炭水化物・芋 4
まるで、アニメに夢中になっている、子供のようだ。
スレイの前にあるのは、炎なのだが。
沙羅の良心に突き刺さる、スレイの姿。
涙さえ浮かびそうだ。
食糧問題は、ジュライ子の登場により。
解決したかに思えた、が。
まだ、何も、解決していない。
毎回、キャベツか、白菜か、レタスか。
よく分からない、菜っ葉だけを、食べられるだけマシだと。
心底、思えたら、どれほど幸せだっただろう。
ドレッシングがあったら、もっと、良かったかもしれない。
塩があるだけでも、かなり違っただろう。
今の食生活は。
畑の野菜を水で洗い。
そのまま、おなか一杯になるまで、食べ続けているだけだ。
毎日、毎回、朝・昼・晩、洗ったキャベツが、机の上に置かれるのである。
日本に住んでいれば、一日もしないうちに、嫌気がさすだろう。
だが、このサバイバル生活では、塩一つとっても、高級品だ。
手に入らないのだから。
大陸内陸部で、塩をとる方法は、非常に少ない。
岩塩を見つけ出すか、動物を殺すかの二択だ。
岩塩を見つけるのは、宝石を見つけるのと同じ。
動物を殺し、解体して、ある部分に貯まっている、少量の塩しか手に入らない。
ポンポン、いろんなモノを手に入れられるのは。
ご都合主義のコミックファンタジーしかない。
手に入るモノは、周りにある、自然環境に依存するしかないのだ。
生物進化で、海から陸に生活圏を移しても。
体が、水と塩が必要とするなら、海から離れられない。
コンビニで、100円ちょっとで売っているものが。
身近にあると、思うモノこそ。
一番、手に入りにくい。
水にしろ、塩にしろ、食糧にしてもそうだ。
その中、登場した、さつまいものような野菜である。
炭水化物にしか見えない食べ物は、輝いて見える。
さつまいもは、米の代わりに食べられた歴史があるほど、栄養もカロリーも高い。
深く考えずとも、スレイには、そう、見えているのだろう。
大好きなアニメキャラを見るように、目をランランとさせ。
今か今かと。
沙羅の顔を、ちょくちょく、伺ってくるぐらいには。
もうすでに、投げ込まれた芋は、炭に、なっているというのに。
ダメ子とブルースカイから見た世界は、地獄絵図だった。
「なぁ、お前ら。どうしたら、イイと思う?」
地獄を作り出した張本人が、二人に話しかけても。
ダメ子とブルースカイは、壁と話しながら、菜っ葉を、ダラダラ貪っていた。
おなかが、本当に、すいていれば。
一玉ぐらい、あっという間に平らげる二人が。
一口、一口、ゆっくり飲み込んでいるのは。
本当に、うんざりしている証拠だ。
「ブルースカイ。お前が飽きたと言うには、早いからな」
背中をビクリとさせ、何も答えないのは、自覚が、あるからだろう。
ジュライ子誕生から。
腹が減っては、菜っ葉を食わされてきた、沙羅と、ダメ子には、遠く及ばない。
飽きた・飽きていないの話ではない。
もう、嫌気を通り越し。
腹が減っても、食べたくないとすら、思えてしまっている。
だから、満腹感を覚える前に、押し流すのだ。
ザ・炭水化物。
ちゃんと、食べられるようにさえ、すれば。
安全な食糧にさえ、できれば。
品目が二種類になるのだ、コレは大きい。
「話のレベルが、底辺すぎる…」
二種類に、なるだけである。
かといって、このまま菜っ葉だけでは、耐えられない。
なぜ、村を目指したのか?
こうならないように、するためである。
目指すは、夢の温かいご飯。
調理された料理の数々だ。
最悪、買う必要はない。
食べられるモノを知るだけでも、大きな進歩だ。
人類の歴史は語っている。
食い物は、そのためだけに、血を流すほど、大事だと。
「ジュライ子。
このままじゃ、スレイが、食べられないだろうから、もう一個、作ってくれ」
スレイへの申し訳なさが、沙羅の全てを、ねじ曲げた。
「いえ、まだありますけど?」
英断は、無駄だった。
「え? 何個あるの?」
「あと五個、あります」
「一回、一個じゃ、なかったの?」
「種を拾って作るときは、種を私の中で増やせますよ?
