炭水化物・芋 3
「オマエ! 何一つ、大丈夫な要素を、口にしてねぇからな!」
残念ながら、事実である。
種があれば、他の野菜も作れるジュライ子の能力は、本物だった。
ところまでは、良いことなのだ。
なんなら、見てきた植物すら作れているのだから。
応用力が広いのも、良いことなのだ。
だが、沙羅は、完全に失念していた。
食べられる食料の種類が、増えるのは。
単純に良いことだと、思っていたことが。
ジュライ子に、何も考えず頼めば。
こんな綱渡りが、用意されるのだから。
そのうち、そこら辺の雑草をつかんで。
ニラ科の植物と似ているから、食べられると言い出しかねない。
野草も、立派な食糧だ。
それは、誰もが知っていることだが。
図鑑片手に、だ。
なんの経験もなしにだ。
野風が吹き荒れ、雨がうち。
誰が、何が、流れているのか分からない川辺や、道ばたに生えている雑草を。
口にすることが、できるだろうか?
本当に、食べても大丈夫なのか?
衛生問題が、大部分を含むだろう。
洗ったとしてだ。
そもそも、図鑑で見ているだけだから、間違っているのではないか?
もし、違っていた場合、どうなるのだろうか?
食べられるのか、食べられないのか。
本当に知りたいなら。
自分で、実際に食べてみるまで、分からないのだ。
毒キノコを、間違えて食べる瞬間とは。
目の前の、さつまいものようなモノに違いない。
食糧の種類が増えるたび。
毒味を、誰かが、やらなきゃいけない、綱渡り。
もし、体調を崩した場合。
命に別状がなくても。
体調不良は、サバイバル生活をしている今は、致命傷だ。
足を怪我しただけで、死んでしまう野生動物と何も変わらない。
そうなれば、ジュライ子玉、頼りになるのだが。
確かに、ダメ子の傷を癒やした。
だが、薬玉の実績は、それだけなのだ。
死ぬか・生きるかの世界だから、試したが。
どうなるか、ジュライ子本人すら、分からないものが。
体調不良に陥った原因を排除できるほど、万能なのだろうか?
体調不良を治すことが、デキるのだろうか?
体調不良で済めば良い。
毒があった場合、解毒する手段は、確立されていない。
ダメ子の証言道理なら。
薬玉の効能は、新陳代謝をエゲツなく上げ。
体の自己再生を促し、傷や負傷を治しているという、考察だった。
それが、本当なら、肉体のケガが治るのも。
理屈として、分かる。
そんなものを、普通の人間に使ったら?
傷が治るのと同時に。
細胞分裂回数を、エゲツなく削り取り、傷は治るが寿命が縮む。
怪我を治すために。
5年分の寿命を使いましたと言われて、納得できるものじゃない。
ソレに目をつぶったとしても、だ。
ダメ子の言葉を、鵜呑みにするなら。
ジュライ子玉は、基本的には、物理的なケガの治療薬だ。
人の体の抗体だけでは、どうしようもない病気には。
効能がないどころか、悪化する。
仮に、このさつまいものようなモノに、毒性があったとしよう。
この毒を治すために、薬玉を飲んだとしても。
体の上下から、色んなモノが吹き出るのだろう。
毒自体を、殺すことがデキないなら。
人の体は、外に吐き出そうとするのだから。
カゼで発熱して使った場合。
体の温度を上げ、菌を殺そうとしている、人体を活性化したら。
脳死温度43度に、到達してしまうだろう。
ダメ子が言っている通りなら、ジュライ子の薬玉も万能ではない。
人の体は、そんなに単純にできていないのだから。
薬がない、今の状態で。
未知の野菜に手を出すリスクは、非常に高い。
菜っ葉を食べるときでさえ。
あんなに、躊躇したというのに、なぜ、忘れていたのだろう。
ココは、地球上にあるドコか、ではなく。
地球外の、ドコかである、異世界なのだと。
「またか…。また、この流れなのか…」
そうである。
「沙羅先生は、そろそろ私を、信用してくれても、イイと思うよ?」
