23話 スレイ 1
誰もが、一度は、想像したことがあるだろう。
自分が、数年後、どうなっているか、を。
将来的には、と言う言葉で、終わらせているのだろうか?
どうなるのかわからない、未来。
本当に、そうだろうか。
うっすらと、このまま行けば。
どうなるのか、見えているのでは、ないだろうか?
あやふやな話だ。
今日の先にしかない未来を。
そうなると、確信できるときは、どんな時だろう。
あまりにも少ないと。
思ったことは、ないだろうか?
一握りと、口に出さなくても、誰もが思っている、絶対なる幸せ。
歌われる幸せは多いが。
個人の幸せは少ない。
曖昧だから、大雑把な幸せという言葉でくくられ。
言われたモノが、幸せだと勘違いしてしまう。
そんなものは、まがい物だ。
なぜなら、幸せは、人によって基準が違のだから。
個々の幸せと、多く言われる幸せは、全く別物。
食べ物の、細やかな好みでも、大きく差が出るのだから。
歌われ、言われる幸せこそ、あなたの「幸せ」なのだろうか?
何が幸せか。
一人、一人、違うというのに。
それを彼女は、確信していた。
確信していたからこそ。
自分の想像を超えていく物事が、理解できなかった。
いくら言葉を並べたところで、なにも変わらず。
自分の心だけを救う言葉や、出来事が。
ヒドく冷静に、ソレが、何であるかを考えさせた。
一口で、言い切れないと言うが。
大抵の物事は、どんなに悲惨であっても、一行で説明できてしまう。
言葉さえ選べば、言い切れてしまう。
言葉にできないのは。
体験した本人が、全く無関係の誰か、では、ないからだ。
自分ではない、誰か、とは。
誰でもない自分に、投げかけたとき。
浮かび上がるのは、感情を含まない言葉だった。
白い光が舞い、ホコリを照らす、馬小屋の中。
彼女は、うつろな目で。
自分の相棒である、馬を見つめ、深みへ沈んでいく。
村に住むモノにとって。
馬は相棒であり、運命共同体と言っても良いほどの存在だった。
足がなければ。
水すら飲むことが、できないのだから。
この動物の前に、ウソはつけない。
動物は、素直なのだから。
素直すぎて。
小難しいウソは、ないことにされてしまう。
どれだけの時間が、たったのだろうか。
空腹と、深い眠気を感じると言うのに。
彼女は眠らず、動かず、ただ馬を見つめていた。
自分の全てを奪ったものは、何なのだろう。
疑問が疑問を呼び。
馬が、我に返らせる。
死んでしまうと、自覚できるほどの危険信号を、体が発していると言うのに、彼女は考え続けていた。
そして。
一つの答えに、たどりついた。
確信していた自分が、愚かしいと。
全てが、サイコロのように見えた。
自分が、一番、大切だと思えた、男でさえも。
愛情がなかった、ソコまで思いは、なかったのか?
それは違うと、彼女は言い切れる。
むしろ、その逆だ。
大切すぎたからこそ。
彼女は、この考えに、たどりつけてしまった。
特に理由もなく。
勝手に、そうなるんだと、思いこんでいただけ。
大切すぎるから。
些細な、一つ一つが。
彼女に涙を流させる。
大切なモノが、壊れてなくなると。
なぜ、考えなかったのか。
それだけ、恵まれていたのだと。
笑えていた自分自身が、愚かしい。
こんなことを考えてしまう自分自身に、嫌気がさした頃。
彼女は、つぶやいた。
竜に会いに行こうと。
彼女は、すがっているとすら、気づかずに。
夢も希望もない、現実にある、一つの光。
光は夢だった。
夢だ。
ただの、夢。
満たされ、心に安らぎを与える、望まれた未来。
彼女の夢は、目標に変わった。
馬の手綱を手に取り、彼女は立ち上がる。
一週間もしないうちに、茶色く染まっていた肌は、褐色が良くなった。
苦しさも、つらさも。
ただ、目標のために。
だが、目標は明確だが。
頭で推し量ることしかできない事に、彼女は、イラだち始めた。
何事も、絶対はありえない。
そして、間違いは、起こった。
彼女は、誰よりも、胸に刻まれているのだから。
死ぬハズのない人が、死んでしまったのだから。
寝る間も惜しみ、慎重に、慎重に。
彼女は、自分を鍛え始める。
彼女から見た、自分と言う人間は、自分という体は。
目標を果たすための道具に成り果てた。
