勝手な「みこ」たち
橙がシンボルカラーのラシアレスの次は、その隣に座っている黄色のレイって女の番だが、既にそいつは紹介を終えている。
そのため、緑色の席に座る女の番になった。
「私は『マルカンデ』らしいです。原作も読みましたし、ゲームも一応、クリアしています」
緑色の髪、翡翠の瞳を持った女は挨拶を始めた。
珍しく色が全て揃っている。
相方と色合いが似てしまうだろうけど。
うむ。
それにしても、でかい。
巨乳が好きじゃなくても、ここまで大きいと、どうしても、目が吸い寄せられてしまうのは、悲しい男のサガだろう。
左隣にいるラシアレスも大きかった気がするが、この女はそれ以上とみた。
オレの瞳はそう言っている。
しかも偽乳……もとい、不自然な嵩増しもしていないように見えた。
つまりは、天然!! これは凄い。
あ~、でも、やっぱ、オレ、ここまででかい胸は無理だ。
胸で優劣を計る気はないが、それでも、自分の好みから外れていることは分かる。
巨乳と美乳は違うのだよ、ワトソンくん。
それでも、触る機会があると、それまで、貧乳、微乳派だった男たちも、一気に巨乳派へと趣旨替えするほどの魅力らしいけどな。
残念ながら、オレの歴代彼女には、巨乳と呼ばれる存在がいなかった。
「年齢は23歳。本名は『高崎 星南』です。私も生きていたはずなので、転生者ではないです。ゲーム内の本命、そこまで特別視する神様はいません。その……、男の人、苦手なので、神様でもあまり接したくないです」
なるほど、分かりやすい男性恐怖症アピール。
しかし、それは人生、半分、損してることになるな。
世の中の半分は男だ。
寧ろ、世界の人口比率ではやや男の方が多いらしい。
勿論、統計上の数字だから、戸籍など記録されていない存在は除くけどな。
「え~? なんで~!?」
緑髪の女に絡む水色の髪の女。
「それは大変ね」
レイも微笑みながらそう続く。
慰めているように見えて、優越感が隠しきれてねえぞ、31歳。
男が苦手ってだけで、そのことが、人間として劣っているわけでもない。
世界は狭くなるだろうけど。
だが、平均から分かりやすく外れてしまう人間を見下すヤツは、どうしたってなくならないのだ。
「現実の男の人はがさつで乱暴な方が多いではありませんか」
緑髪の女はきっぱりと言い切った。
うん、分かった。
まずは殴らせろ。
そして、オレの同情心も返せ。
現実の女だって、ガサツで乱暴なヤツが多いぞ。
寧ろ、オレの周りでは、男の方が弱い。
この女は、「肉食系女子」、「草食系男子」という言葉を知らんのか?
「大丈夫だよ! ここは『すくみこ! 』の世界! 神様はムダ毛もないし、トイレにもいかないんだから! まさに理想の男たち!」
昭和のアイドルかよ?
そして、それが「理想の男」とか、変な女だな。
大体、ムダ毛がないのは、男性ホルモンの欠如だ。
意図的に処理していないのなら、まず、ホルモン系の病気を疑え。
そして、排泄障害など論外だ。
即、病院に行け。
「次は私ね!」
先ほどからずっと騒がしかった水色の髪の女が嬉しそうに立ち上がる。
そういえば、自己紹介はまだだったな、この女。
ずっと喋りまくっていたのに。
「『トルシア』担当! 『春田 都』! 27歳! 私も死んでないはずなので転移者で間違いなし! 本命は創造神サイエクさま! でも、無理っぽいので次点の橙羽ヴェント様を落とします!」
すげえ……。
バカだ、この女。
今の言葉は高々と宣言することではないだろう。
まあ、牽制の意味なら悪くない。
こんな女に狙われる神なら、イタい目に遭う前に回避を選ぶだろうからな。
しかし、「橙羽」は風の神か。
そして、名前は「ヴェント」。
この名前も、あの少女漫画と一緒だ。
「つまり、貴女がライバルよ! ラシアレス!! 見てなさい!」
ああ、そうか。そうなるのか。
寧ろ、この女がラシアレスの相方の相手をしてくれれば、必然的に余ったラシアレスは無傷となる可能性が生まれるわけか。
そんな単純な話じゃないとは分かっている。
単に確率の話だ。
だから、頑張れ、水色。
オレはこっそり、応援してやる。
そして、ついでに自分の相方も一緒に相手しろ。
「よく分からないのですが、わたしに協力してくださる神様は、『ヴェント』様ではなく、『ズィード』様という名前でしたよ?」
水色髪の言葉に対して、ラシアレスは首を傾げながらも答える。
……やはり、名前が違うのか。
あの少女漫画とも違うってことになる。
この違いは大きい。
神の一人が違うだけならともかく、他にも名前が異なる神がいるのだ。
もしかしたら、大陸を守護する「七羽の神」は全員、名が違うかもしれない。
「え? そうなの? でも、良いわ。私の中では『橙羽』は『ヴェント』様なのだから!」
いや、良くねえ。
相手の名前ぐらい覚えろ。
仮にも好きな奴だろ?
