれた漫画だったのかもしれないのだが、あの世界……いや、あの主人公がこの先の未来で生まれない可能性はできる限り否定したい。


 つまり、頑張るしかないということだな。


 虚構と現実の区別がついていないと思われるかもしれないが、そんなの今更だ。

 こんな非現実な状況にある人間に対して、そんな道理を説く方がおかしい。


 一晩経っても、何も変わらなかったのだ。


 異世界転生だか、異世界転移だか分からないけれど、すぐに元の世界に戻ることができないのなら、開き直って受け入れるしかないよな?


 だが、どうする?


 人口減少はともかく、少子化については、現代日本のお偉いさん方が無駄に年月を費やしても解決できないような問題だ。


 あいつら、あんな学級会みたいな纏まらない議論ばかりしているけど、オレよりずっと頭が良いおっさんや、おば……いや、おねえさんたちの集まりなんだぜ?


 しかも、オレよりずっと年食っ……長く生きて、経験を積み重ねているんだ。


 そんなヤツらが高い給料をもらって、善処して、前向きに検討しても、解決できないような問題を、一介の学生にやれとか……、普通に考えればかなり無理筋の話だよな?


 それでもやれと言われた以上、やるしか道がないのも事実。

 仕方がないから、頭を使うしかない。


 オレ、勉強、苦手なんだがな。


 しかし、教科書を含めた資料もない。

 記録をまとめるノートもない。

 疑問の全てを解決する便利なスマホやPCもない。


 詰んだ。

  もうだめだ。

   おしまいだ。

    できるわけがない。


 「赤イケメン(笑)」の偉そうな顔を思い浮かべても、やる気が出ねえ……。


 逆に、なんであいつらのために動かなければならないんだ?

 そんな疑問すら湧いてくる。


 この世界の人間って、どうやって学んでいるんだ?

 いや、何も学んでいないから、大ピンチな状態なのか。


 だが、スマホのない時代にも文明はあった。


 世界史は詳しくない。

 日本史は、戦国時代しか知らん。


 やっぱり詰んだ。


 目を閉じると浮かぶのは、昔見た少女漫画(ゆ め)


 彼女はいつもどうしてた?

 ぐるぐると思い悩んで、逃げられないように何度も何度も追い込まれ、追い詰められた女性。

出口のない迷路のような場所(じごく)で、天から齎されたか細い蜘蛛(うんめい)(意図)を、掴み取り、引き千切り、また別の運命を引き寄せ、手繰り寄せて成長していった。


「ラシアレス……」


 あの少女漫画に出てきた誰よりも強く輝く主人公(せいじょ)


 その姿を思い出すだけで身体から無駄な力が抜けていく気がした。

 あれだけ読み込んだ作品だ。


 目を閉じても……、いや、目を閉じた方がより鮮明に彼女を思い出せる。


 黒い髪、黒い瞳。

 その強い意思を秘めた気高くも熱い魂は、多くの人間を強く引き付け、激しく弾き飛ばして我が道を突き進む。


 そして、「運命」はいつだって、強い意思を持つ人間にこそ、その力を貸す。


 ―――― 運命の女神(Fortune)勇者(favors)味方する(the brave.)


 この世界はそう定められていた。


「『強い思いが世界を動かす』……ってか」


 あの少女漫画によく出てきた台詞を呟くと、オレは気合を入れ直すために、両頬を軽く叩く。


 これは作中でその主人公がよくやった()()の一つだった。

 気分を入れ替え、気合を入れるための儀式のようなものだ。


 可愛らしい見た目に反した熱い体育会系少女。


 もう一人の……、この世界の「ラシアレス」はどうだろう?

 その見た目は一部を除いてよく似ていた。

 だが、その中身は?


 会話を交わした感じでは、常に線を引いて、距離をとって話をしている印象だった。

 あれではよく分からない。


 時々見せる隙のある言動こそが素だと思うが、それすらも計算する女もいる。


「ま、踏み込んでみますか」

 近付かなければ何も始まらない。


 オレは行動することにした。


 ―――― が、割とすぐに断念することになった。


 この世界、スマホがねえ! PCもねえ!! 電話もねえ!! FAXもねえ!! 何より電気が使えねえ!!


