25話 ジュライ子と湖 1
葉っぱのような緑色の髪が、腰で左右に揺れ。
瞳のない真っ黒な目は、不安に染まり。
歩き方も、どこかギコちない。
ダメ子・岩沢・沙羅が、静かに眠る空間を見送り。
まだ明るいとはいえ、森の中は、孤独感をあおる。
鳥の鳴き声すら聞こえず。
緑のカサカサという、風の音だけが。
静寂を演出していた。
せめて、水ぐらいは。
歩き出した、までは良かった。
森は、私の領域だと言っておきながら。
特に、何かが、デキるわけではない。
そう、自覚させられる。
草木に聞いても。
水源の有力な情報が得られない。
草木は、地面から水を吸い上げているのだ。
水のありかを聞いても、要領を得られない。
そんな、当たり前のことが分かる頃には。
ジュライ子は、疲れきっていた。
木や草花と対話することは、かなりの労力を使うのだ。
草木と話すとき、言葉は使わない。
心同士を触れ合わせるような、感覚。
人同士、話している分には。
説明を、省略できることもあるが。
草木の場合。
自分だけの世界で生きているため。
まず、対話に、するまでが大変だ。
自分勝手に、要領の得ないことを、言われ続けても、疲れるだけ。
かみ砕くには、問いかけ続け。
受け取る側が、解釈するしかない。
唯一、救いなのは。
ウソをつかず、素直であることだろう。
ジュライ子は、深い息を吐き出し。
最後にしようと、見上げた木に話しかけると。
ようやく、有力な情報を得ることに成功する。
どんな物事にも、慣れは必要なのだと、ジュライ子は思った。
昔、ココに迷い込んだ人が、いたらしく。
ジュライ子と同じく、水を探していたらしい。
迷い人は、木登りが上手く。
木の上から見渡し、湖を見つけたそうだ。
教えてくれた木は。
このあたりでは、最も大きい木だった。
いつの話か、分からないが、迷い人は。
見上げても、てっぺんが見えない、木を登りきったのだ。
木を登り切れるなら。
確かに、このあたりを、一望できるのだろう。
その労力と、リスクを考えなければ。
ジュライ子は、半信半疑だったが。
大樹が、ウソをつく理由もないと。
お礼をして、その場を立ち去った。
湖は、ジュライ子の歩いてきた、反対側にあるらしい。
なら、通り道だからと。
一応、みんなの様子を見ていこうと。
みんなが寝る、休憩場所に到着してみれば。
岩沢・ダメ子が、苦しそうに寝ている傍らで。
沙羅が、同じように寝ている姿が。
ジュライ子の目線を、くぎ付けにした。
疲れて寝たのかと。
揺すっても、声をかけても、沙羅は何も答えない。
寝ているのではなく。
意識を失っていると、気づくのに。
時間は、いらなかった。
「すぐに、水を…」
ジュライ子は、湖まで走り出した。
疲れも気にせず、葉っぱの壁を抜け。
開けた場所に、湖はあった。
そこには、手つかずの自然だけの力が、作り出した。
幻想的な景色。
不規則に伸びる木、ツタ、岩に生えたコケ。
深いだろう、湖の底まで見渡せるほど。
澄み渡った水の中を、泳ぐ魚。
ささやかに吹き抜ける風は、水面を揺らし、波紋を作った。
ジュライ子は、湖に映った自分の顔を見て。
自分は、泣いているのだと、遠くのできごとのように自覚する。
「何もできない…」
食料問題を解決して欲しい、という願いから、生まれたジュライ子。
竜騎士に追いかけ回され。
みんなが倒れ、まともに食べ物すら作れない。
草木の声を聞けるぐらいで、他に、何が、デキるわけでもない。
こうなってしまえば、役立たずも良いところだ。
「ダメ子先輩も、岩沢ちゃんも、ちゃんと戦ってたのに私は…」
山の横穴で、沙羅とブルースカイが、寝ているとき。
ダメ子・岩沢・ジュライ子、三人だけで話したこと。
それが、ジュライ子の心を、さらに底へ落としていく。
ブルースカイ誕生の、一件のあと。
沙羅が、水飲み場で倒れたのを見つけ。
暖かい場所に寝かせ。
何とか、落ち着きを取り戻したあと。