睦言中にうっかり相手の名前、間違えてみろ。
修羅場になる未来しかねえ。
オレの友人はそれで彼女と別れたぞ。
最中に、自分以外の男の名前を呼ばれたらしい。
なんでも、元カレだったとか。
酷い現実に、同情するしかなかった。
お前たち「みこ」の名前をまだ覚えられないオレが思うのも、なんだがな。
「私は『キャナリダ』らしいです。おかしいな~、即売会中だったはずなのに……」
こげ茶色の髪、蒼い瞳の女はそう言いながら、首を傾げた。
「『佐原 新』です。年齢は29歳。ペンネームは『裁縫 たぬ』です。生産性のない恋愛を隈なく観察するのが好きなので、本命は青×赤、次点は紫×黄です! どちらも逆は許せません!」
拳をぐっと握りしめながら先ほどの、水色髪と同じような宣言をする女。
だが、悪い。
この女が何を言っているのか、全然、分かりません。
ああ、でも。どこかで似たようなことで騒いでいる女たちは見たことがある。
確か、高校の時の図書室でだったか?
でも、話したことのない女たちだったから、詳しくは聞いていなかったんだよな~。
どこか、近寄りがたい妙なテンションの会話だったし。
「「は? 」」
レイと水色髪が目を丸くする。
どうやら、一般的な話ではなかったらしい。
そうなると、ネットスラングか?
「まさかリアルで神様の絡みが見れるようになるとは! 余すことなく観察して資料をいっぱい持ち帰らなきゃ! 実は、3次のBLって、絶対、無理だと思っていたけど、あれなら許せる!」
ちょっと待て?
その発言なら、オレも少しは分かる。
具体的言えば、「BL」という単語が何を意味するかは分かる。
この女はそっち方向の趣味か!?
「なんで、BL畑が乙女ゲームなんてやってるのよ!?」
水色髪が反射的に叫ぶ。
「そこに綺麗な男性がいっぱいいるから。女はいらん。邪魔だから」
いや、大事だぞ、綺麗なね~ちゃんは特に。
この世に女がいなければ、それこそ人類全滅、待ったなしだ。
水色髪とBLスキーが言い争いを始めた。
うん。
女の喚き声、うるせえ。
「え、えっと……。最後に、『リアンズ』? 自己紹介をお願いしても良いかしら?」
収拾がつかなくなったのを見届けた後、レイが最後の一人に声をかける。
最後の自己紹介となったのは、銀髪で紫の瞳、色白の不思議な女だった。
中二病を患った患者たちが好きそうな容姿だと思ったのが、その女を見たオレの第一印象だったと思う。
あの導きの女神「ディアグツォープ」様を見ても、興味なさそうな顔をしていたところが、印象深い。
「『リアンズ』、『上野 美影』、15。死んだ覚えもないし、原作もゲームも知ってる」
無口系美少女にありがちな淡々とした喋り。だが、聞き取りにくいほど小声でもない。
その外見と相まって、まるで、始めから何かのキャラ設定をされているみたいに、「作り物」を彷彿させるような女だった。
その女は口にする。
「だけど、私は、人類を救う気はない」
そんな当然のことを。
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