41話 雨 1
空を何度見ても。
青空は、ドコにもなく。
日光すら遮った、雲は、森さえ怪しく変え。
沙羅は、何度も、思い知らされるのだ。
まだ、この大自然の中、運良く、倒れていないだけだと。
水を吸った草のにおい。
むせ返る、大地の匂いが。
もう、近いと知らせ。
黒からこぼれ出た水は、沙羅の服を濡らし。
上手くいっていた、全てを否定するように。
全てを、覆い隠していく。
山の麓は、天気が変わりやすいだけではなく。
雨雲を、せき止めるのだから。
雨そのものも、長く、強く降りやすい。
都会よりのゲリラ豪雨なんて、すぐ終わってしまうのだから。
雨の被害を考えれば、比では、ないだろう。
治水工事も、されていない大自然。
水は地面が吸い上げるが。
吸いきれなくなれば、どうなるのか。
井戸はなぜ、地面を深く掘れば。
程度はあるとは言え、掘り当てることがデキるのか。
なにかで見た映像が、沙羅の脳裏をかすめ。
滝周辺の様子を見て。
ジュライ子の、言葉に。
川の氾濫が怖いと、最初に思ってしまった自分を恨む。
正解だっただろう。
だが、百点ではない。
サバイバルは、正解できなかった分。
例外なく、当人に返してくる。
テストで、満点ではなくても、こんなもんだと思える。
社会で使わないのだから、必要ないと、言い訳がデキる。
だが、沙羅がやっているのは、サバイバルテストだ。
取れない点数分。
無視できない、明確なペナルティが、自分に降りかかる。
汗なのか、水なのか。
塗れたTシャツに、奥歯を噛みしめ。
光などない空に、白く筋を引く、水が無数に見え。
沙羅の全身を、容赦なく打ち付けた。
悲しくて染まった空は、もう限界だと。
涙腺を緩ませ、大声で泣きわめく。
地面を水で叩きつけ。
大地の音が、苦痛で吐き出した、おえつ、なら。
ゴーと、全ての音を飲み込む雨音は、叫びだ。
水もしたたった、陰キャの沙羅は。
切り倒した丸太と、木の根に。
刈り取った草を、山積みにした真下の隙間で固まり。
迷いと、想像もしなかった事態に困惑する、開拓組と合流し。
抜き取った、切り株に腰をかける、みんなにならい、沙羅も腰をかけ。
当たり前の事態を。
当たり前だと思っていなかった、自分に奥歯を噛みしめる。
ただの雨、だが。
「山、なんですよね…」
なんだコノヤロウと、言う気力もなく。
沙羅は、ダメ子の言葉に、目を閉じる。
遭難した場所は、大自然のど真ん中。
法の力という力に頼り。
生まれた彼女たちによって、支えられていたから、そこまで考えていなかった。
それは、言い訳でしか、ないのだろう。
自然環境、そんな言葉では、足りない。
大きな、断崖絶壁の山の近くを、練り歩いていたのだ。
雲よりも高く、大きい山・丘の並びの周りにある森を。
川が流れ、海が近い立地を。
雲とは、なんなのか?
目に見えない水蒸気が、上空で冷やされ。
目に見える液体に戻った姿だ。
山の天気は変わりやすい。
雲に近ければ、なおさらだ。
雲をせき止める、大きな山丘が大きく、海が近ければ。
川や湖が、探せば見つかってしまうほど、多いなら。
湧き水が、掘り出せてしまうなら。
お土地柄。
水源に恵まれているとは、どういうことなのか。
沙羅は、身をもって痛感したのだ。
雨が降り出して、すぐに行動を起こしたが。
新拠点地から川まで、歩いて10分ほどの距離がある。
朝方、みんなで歩いてきたアトが残され、迷わず進めるが。
物理的な距離が縮まる訳ではない。
降り初めの雨を受け。
機転を利かせ、雨宿りスポットを作り。
避難した、ダメ子・ブルースカイ・岩沢・スレイのもとに。
ジュライ子・沙羅・スレイは、駆け込んだ。
ほとんど裸の、岩沢とジュライ子には、それほど関係ないのか。
それとも、ほとんど衣服がないから、そう、思えるのか。
和装のダメ子、ブルースカイの衣服からは、水滴が落ち。
スレイの白と青のワンピースも、ピッタリと、体に張り付いている。
沙羅も、変わらない。
Tシャツ、Gパンがシッカリと水を吸い込み。
足回りには、はねた泥が、靴は、茶色に染まっている。
ペッタリと、肌に張り付いた衣服に、吹き抜け。
冷たい風が、体温を奪い、体が震え始めた。
ただ、丸太と、刈り取った雑草を積み上げた、一次避難所。
