40話 遭難6日目 言葉通りの新天地 1
沙羅は、スレイを抱えるように目が覚め。
外の寒さよりも、疲労感が勝ったのか。
一度も、目が覚めることのないまま、朝を迎えた。
子供の体温の高さは、ダテじゃないのか。
一人で寝ているより、寒さはマシだったのもあるだろう。
沙羅は、体を、ほぐすように起き上がり、ジュライ子と目が合った。
「おはようございます」
寒さで、目が覚めなかったのは。
一晩、火が消えることが、なかったから。
沙羅は、重要な仕事を終えた、ジュライ子と。
沙羅は、火の番をかわり。
ジュライ子は、みんなを起こしにまわる。
惰眠を貪りたくなる朝は。
この野宿でやると、逆に体力を失ってしまう。
寝て・食べ・活動する。
最低限のローテーションコトを、崩してはならない。
欲求に負けると、足りないモノで苦しむことになり。
補おうにも、時間が許してくれない。
しまいには、完全に疲弊してしまう。
日が出たら、眠たくても起きて。
一日を開始するのが、体のためなのだ。
浮浪者の方々は、町中で火をおこせないので。
夜に寝てしまうと、死んでしまうから。
昼夜逆転させ、夜に歩き回って体を温めるらしいが、ソレは別の話だ。
火が、あるか・ないかで。
夜に寝ることが、デキるか、どうか、が、決まると言う話である。
ジュライ子は、みんなを起こし終わると。
朝ごはん用に作っていた芋を、網の上にのせ。
焼いている間に、スレイ以外の皆は、川で身なりを整えた。
聞き分けのない岩沢を、ジュライ子が、川の中へ連れて行く。
芋が焼き上がる良い時間に、沙羅は、スレイを起こし、川へ向かい。
ダメ子が火の番を代わり。
ブルースカイは、何匹か魚をとってきて、網の上にのせ、焚き木を囲む。
同じ種類の川魚を、とってくるのは、きっと、偶然ではないだろう。
そのまま、皆で朝食を済ませ。
焚き木に水をかけ。
水筒の水を入れ替えれば、準備は完了だ。
迅速かつ、無駄なく、速やかに。
「野宿に慣れ始めてるのか、俺達は…」
体に刻まれた野宿のツラさ。
横穴の快適さは。
こういった行動に、影響を与えるのだろう。
「特に話し合いもなく。
自分たちの役割を、淡々と、こなしてるだけで、終わりましたね。」
「無駄な体力を使わなくて済むのは、良いことなんだが…」
「野宿に慣れていくのが、良いことなのか、私には、分かりません」
「良いことだと思っとけよ!」
嫌なことを、早く終わらせることは、良いことである。
「う~ん。複雑な気持ちなんですよね」
昨日、ブルースカイがあると言った、絶好の拠点ポイントへ向かい。
「飛べ! ブルースカイ!」
げんなりしている、ブルースカイは、翼を広げ空に上がっていく。
こうして、沙羅達は、また、森の奥に進行した。
効率よく進めるように、なったとはいえ。
一番、疲れるのは。
前で草刈りをしているダメ子でも、地面を踏みならしている、岩沢でもなく。
空を飛んで、行ったり来たりを繰り返し。
声を上げる、ブルースカイだと言うことを、誰も気づかない。
気づかないから、ねぎらいもない。
最初は、褒められる自分を想像して、やる気にもなったが。
今は、ソレが当然だと言う、空気がデキあがり。
何か言いたくても、末っ子の立場が、全てを覆い隠していく。
この集団の中で。
一番、重要な仕事をしているハズの、ブルースカイの士気は、低かった。
低すぎて。
見下ろした沙羅達を見て、ため息しか出てこない。
「はぁ…。ウチ、なんで頑張ってるんだろ?」
頑張らないと、立場が、なくなるからである。
何かをしても、現状維持という名のマイナス結果しか得られない現状が。
さらにやる気を、そぎ落とす。
「はぁ…」
ある程度は、身振り手振りで伝わるとはいえ。
沙羅達に見えるところまで、近づかなければならない。
これが、また、精神的に、クるものがある。
ブルースカイ一人で行けば、スグに到着する場所に。
数時間かけて案内する作業。
一人だけ、労働ウェイトが、かなり高いのだ。
ソレを伝えようにも。
ブルースカイしか、デキないから。
空を飛びながら案内するのが、どれだけ大変なのか。
伝わらないのも、また、ツラいところである。
それでも、健気に、進行方向を案内する彼女は、偉い。
森の中を進む、沙羅御一行は。
ブルースカイに、進行方向を教えてもらいながら、進み。
見慣れた、ダメ子が、先頭で草を切りながらホバリングし。
岩沢が踏みならす、鉄板行進法で、難なく森を歩き。
沙羅が、変わらない風景に、うんざりしながら歩いていると。
ブルースカイの声が、上から落ちてきた。