信用することに、いつから命をかけなければ、いけなくなったのか。
「お父さん食べないなら、私食べるぅ~」
「ちょっとまてぇええ!」
沙羅は、スレイの手から、さつまいものような野菜を、つかみ上げ。
泥だけの芋を、口に入れようとするスレイの暴挙を、止めることに成功する。
良い子のスレイは、カロリー欲しさに、暴走しているようだった。
まだ、洗ってすら、いない。
泥だらけなのだ、そのまま口にしては、汚すぎる。
危機を回避したというのに。
スレイの恨めしそうな顔を見て、沙羅は、いたたまれず。
このまま、処分しようにも。
話を、なかったコトにしようにも。
ジュライ子と、スレイが、立ちはだかる。
ジュライ子は、ごまかせるかもしれない。
だが、スレイを、ごまかすことは、不可能だ。
カロリーが、欲しくてたまらないスレイは。
捨てても、隠れて食べようとするだろう。
食糧問題。
次に待ち構えていたのは、安全問題が、ドドンと立ち塞がり。
飽きとの戦い、そして、カロリー問題が浮上した。
メンバー各位、菜っ葉は、食い飽きているのだ。
もう、おいしそうに食べるのは、ジュライ子ぐらいだろう。
そして、スレイは、ただ、素直すぎるほど、素直なだけだ。
湖で何も考えず、塩もかかっていない、焼き魚に、かぶりついた満足感が。
さらに、菜っ葉に対する飽きを、加速させた。
みな、腹が減りすぎて、貪るように食べたのだが、あれも、危険だったのだ。
今更、言い出しても、もう遅い。
もう、食べてしまったのだ。
シャクシャクと、顔を背けながら、黙って食べている二人は、
毒かもしれないモノを食べるよりは、マシだと。
黙って、菜っ葉を食べ続けているが。
動物性たんぱく質が、明らかに足りておらず。
炭水化物を、口にしたいハズなのだ。
「クソ! 炭水化物が、俺の手の中に、あるっていうのに!」
迷言だった。
食事の概念が。
線維か、炭水化物か、動物性たんぱく質か。
三択しかないことに、沙羅は、気づかない。
なんなら、繊維から、やっと開放されるという、気持ちのほうが強い。
横穴を流れる湧き水で、泥を洗い流せば。
きれいな紫色をした長細い芋が、味を想像させ。
沙羅は、口に唾液が、あふれ出てくるのを感じた。
毒性がないと言っていた、ジュライ子の言葉を。
何でも良いから、信じてしまおうとしている頭を、左右に振る。
「よし、こうしてやる!」
ポイッっと。
焚き木の中に、さつまいもらしきモノは、姿を消した。
沙羅、渾身の英断である。
「ああ!? 食べ物がぁ! 食べ物がぁ~!」
スレイの表情は、今日一番、崩れ落ち。
暴れだし、炎の中に手を入れそうな勢いで泣き出した。
「火を通さないと、食べられないから、ちょっと、待ってるんだぞ」
なんて、心にもない言葉をかける沙羅は、酷い父親だった。
炎に向かい、遠慮なく。
どんどん、木を焚べていくのも忘れない、凄い父親である。
沙羅は、実家のおじいちゃん家での経験で知っている。
火の中に直接、芋を放り込んでも、炭になるだけだと。
さつまいもは。
落ち葉焚きの、燃えない高温となる箇所に仕込んで、蒸し焼きにするものだ。
それでも、焦げてしまうと、おいしくないので。
アルミホイルで包むのだ。
沙羅の頭の中で、おじいちゃんが、嬉しそうに笑っていた。
そうとも知らず、スレイは、沙羅の言葉を鵜呑みにし。
焚き木の前で、体育座りをしながら。
焼き上がりを、今か、今かと、待ちわびていた。
こんなに飢えた子供は。
食べるモノが、ありませんと。
寄付を促すポスターぐらいでしか、見たことがない。
同じ笑顔でも、とてもシュールな光景だ。
スレイも、やはり育ち盛りなのだろう、身長的に。
芋一つを、こんなに、楽しみにしている子供を作ったのは、誰か。
「俺、じゃん」
正解である。




