私達の立ち位置が、かなり微妙になってますよ 2
これでは、沙羅と、なんとなく絡む機会が、グッと減ってしまうのだ。
「私達の立ち位置を、もう一度、確立するのよ」
どうでもよさそうな問題を、問題にすると、こうなるのである。
「一番まずいの、ダメ子姉さんじゃ、ないですか」
「……」
石があれば、何でも造形できる岩沢。
とりあえず食料を提供する、ジュライ子。
では、ダメ子の立ち位置は、何だったのだろう。
「長女の立ち位置を、取り戻さなくちゃ」
どうでもよい問題を、問題に、するから。
こうなるのである。
「えっと…。そうですね」
ジュライ子は、硬い笑顔を、ダメ子に返すしか無い。
「なにそれ? なに、その顔。
バカにしてるの? ジュライ子ちゃん」
事実である。
わざわざ、口に出すから、三女は。
「そんなこと、ないですよ。
姉さんのおかげで、沙羅先生を、救うことがデキたんですし」
これが、ジュライ子にできる、最大限のヨイショだった。
「そうでしょぉ?」
…このままじゃ、ダメ子という名前が、変わることなんて、ずっと、こないんだろうなぁ。
ジュライ子、思いは、間違いでは、ないだろう。
「岩沢ちゃんも、頑張らないと__」
と、顔を向けた先に、岩沢はおらず。
「すれいちゃん、あそぼ~」
「いいよぉ~」
スレイと、同じ土俵で楽しんでいた。
「……」
ダメ子、ジュライ子のポカンとした顔は、誰にも見られることなく。
「そうだ、岩沢。遊び道具、作ってくれよ」
「いいよぉ~。スレイちゃん、どんなの、ほしい~?」
「えっとね、えっとね。どんなのあるの、岩沢ちゃん?」
「いろいろあるよぉ~」
岩沢は、スレイの遊び相手という立ち位置を、確立したようだった。
精神的に近いのだから、コレ以上ない、良い遊び相手だ。
沙羅の反対側に座る二人の目に。
適材適所って、あるんだなぁ。
なんてことを、漠然と思わせるほど。
用意されていた、くぼみに、スッポリとハマった、岩沢の姿は、自然だった。
下心なく、何も意識せず、考えていない岩沢が。
沙羅の株価を上げている姿に、開いた口が塞がらない。
「なにコレ?」
「姉さんが、不憫です…」
「なんで、泣いてるの?
ねぇ? なんで、泣いてるのぉ?」
「いえ、何でもありません」
ジュライ子は、どこまでも、イイ子だった。
「ジュライ子ちゃんだって、立場ヤバイんじゃ、ないの?」
「いえ、私は、今のままで良いんです」
「そんなこと、いってぇ~」
「お~い。ジュライ子、木を、焚き木にかけてくれないか」
「あっ、はい」
ジュライ子も、もれなく、用意されていた、くぼみに自らハマっていく。
トコトコと、草陰に姿を消し。
そそくさと、自己主張することなく。
焚き木を管理し始めるジュライ子。
もう、ダメ子だけである。
みな、自然に、向こう側のアットホームに溶け込んでいった。
「……」
岩沢・ジュライ子は、生命線を支えているのである。
ダメ子が、今まで、何もデキないことを気にしつつ。
なんとか、やってこれたのは。
みんなの、おねぇさん的、立場があったからだ。
ただ、先輩だったから、やってこれただけ。
みんなをまとめ。
統率することが、なんとなくでもデキてなかったら。
本当の役立たず、だった。
そうなっていないのは、ダメ子の、持って生まれたモノなのだが。
スレイの加入により。
女子軍のパワーバランスを見れば、目の前のとおりである。
なんの問題もなく過ぎていく、サバイバル生活に。
違和感さえ覚えてくる。
コレまで、あれダメだ・これ駄目だと、やっていたのが嘘のようだ。
「私が、いつもやってたことって、何だっけ? あっ」
思いついたら吉日。
ダメ子は、立ち上がり、沙羅に話しかけることにする。
「沙羅様、これからどうするんですか?」
「どうするって?」
「村に行くって、言ってたじゃ、ないですか?」
「ああ、ソレな。
ブルースカイに、空飛んでもらって、そんで向かおうぜ」
「そうですねぇ~」
「その前に、今のじゃ不安だから、もっと良い水筒とか、作れると良いな」
