29話 目覚め 1
コレは、何度目の夢だろう。
もう、オレは、夢から覚めることは、ないのだろうか?
コレは、何度目の布団の中だろう。
暖かい、起きたくない。
でも、起きると。
起きてなどいないと。
見えている全てが訴える。
なぜなら、オレが知っているリアルは。
こんなに優しくないからだ。
なぜなら、こんなにも。
合理的に、デキていないからだ。
なぜなら。
矛盾を含んでいないからだ。
夢の中で、夢を見ている。
目が覚めて、また、夢を見ている。
起きていると、勘違いしてしている夢。
何度、目が覚めれば。
忘れている、体の重みを思い出すだろう。
夢は、言ってしまえば、脳が作り出す幻想だ。
体の全ての感覚を、脳が処理して、伝えている。
なら、思った感覚を、脳が体に与えれば。
ソレは、あるものになる。
だが、夢と現実では。
圧倒的に、違うモノがある。
今、現実に存在しているという、実感。
肌が、空気をなぞるのを感じるように。
自分の体の重みを、常に感じられるように。
思った事と、違うことが。
当たり前に起きるように。
夢の中で、夢を見るという体験を。
一回の睡眠で、幾度も積み重ねたとき。
最後の夢という場所は、現実に近かった。
そうだと思うのは、目が覚めて、天井を見上げたとき。
その一瞬にある、不思議な恐怖。
重たい体を起こし。
水を飲んでしまえば、消えてしまう程度の思い。
自分で目が覚めたと、自覚できるときは、いつだろう。
水を飲み干して、体が感じるモノ。
この空気が、現実だと、肌で感じるときだろう。
なら、水を飲んでいることすら、夢だとしたら。
夢の終わりは、ドコにあるのだろう。
合わせ鏡のようだ。
一番、奥に写りこんでいる自分は。
鏡の前に立つ自分に。
いつ、たどり着けるのだろう。
沙羅は、夢だと自覚しては。
また、起床から始まる夢を、見続けていた。
一つずつ、目覚めに向かっているどころか。
深く沈んでいく、確かな恐怖が。
夢の中で。
夢なのだから。
早く目を覚まさなければならない、使命感に変わり。
どんなに強く願っても、目が覚めず。
思い一つ。
願い一つで。
歪んでしまう世界に、絶望し。
思っても、変わらない現実を求める。
個人の思いなど。
何の意味もないと、そり立つのが、現実であり。
何を願っただけでは。
どうにもならないのが、現実だと知っているからこそ。
現実には、意味があるのだろう。
意味を感じられない、夢。
湧き出てしまった、感情を、なだめる夢から、なら。
なるほど、夢診断ができるのも納得できる、のだが。
一度に見る夢が。
一つでは、ないのだとしたら。
それは何だろう?
「死」ではない、感覚を味わいながら。
自分は「夢」だと、なかった事にしていく。
夢達を、覚えてしまっているのなら。
「夢」を「夢」として、経験してしまっているのなら。
布団から。
ベットから。
床か、ソファーか。
起きることなく、夢を次々、見せられてしまえば。
夢の中だけ、持っている記憶は、リセットされない。
「夢」を、忘れていないのなら。
一度の睡眠で、忘れることなく、積み上げられていく。
まるで、夢の中に。
どこまでも、落ちていくような。
永遠と、吸い込まれていくだけ、のような。
このままでは、夢から目覚めることのなく。
底のない闇に、落ちていく感覚だけが、いつまでもつきまとう。
幽霊に対する、ぬぐえない恐怖心に似た感情は。
ゆっくりと焦りを生んでいく。
だが、意識だけが、どこまでも、深みに落ちていく。
ひとつの夢が終われば、暗闇へ。
感情が、熱を持ち。
焼き切れるのも、時間の問題だ。
覚めない夢を作っているのは、自分自身であり。
目覚めることが、デキないのも、自分自身なのだ。
目が覚めたと思えば。
まただ、と。
くどい繰り返しの中で、ひとつの夢だと理解する。
何をしても。
自分が思ったとおりに、流れなど気にせず、書き換えられる。
望んだ結果さえも、夢の終わりと、共に消えていく。
そのたび、心と呼ばれるモノが。
冷水でも、かけられたように、冷えていった。
目の前に見えているモノが変わればと。
本気で望んでいるのに。
かなわない夢は、すぐに消えていく。
夢は、自分で見ているモノなら。
夢だと自覚デキたとき。
望めば、書き変わるもの。
間違っては、いない。
だが、正しくもない。
だから、夢なのだろう。
だが、夢だと自覚できないときは。
なぜ、自覚できないのだろう。
見ている自分は、現実だと自然に受け入れて、しまっている、だけなのか。
それとも、異世界転生モノのように、別世界に飛んでいて。
すべて夢オチで、決着を、つけているのか。
フィクションでは、禁忌だと言われるほど、全てをなかったことにする、オチだが。
夢に、オチは、あるのだろうか?