みんなで、たき火を皆で囲んだときだ。
ダメ子は、不意に、切り出した。
「ねえ? 自分に、何ができるか、なんで分かるんだろう?」
漠然とした問いだった。
だが、寝ているブルースカイ以外の二人は。
確信を持って、答えることができたのだ。
自分に、何がデキるかを、考えたとき。
やろうとしたら、できてしまうだけだ。
思いつくのでは、なく。
デキる場合は、自然と体が動き。
気づいたときには、できてしまっている自分を見て。
デキるのだと、分かる。
部分的に、誰かの記憶が、植えつけられてるように。
話を、すればするほど。
三人とも。
感覚的には、ほぼ、同じだったことが、分かった話。
そのあと、ダメ子は、寝てしまった岩沢を無視して。
独り言のように、しゃべりだした。
「やっと、私が、どういう存在か、わかった気がするわ」
ジュライ子は、何を言いたいのか分からず、次の言葉を待った。
「私たちは、存在があって、願いがあるのね」
ダメ子の独り言が、子守唄のように、暗い横穴に消えていく。
「私達は、体を作るものがあって。
願いが、私たちの「できること」の、方向性を決めるのよ」
「……」
「だからね。自分に「何ができるのか」を考えるときは。
自分が「何から生まれて」「何を願われたか」考えれば。
たぶん、願いの範囲の中でなら。
ありえないと、思えることすら、できちゃうハズなの」
なんでもできるなら、それは、沙羅と、同じなのでは、ないか。
ジュライ子の、そう思った心に、すぐ、ダメ子は、言葉を返した。
「でも、限界はあるのよ」
「限界?」
「そう、限界。
私たちは、生まれるとき。
使われたモノ以上の奇跡は、ないんだわ。
それが、沙羅様との、決定的な違いよ」
「使われたモノ以上の奇跡?」
「そうよ。
沙羅様は、望むままの形を、自分のキャパシティを超えてすら、実現できる力を持っているわ。
だけど、私たちは。
自分たちの、キャパシティを超えることは、できない。
キャパシティ以上の力を使うには。
沙羅様が、願った思いに沿った形じゃないと、使うことができないのよ」
「じゃあ、私の場合どうなるの?」
「ジュライ子ちゃんの場合は、そうねぇ。
葉っぱや、枯れ木から生まれて、食料問題の解決を、願われたわ。
だから、あなたは、植物と言う範囲の中で、食糧問題に関しては、何でもデキるハズだわ。
それが、どんなものか、分からないけど」
「じゃあ、私は、葉っぱしか作れない…」
「そうでもないわよ。ジュライ子ちゃんは、私たちとは違う。例外が、あるもの。
それが、あなたの「できること」の幅を、大きくしているかも、しれないわ」
「例外?」
ダメ子は、ひと呼吸おき、ゆっくりと口にした。
「本当に、羨ましい。
私にも、岩沢ちゃんにも、使われてないモノよ。
あなたには、魔法石が、使われているわ」
「魔法石があるから、どうなるの?」
「これが、どれだけ大きなことか、分かってないみたいねぇ~」
ダメ子は、何度も「いいなぁ~」とか。
「羨ましい」という言葉をはさみ、言葉を繋げた。
「私や、岩沢ちゃんが使っている力は、あくまで「スキル」でしかないの。
野球選手がサッカーをして、サッカー選手には、絶対かなわない。
でも、あなたは、魔法という万能を持っているわ」
「万能って…」
「私たちは、野球をするために、全てのスキルを、持っているわ。
でも、サッカーは、できない。
だけど、あなたには、サッカーが、できる可能性があるの」
ダメ子の言わんと、していること。
感覚的に、理解できるような気がしたが。
ジュライ子には、何よりも、分からないことがあった。
「ねぇ、先輩。野球とサッカーってなに?」
「…え? 今、時間の意味は?!
何にも、伝わってないじゃない!」
「うん、なんか、ごめんね?」
「あ~、もう。ねるわよ~」
なんて言葉で、区切られてしまった、会話。
聞きたいことは、たくさんあったが。
明日は、早いと目を閉じた記憶。