何が良かったのか、何が悪かったのか。
良かったと言えば、良かったのだろう。
生きる気力を、取り戻せたのだから。
生きたまま、死ななかったのだから。
ある意味、最後のラインは、保たれたのだ。
彼女は、思いつく限りの方法で、体力を、つける努力をした。
目標は。
彼女にとって、物事を推し量るラインであり、線でしかない。
村の子供から、老婆まで。
みんなが心配するほど。
ただ、泥と土と、血の毎日を積み重ねた。
終わりが見えないように見えた努力は。
みんなが望まない形で、終わりを迎えてしまう。
キッカケは、ただの、善意だった。
彼女を心配した、みんなの善意だ。
寝ない彼女を、寝かせてやりたい一心で、使われた睡眠薬。
効力は弱く。
健康な人が飲んでも、入眠剤ぐらいの効果しかないものだ。
だが、すぐに彼女は、昏睡した。
当然の結果と言えば、そうなのだろう。
彼女は、寝なければいけない体に。
疑問を持っていた、ぐらいなのだから。
一日以上、目覚めない彼女を。
村の女達は、手厚い看病し、目覚めれば喜んだ。
うまくいったと。
皆は、一週間以上、同じように過ごさせた。
彼女の肌つやは良くなり、顔色は、はれていき。
体中についた、小さな傷が消えた。
まるで、村で笑っていた、彼女の美しさが、戻ってくるかのようだった。
それが、間違いの始まりだったのだ。
人に良いことをするのは、難しいと、よく言ったものだ。
寝る間も惜しみ、努力を積み重ねた彼女は。
自分で、キチンとした休みを取るという発想が、完全に抜け落ちていた。
ひどい焦りと、義務感が。
彼女の体を、突き動かしていたのだから。
電池が切れるように眠り。
動けるまで体が回復すると。
自然に、目が覚めてしまう毎日。
疲れ果てなければ、寝ることができず。
寝られても、長くは寝ていられない生活を、してきた彼女は。
皆の善意により。
自分では、けして手に入れられない、健康な体と、体力を手に入れた。
村の外に出たことない彼女が。
女身一つで、長い道のりを、森を抜け、山を登る。
非常識で、どうしようもない目標。
彼女を本気で止めたいなら。
山に行けなくなるまで、放っておくべきだったのだ。
無理な努力を続けた人間の末路は。
誰にでも、想像がつくぐらい、決まっているのだから。
精神論だけで、物事は解決しない。
弊害になる方が、多いだろう。
正しく体を鍛え、正しく旅に慣れれば。
目標は、非常識でも何でもない、ただの作業に変わる。
村にいる、すべての人は。
分かりやすい形で、そんな、当たり前の事を、理解する事になった。
彼女が村から姿を消す、という、結果で。
正しく努力するなら、旅に出てしまえば良い。
村から出なかったから、お金はある。
あとは、こなすだけで良いのだから。
体を鍛えて、一気に行こうとするから、無謀なのだ。
疲れが抜けた彼女の頭は、当たり前の答えを、静かに出した。
長々と続く昔話は、もう終わりだ。
続きは、もう、知ってのとおりである。
長い時間をかけ。
彼女が、白竜の山を見上げた姿が、全てを語るのだろう。
ここから始まり。
まだ、終わっていない、竜騎士のお話。
終わりなく、まだ、続いている。
まだ、流れの途中。
かなわない夢は、きっと美しいと、信じ続けただけ。
タイムスリップや、やり直しや、後悔の物語などではない。
途中で諦めることを、やめてしまった彼女の、妥協の物語。
終わりは来ない。
だが、もう、望みもない。
でも、竜との約束だけが、残され続ける。
妥協の物語だ。
妥協し続ければ。
結局、真下まで落ち続けていく。
ゆっくりと、着実に悪くなっていく。
はい上がることもできず。
上を見上げても。
別に欲しいものでは、ないのだからと、絶望もしない。
半分を、半分に。
嫌なことを、半分飲み込んで。
階段のように少しずつ。
最善も得られない。
半分を半分に。
良いとは、思えないけれど。
どうしようもないと、諦めて。
半分ずつで、足し引きゼロになると、勘違いし続けて。
妥協とは、諦めという概念の上にある。
全部を諦めることなく「今は」という言い訳が、なせるワザでしかない。
どうしようもないのだから、と。
何もできない自分の肯定でしかない。
だから。
ブルースカイは、彼女に立ち向かうのだ。