隙間から、水が、したたり落ち。
隙間風が容赦なく、体力を削る。
ただの、にわか雨。
一時しのぎの、雨宿り。
誰かとの相合い傘。
雨から想像する、甘酸っぱさがドコにもなく。
傘すら吹き飛ばす強風が、積み上げた雑草を吹き飛ばし。
傘が小さいから、彼女を優先しているにも、かかわらず。
二人とも、ずぶ濡れになる雨量が叩きつける。
バケツを、ひっくり返したような、雨。
扇風機を、目の前に置いたような、強風が合わさり。
ゲリラ豪雨ではなく、ゲリラ台風と言い切れる。
強く吹き抜ける風が、横殴りの雨を作り出し。
雨宿りスポット下にも、容赦なく、雨が吹き込んでくる。
風で弄ばれる木の葉の隙間から、雨が容赦なく降り注ぎ。
どこでも焚き木を行えるが。
上下から水が侵入しては、火は、スグに消えてしまうだろう。
地面は、シッカリと水を吸い込み。
アスファルトなどない、地面は、土だけだ。
足跡が、クッキリ残るほど、ぬかるみ。
走れば、足をすべらせて転ぶと、思わせ。
靴が地面に張り付き、歩くのさえ、苦労する。
雑草の上を歩く分には、いくらかマシなのだが。
今、まさに、地面をキレイにしている所に降った、大雨。
人が住みやすい環境を作り出すには。
悪天候に弱い環境を、一時的に、作らなければならない。
作業途中なのだ。
対策など存在せず。
上空にある雲を、一瞬で消滅させる方法が、ない限り。
低、高気圧なんてモノが、なくならない限り。
雨と、風が消えることはない。
岩沢が、引きずった丸太で、できた、地面のわだち。
木の根っこを引き抜き、できた、くぼみには。
水が溜まり。
地面が吸収するよりも、降る雨量が多く。
土は、泥に変わっていた。
日は、一番高く昇っていると、胃腸が訴えるが。
こう、雨が降っては。
もう、食べ飽きたと馬鹿にしていた、紫ジャガすら口にできない。
焼こうと用意していた、芋だけ。
荷物として、両手に重くのしかかる。
火が使えないなら。
食料は、菜っ葉に限定され。
濡れた服を、乾かすこともできず。
せいぜい、手で絞って軽くするのが、精一杯だ。
服を絞っても、軽くなるだけで、容赦なく体温を奪う。
体の小さいスレイは、体を震わせ、寒さに耐えていた。
雨は。
弱まることを知らず。
一息ついた、沙羅達の頭上に降り続け。
適当に積み上げた、草木の隙間からこぼれ。
冷たい水滴は、沙羅達の体をなでた。
降り止んだところで、ぬかるんだ地面の上。
このまま、野宿もできない。
弱い雨なら、通り過ぎるのを待てば、十分だっただろう。
だが、本降りが続けば。
雨宿りスポットは、外にいるより、マシなだけのモノに、成り果て。
内側にいても、ボタボタと落ちてくる水に。
沙羅達は、うんざりしながら、空を見上げた。
「この雨、ヤベェなぁ…」
「もう、こんな囲いじゃ、限界です、沙羅様」
「いつまでも、このままじゃなぁ…。岩沢に部屋を作ってもらうか?」
「ああ、その手が、ありましたね! さっさと、作ってもらいましょう」
岩沢は、万能だった。
「このままじゃ、スレイが不憫すぎる」
「草も木も切り終わったあとで、本当に良かったです」
彼女達は、沙羅が席を外している間に、全て、終わらせたようだ。
問題も起こさず。
サボりもせず。
言われたことをこなしていることに、沙羅は驚き。
真面目なのか、それとも、下心のなせる技なのか。
深く考えるまでもない。
おそらく、両方であり。
全て、間違っているのだろう。
「…まったくだ。岩沢」
沙羅は、岩沢を手招きし。
木の棒で、家の簡単な絵を地面に書いて、教え始め。
その姿を見て、ダメ子・ジュライ子は、難しい顔をし。
ブルースカイは、とても複雑な感情を、にじませていた。
スレイも一緒に、お絵かきタイムに参加し始め。
「ジュライ子ちゃん、私たち、ピンチよね?」
「かなりピンチですよ、先輩」
呟きは、雨の音が、かき消し。
終わりは、岩沢の「は~い」の一言だった。
「岩沢姉さん…。姉さん?」
「ブルースカイちゃん、深く考えたら負けよ」
「ダメ子姉さん…」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「……」
理不尽だった。