その言葉を聞き逃さない、ジュライ子が、名乗りを上げる。
「私、作りましょうか?」
「デキるのか?」
「デキると思います。
岩沢ちゃんとの、合作に、なっちゃうかも、しれませんが」
「とりあえず、やってみてくれ。
水筒が、ある・なし、じゃ、全然ちがうからな」
「はい」
喜々として、どう作るか考え始めるジュライ子に。
ダメ子は、悪女の姿を見た。
「食料は、その場で作ると、洗わなきゃ食えないから、ココで作って、向かうか」
スッと、ダメ子に戻ってくる視線に、ダメ子は、言葉が詰まる。
「そ、そうですね」
ダメ子は、ノコノコと、沙羅の正面に腰を下ろし。
アットホームの暖かさを、焚き木のように感じていた。
「…入る隙間がない」
「なんか言ったか、ダメ子」
「また、ダメ子って言うし」
「お父さん。だめこさん、元気ないねぇ~」
スレイの無邪気な言葉が。
ダメ子の、ガラスのメンタルを叩き割った。
「スレイちゃんにまで、ダメ子って言われた…」
「お前が、そんなに落ち込むって相当だな」
「ほっといてください」
「なに、両頬、膨らませてやがるんだよ。
お前も、コッチ側に来いよ」
「ダメ子は、もう、イイんですよぉ~だ」
「……。めんどくせぇなぁ…。コイツ」
「もう、なんでも、イイですよぉ~だ」
沙羅は立ち上がり。
深いため息一つ、ついて。
ダメ子の背中を蹴り飛ばした。
ダメ子の前へ突き出した手は、焚き木のすぐ近くを捉え。
そのまま、体を押し戻すと。
沙羅が、ニヤニヤしながら見下ろす。
「何してくれてるんです!?」
「元気を、注入してやっただけだぞ?」
「危うく、やけどするところ、だったんですけど!」
「元気になったじゃねぇかよ、お前」
「やり方が雑すぎるでしょ! なにこれ!?
私だけなんで、こんなに待遇、悪いんですか!?」
「高待遇だろ!」
「ドコがですか!」
というやり取りを見ている、ダメ子と、沙羅の反対側に戻ってきたブルースカイ。
水浸しになり。
胸元に、魚を諦めず仕込んで、持ってきた彼女は。
羨ましそうに、二人の言い合いを眺めていた。
結局の所。
「俺の何が、不満なんだコノやろう!
ハッキリ言いやがれ!!」
「もっと、愛情を分けろって言ってるんですぅ!!」
ココまで、沙羅に物事をハッキリと言いのける人物は、ダメ子しかなく。
沙羅が、本気で腹を立てる言葉を言うのも。
ダメ子なのだ。
適材適所は、ダメ子にも言えること。
ダメ子は。
唯一、沙羅と対等なのだ。
対等なハズのダメ子が。
対等ではない立場のモノと、同じ事をしても。
沙羅には、こびを売っていると、思われるだけ。
だが、コレが沙羅の本心だから、また、タチが悪いと。
ブルースカイは、二人の言い合いを見ていた。
ダメ子姉さんと、言えるのは、言葉の上だけじゃない。
本当に、尊敬できる部分があるから、ダメ子と呼ばず、姉さんと呼ぶのだ。
あのとき。
沙羅が、法の力を使おうとしていたとき。
スレイの一件で。
自分のことすら、考えていなかった沙羅に。
沙羅自身が、無事であることを、お願いしたのは、ダメ子であり。
みんなが、笑えるようにしてほしいと言えたのは、ダメ子だからだ。
ダメ子が言うから。
沙羅は、素直に受け入れたのだろう。
それは、岩沢でも、ジュライ子でも、ブルースカイにも、できなかった。
あのときの沙羅に、何かを言える言葉を持っていたのは、ダメ子だけ。
素直に受け入れた、沙羅がいなければ。
今頃、沙羅だけが、いなかったのだろう。
楽しそうに見えるサバイバル生活は、終わっていた、のだろう。
ダメ子の功績は。
沙羅とダメ子以外は、全員、認めるところなのだ。
とはいえ、である。
「今の、お前の心に、マイナス10P!」
「ただ、私達を愛すると、良いことがあるって、言っただけなのに!」
「ソレに、乗じようとする、お前のスケベ心に、マイナス10Pだ」
「ソレは、管理者の傲慢ですよ!
改正を申請します!」
ダメ子が、改名する時。
それは、永遠に来ないかもしれない。
視線の合ったジュライ子とブルースカイは、笑うしかなかった。