 どうやって、連絡をとれば良いのか?

 あの「赤イケメン(笑)」とは、奇妙な鏡で連絡をとることができる。


 だが、それ以外の人間と連絡をとる方法が分からない。


 思い出せ、オレ!!

 あの少女漫画では別の場所にいる人間とはどうやって連絡をとっていた?


 携帯電話はあったようだが、スマホがなかった時代の話だ。

 だが、もともとこの世界では電気製品は持ち込んでも一切使えなかったという設定があった。


 だから、そこは諦めている。


 あの主人公はどうやって、誰かを呼び出していた?


【かも~ん!!】

【お前……、用もないのに呼び出すなよ】


 作中の台詞が蘇る。

 ニコニコ笑顔の可愛い主人公に、散々振り回される疲れた顔の護衛の表情まではっきりと。


 あれは、夜の買い物(デート)の前の場面だった。

 夜に主人公が、初めて訪れた町で、護衛を召喚して出かけようとしたのだ。


 だが、あの時点で主人公は魔法が全く使えないから、魔法で呼び出したわけではない。


 主人公は何で呼び出した?

 手に何か握っているところまでは思い出せた。


 もっと拡大したい。

 オレの脳内映像にはピンチアウト機能はないのか!? もしくは、ズーム機能。


 さらに記憶を掘り起こして丸くて、小さな珠を握りしめている主人公を思い出した。


 アレは……。


「そうか!! 通信珠!!」


 あの「赤イケメン(笑)」の鏡を見た時に思い出したはずなのに……、何故、忘れてしまっていたのか?


 勉強に自信はないが、あの少女漫画は細部を記憶するほど読み込んでいたのに、あれだけ頻繁に出てくる設定を忘れているなんて。


 これは……、この身体に憑依した影響なのか?


 いや、そんなことはどうでもいい!


「ロメリア!!」

「お呼びでしょうか?」

 呼んだら出てきた。


 一体、どこに潜んでいたんだ?


「他の人間と連絡をとる手段ってある?」

「他の……、人間? 神官たちと連絡をとられるのでしょうか?」

「あ?」


 神官だと?

 あの……、いろいろと胸糞が悪くなる存在か?


 その神官という人間たちのせいで、主人公やその友人である男がかなり苦労することになるのだ。


「神子であるアルズヴェール様が連絡をとることができる外部の人間となると、神官のみとなります。鏡の間に行けば、いつでも話すことができると伺っておりますが……、今から会われますか?」

「いや、いい」

 どうやら、「みこ」は必要以上に外と連絡をとることが許されていないらしい。


 それは、単純に余計な知恵を付けて欲しくないのか。

 それとも、完全に「籠の鳥」とするつもりなのか。


 でも、知識がなければ、現状の打破もできないから、神官ってやつらだけは使わせてくれるってことか。


 オレはあの少女漫画を読んで以来、「神に仕える者」という言葉に猜疑心を抱くようになっている。


 神を妄信するヤツらも多い。

 その神の立場から見れば、「神官」は、実に都合の良い駒として動いてくれることだろう。


「他の『みこ』たちと連絡をとることはできない?」

 一応、確認する。


「他の……、『神子』たち……、ですか……?」

 何故か戸惑いがちな返答。


 そして、その瞳は「何、言ってんだ、こいつ? 」とでも言いたそうに見えた。


「そう。できないのか……」

 やはり、神たちはこの状況を憂慮し、どんな手を使っても解決しようという意思はないらしい。


 本来なら、あの「シルヴィクル」という「みこ」が言ったように、協力した方が良いのだ。


 集団で思考すれば、確かに方向性の違いで荒れることもあるが、人一人の脳で考えるのには限界がある。


 お偉いさんたちが解決できないほどの難問ならば、尚のことだ。


「ご無礼ながら、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?」


 確認って何のことだ?


 そう問いただす前に……。

「アルズヴェール様は『火の大陸の神子』。それなのに何故、他大陸の神子と連絡をとりたいなどとおっしゃられたのでしょうか?」


 そんな不思議な質問をされたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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別視点
乙女ゲームに異物混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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