無意識に信じている、常識を逸脱しないから。
夢を夢だと自覚できない。
なら、望んだ展開が、常識を逸脱していて。
信じられないとしたら、どうなるのだろう。
夢は、個人が思っている常識を、逸脱しないのだ。
変わりようもなく。
こうなってしまうのが普通だと。
思ってしまった展開に、変わっていく。
おわりの見えない、夢。
それは、「死」ではない、終わり。
永遠に目覚め。
永遠に死ぬ。
始まりと終わりが、ループし続ける。
一つの線が、円になる。
裏表などないのだから、メビウスの輪のようだ。
メビウスの輪の上で。
現実である、裏側に生きたいと願っても。
想像できない終わりが。
信じられない終わりが。
自分自身に、思い描くことが、できないと思ったなら。
気づけば、裏などには行けないのだ。
気づけば。
夢の終わりが、どういうものか。
考えることすら、やめていた。
全てが無駄であり。
全てに価値が、ないのなら。
価値を決めたのは、自分自身だ。
終わりが、ないのだから。
信じることが、できないなら。
終わらせる方法は、一つ、しかない。
やり続けることに、疲れたとき。
漠然と見えてくる。
意識が、すべてを放棄したとき。
途方もなく、何もできない、夢の中で。
心だけが、冷めていった先に見えたのは。
「無」なのだから。
終わってしまうのではなく。
何も、なくなってしまうだけ。
なくなった抜け殻が、そこに残されるだけ。
魂の熱量がなくなれば。
跡に残るモノなんて、決まったようなモノだ。
もう、どうでも良い、と。
自ら「無」を望んでしまったとき。
これ以上、もう、どうしようも、ないのだから。
だから、もう一度。
立ち上がれるのは。
立ち上がるための「何か」がなければ、立ち上がれない。
力が入らない足に、力を与える、ソレ。
そんなモノ、見当たる方が珍しいのだ。
自分自身の心を、体を、再度、奮い立たせるだけの、ソレ。
思いつかなければ。
そもそも、存在しないのなら。
そのまま、気を失うだけだ。
あらがう術が、なければ。
身を任せて沈むしかない。
深く深く。
意識を取り戻したあとに、言い訳を並べ。
終わって、通り過ぎてしまった現実に、脇腹を刺されながら。
同情を買い。
相手に、仕方ないと、共感するようにしむけ。
何も、間違ってなかった、と。
臭いものに、蓋をしていくだけなのだ。
沈み続けることが、悪いことだ、と、思っても。
崩れた階段は、根元まで崩れ落ちていき。
そのまま落ちて、潰れてしまう。
よくある話だ。
よくある話しすぎて、使い古されてこそいる、が。
だからこそ、誰の評価を得られずとも。
這い上がったモノは。
この世の、わびさび、を、舐められるのだろう。
価値の優劣の話を、してはいけない。
そんな時間は、とっくに過ぎているのだから。
だから、奇跡なのだ。
沙羅の沈み続けるハズだった意識は。
湖の底に、たどり着いたような感覚を感じ。
何物でもない、何かに。
この世の理を、無視するように。
すくい、あげられるのは。
奇跡なのだ。
確実に、何かに、引き上げられていく浮遊感。
コレが、這い上がる、蜘蛛の糸なのか。
そんな表現では、生ぬるい。
無条件に、自分を救う存在。
得体の知れない、非常識。
なのに、なぜなのだろう。
沙羅の心に広がる、理由のない安堵感は。
沙羅の冷え切った心は。
引き上げられていく感覚に、心が熱くなった。
ただ、思うのだ。
まだ、終わりでは、なかったのだと。
こんな自分にも、まだ、デキることがあると。
終わりは見えた、あとは登るだけだと。
もう、何も、デキないわけではない。
そうも長くない、時間なのだろうか。
それとも。
また、何年も。
何もできない冷水に、さらされ続けるのだろうか。
それでも、ハッキリと言い切れるのだ。
今よりは、何倍もマシだと。
何もしないよりは、いくらかマシと。
結果が同じでも。
あがき続けることで。
言い訳でも、何でも良いのだろう。
まだ、イケるのなら。
イケる、手段があるのなら。
沙羅の冷え切った心は。
急に温度を持って、自分自身に熱く語りかける。
まだ、できることがあるのだ、と。
いくつもの夢。
いくつもの終わり。
夢は、覚めるハズだと思っていた、目覚めない夢。
落ち続けた、夢の中の夢。
何度も夢を、見せられ続けたからこそ。
こうすれば、良かったと思える、確かなものを抱えて。
沙羅は、浮遊していく。
竜騎士、それは。
人でありながら、「竜騎士」に、なってしまったものだ。
役目があるうちは。
役目を果たしていれば、竜騎士は報われたのだ。
だが、竜騎士の役目は、もう、なくなってしまった。
こんな森で、さまよっているのが。
せいぜいの存在に成り果てた、竜騎士は。
終わりを、求め続けたのだ。
諦められない竜騎士は。
放棄することすらできず。
「何もしない」ことすら「竜騎士」の冠に、否定され続けながら。
役目を終える。
やりきることが、終わりだ。
そう、強く信じていた竜騎士は。
無意識に、信じていた終わりが、来ないことに焦り。
まだ足りないのかと。
やり尽くし。
力を、もてあます、不老不死の存在だけが残された。
もう、やれることはないが。
他者の、生き続けろという善意が。
どれほど、彼女を苦しめ続けたのだろう。
終わりがないということは、ひどく悲しいことだ。
終わりを知っているからこそ。
あるからこそ。
すぐに終わってしまうと、思っているからこそ。
できることは、いくらでも、あるのだ。
だから、救われているモノも多い。
終わりの味は、とてつもなく甘い。
それこそ、人をダメにしてしまうほどに。
「竜騎士」は、もう、終わっているモノ。
終わっているハズなのに。
明確な終わりが来なくて、苦しみ続け。
まだ、存在しているもの。
「竜騎士」の冠を、かぶり続けた彼女を救う方法は、実に簡単だ。
彼女は、王様として生きることが、苦痛な、だけなのだから。
だから、沙羅は、確かなモノを持って、目を覚ます。
沙羅には、もう。
これから何をするのか。
迷いなんて。
ドコにもないのだから。