このお芋なら、6つまで、作れるみたいです」
「ふ、ふ~ん」
野菜の種。
野菜の可食部は、ほとんど、種のようなモノだ。
実物を一つ、ジュライ子に渡せば、作れるということだろう。
しかも、増やせるのなら、村に行く意味は、かなり大きい。
「私のお野菜、食べる気に、なってくれましたか?」
食べる気は、最初からあるのだ。
だが、頼んでおきながら。
怖いから、食べられないだけである。
「いや、調理のしかたを間違っただけだ、ジュライ子」
地獄の制作者は、シレッと嘘をついた。
「私も生まれて、まだ、あまりたっていないけど、ソレが嘘だってことは、分かりますよ?」
「そうか、謝って済むのかな?」
「許さないよ?」
「「ははははは~」」
お互いに指差しながら、愛想笑いを浮かべる姿は、シュールだった。
「分かった。よ~く、分かった。
ゴメンな、ジュライ子。調理するから芋をくれ」
「許さないけど、お芋は渡すね」
「今は、ソレでイイや」
沙羅は、横穴の奥に進み。
岩沢がいるであろう暗闇に向い、声を上げる。
「い~わ~ざ~わ~」
「はぁ~い」
暗闇から、ボンヤリとした光を放ちながら現れる。
長身の、スタイルがイイ女。
外見上、最強のプロポーションを誇る存在、それは岩沢だった。
岩沢は、のんきな顔を貼り付けて、沙羅の前に現れる。
「なんで、光ってたの?」
「暗いから」
「周りが見えるのか?」
「私が、みえるよぉ~」
ライトなみに、光ると思った気持ちは、うち砕かれた。
「岩沢、網を作ってくれ」
「なに? それ?」
「鉄で、こういう形のやつを、薪の上に、置きたいんだ」
木の棒で、地面に形を書いて見せると、岩沢は二つ返事で、薪に向かっていく。
岩沢が向かう、薪の近くには、誰もいなかった。
スレイも含め、全員が姿を消しており。
横穴の入り口から、覗き込んでいるスレイの顔が見え。
駄々をこねるスレイが。
ジュライ子に抱きかかえられ、フェードアウトしていった。
「……。あっ!」
気づいた頃には、もう遅い。
縮尺のおかしい網が、薪を押しつぶす。
火の粉が舞い散り。
地面に敷いた葉は、舞い散り。
燃えている木は散乱し、横穴脇を流れる水道を、破壊する。
「地獄制作の一任者」という、二つ名を。
そろそろ、沙羅に与えて、良いのかもしれない。
ドコかで見たような惨状が、再現され。
「なんか、スゴいことになったよ、沙羅ぁ~」
「当たり前だ!
なんで、こんなに大きく、作りやがった!」
「だって、私が、簡単に持てる重さにしろって、沙羅が、いったからぁ~」
「……。え?」
一瞬、何を言っているのか分からず、首をひねれば。
「…あ。…えっと。
その話は、今に引き継がれてるの? ちょっと待て、岩沢」
「な~に~」
「鎧以外は、そんなことしなくて、良いんだよ?」
「だって、大きさ分からないしぃ~。大きい方が、イイかなぁって~」
「……」
網を知らない。
人間規格を、大きくハズレている、鍛冶師に作らせると、こうなる。
沙羅以外は、そのことを、良く分かっていた。
だから、会話を聞くなり、逃げ出したのだ。
怒るに怒れない、目の前の岩沢に。
沙羅は、頭を、かきむしる。
「クソ! なんで、どいつも、こいつも!