「沙羅! もうつくよ! 」
数時間かかるにしては、太陽が、まだ上がりきっていない。
思った以上に速いペースで、目的地に到着できたようだ。
それは、つまり。
「森も、歩き慣れてきてるのか…」
着実に、人間の野生化が、進んでいるようだった。
「沙羅先生、複雑な気分です。悪いことじゃ、ないんでしょうけど…」
「こんな数日で、ここまで歩き慣れるとは、思わなかったなぁ…」
ソレはおそらく、森の中を命をかけて、走ったせいである。
「沙羅先生。たぶん、意識の違いなのでは、ないでしょうか?」
「なんのだよ?」
「慣れていかないと、生死に関わるっていう…」
ジュライ子さん、正解である。
冷静に考えれば。
竜騎士がいなくても、死んでしまう要因は、たくさんあるだろう。
今の状況を、正しく言うなら。
大自然の真ん中で、まだ、倒れていないだけ、である。
「ああ、そうだな。現在進行系で、そうだ」
「パパ、今度は、どんなトコなの?」
「ソレはな~」
オレも知らない。
言うまでもなく、開けた先に目線を送ると、言葉を失った。
つられるように、スレイの目に飛び込む、光景。
かなりの高低差から、大量に水が落ちる滝。
海へ流れ出ていくため。
いくつもの川から合流した水が作り出す、白い水しぶき。
煙のように、コケの生えたグレーの岩肌を、飾り。
滝の真下に、ある大きな湖は。
滝が落ちて水面が波立っているのに。
水の中が、覗けるほどの透明度だ。
日の光を、鏡のように返し。
うっそうとした、森の中にある、オアシス。
ココだけ、別世界なのではないか。
そう、思わせるほどの迫力と、洗練された美しさ。
幻想的という言葉が、そのまま、当てハマるだろう。
湖から海に向かって流れる、太く深い川が、視界を右へ横切り。
あたりは開け、木は、湖を守るように囲む。
まるで森が、神をもてなすために用意した神殿のようだ。
神域と言われても、違和感を感じないだろう。
木が密集していないため、見上げれば、開けた青空がぬけ。
緑地には、美しい草花が咲き。
木々の枝や、葉のサワサワと動く陰が、滝という主役を彩る。
「おろして!」
「はいよ」
沙羅の肩から降りたスレイは、湖に駆け回り。
滝から落ちる、白い水しぶきと岸壁が、スレイの背後を飾る。
目に見ている、この光景を写真に残したい。
沙羅は、生まれてはじめて、そう思った。
スレイがポツンと立つだけで、一枚の絵にして成り立つ。
心の汚れを照らし、浄化するかのようだ。
「ブルースカイ。コレは、凄いな…」
「いままで、サバイバルの暗部ばかり、見てきたからじゃないですぅ?」
思えば、この5日間。
自然は、この世界は。
まわりに存在する全ては。
命に関わる問題でしかなかった。
ただ、ただ、あるだけの問題。
問題は、対処しなければならない。
考える間もなく、ずっと続けてきただけ。
サバイバルの暗部。
言われてみれば、その通りなのかもしれない。
闇の方が深いのは、この際、忘れてしまうべきだろう。
だからこそ、この場所が。
こんなにも素晴らしいと、思えるのだから。
「本当に見事だ。
自然って、こんなに、キレイなモノだったんだな」
現代には、そう言う場所の写真しか、出回っていない。
実際、なんてことのない、なにもない自然の中にある。
限られた一カ所は。
何の苦労もせず、観光地として行く名所よりも。
人の心を引きつけるだろう。
登山家が、登山を辞められない理由かもしれない。
「そうですねぇ~ 沙羅様。
今まで、ただの障害以外の、なにモノでも、なかったですからね」
「沙羅先生。初めて、生まれてきてよかったって、思いました」
岩沢の言葉が、並ばないのは。
スレイと一緒に、駆け回っているからである。
スレイと岩沢の、会話の内容を聞かなければ。
岩沢という存在を、忘れれば。
白く長い髪を、サラサラと舞わせる、肌の黒い妖精が。
スレイと一緒に、踊っているように、見えなくもない。
「沙羅様」
「なんだよ?」
「私、この映像に入っていく自信ありません」
「ウチも無理かなぁ…」
「沙羅先生、私も無理です」
みんなが言うように、完成度は高い。
この一枚の絵を踏みつけられない四人は。
いつまでも見ていたい気持ちに駆られたが。
終わりは、スグにやってくる。
美しいものは、儚いものである。
「スレイちゃんのために、あの壁で、滑り台つくってくるねぇ~」
「「「「やめろ!」」」」
一斉に、飛び出した五人は。
岩沢の自然破壊による、環境破壊から起きるだろう。
川の氾濫を止めるところから、新天地での一日目は、始まった。