こんなの、ばっかりなんだぁ!」
それとなく、スレイも一緒にディスっている。
「私、間違えた?」
「ちょっと、待て。本当に、ちょっと、待て」
まるで、中学生ぐらいの小生意気な子に。
論点がズレ過ぎていて、何を言って良いのか、分からず。
地団駄を踏む、教師のようだ。
怒りたいが、怒った所で、意味がなく。
まずは、相手に。
間違いだと、認識させるところから、始めなければならない。
そのためには、ダメなところを、指摘しなければならない、回りくどさが。
より一層、沙羅の、イラ立ちを募っていく。
「岩沢、とりあえず、全部、もとに戻しなさい」
「え~、なんでぇ~」
ソコからか! と、言っては、いけない。
それこそ、話の収集が、つかなくなるからだ。
芸人さん達の、ネタもコントも。
オチが用意されているからこそ、安心して見ていられるのだ。
オチのないネタ・コントは、このように、カオスである。
「岩沢、ちょっと、みんな呼んでくるから、待っててな」
「うん。わかった」
沙羅は、横穴の外まで歩き。
安全地帯で、皆で固まり。
スレイを、あやしている、ほのぼのとした風景を、無視し。
森の中に消える。
そして、しばらくすると、ソレは、聞こえた。
「あぁああああああ!!」
一人の男の、ストレスが、森の中に消えていくのを、ダメ子は聞いた。
「……。本当にダメだ、早く、なんとかしないと」
森から何やら、汚い言葉が、薄っすらと聞こえるが。
ダメ子は、気のせいだと思うことにした。
全力で、聞き流そうとしたが。
「あぁあああああ!!」
二度目の叫びに、ダメ子の背中が跳ねる。
どうやら、限界のようだった。
「沙羅様ぁ~。早く、早く戻ってきてぇ~」
恐らく聞こえていないであろう、ジュライ子・ブルースカイは、不思議そうに。
「どうしたんですか? ダメ子姉さん?」
「ダメ子姉さん?」
なんてことを、言うから。
ダメ子は、こう言うしかない。
「あなたたち、絶対に、許さないからね」
「じゃあ、ウチ、どう呼べばイイの?」
なんてことを聞かれるから、イライラが募っていく。
孫氏は、よく言った。
戦わずにして勝つと。
こうした、小さく、無自覚な嫌がらせを、いくつも重ねれば、三年殺しとなる。
「お姉ちゃんでも、オネェさんでも、先輩でも、言い方あるでしょ!」
「ダメ子お姉ちゃん?
ダメ子ネェさん?」
「ワザとなの!?
それは、ワザとなの!? ブルースカイちゃん!」
「え? 何が?」
「きぃいいいいい!!」
ダメ子は、深く理解した。
沙羅は。
常日頃から、こんな無自覚な嫌がらせを、常に受け、我慢していたのだと。
「名前を呼ぶなって、言ってるのよ!」
「じゃあ、先輩?」
「なんで、聞くの? 名前呼ばなきゃ、何でも良いわよ?」
ブルースカイは、ジュライ子とアイキャッチを済ませ。
「「先輩!」」
「うっざぁ!」
「どうしろって、言うんですか!」
問題は、こんなところにも、転がっていたようだ。
「ダメよ! ダメすぎる」
「先輩が言うと、妙に説得力があるのは、なんでなんだろ?」
「ブルースカイちゃん。心が、口からもれてる」
「……。改名してもらうもん。私」
「「……」」
「ダメ子ちゃん、ごはんまだぁ?」
ダメ子の服を引き。
屈託なく笑うスレイの笑顔を見下ろす、ダメ子の顔。
それは、母親のようなものではなく。
一番小さい末っ子を、めんどくさがる、高校生の姉のようだ。
名指しで呼んでも怒れない、唯一の存在に、名前を呼ばれ。
ダメ子の表情が、冷え切っていく様子を、ジュライ子は見ていた。
「先輩、ポイントです!」
「……」
「いまこそ、ポイント稼ぎのチャンスです!」
ピクリと反応を示すダメ子に、ジュライ子は、たたみかける。
「沙羅先生が戻ってくるまでに。
ダメ子先輩の指示で。
全部、ちゃんとなってれば、名前が変わるチャンスですよ!」
こんな言い方しかできない。
ダメ子を、ヨイショするのも、簡単じゃないと、ジュライ子は深く思った。
「ジュライ子ちゃんは、岩沢ちゃんと横穴直して、お芋を焼いて」
これで、立ち直るのも単純なのだが。
ヨイショするサイドは、必死である。
「ブルースカイちゃんは、スレイちゃんと遊んであげて。
私は、横穴の掃除をするわ」
本当に、ダメ子は、改名を深く望んでいる、と。
ジュライ子と、ブルースカイに、こんなに伝わる姿もない。
チョロいと言っても良い、手のひら返しだ。
そして、キョトンとしている二人に、ダメ子は、平然と言い放つのだ。
「どうしたの?」
沙羅も沙羅だが、ダメ子もダメ子だ。
二人は、何も言わず、言われるがまま、動き出した。
「スレイちゃん。ウチと、何して遊ぼうか?」
「おなかへった…」
ブルースカイが、視線を上げれば。
スレイの世話を全て投げつけ、ダメ子と、ジュライ子は、横穴に消えていく。
縦社会を、目で理解したブルースカイだった。




