表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/230

森の方角とスカイブルー 2


 コンパスだけ持っていた方が、まだ、可能性がある。


 勘違いしがちだが。

 真っ先に必要なのは、精密な地図ではない。


 自分の現在位置を確認でき、進む方向を決める手段だ。

 方向さえ正確に確認できれば。

 ぼんやりとした地理でも、歩き続けることが可能になる。


 だが、それでは、必要以上に時間がかかってしまう。


 目的地に到着するため、安全に、大自然を進むには。



 正しく現在位置を把握し。

 途中で進む方向を、正しく修正する必要があのだ。


 なんの装備もなく、知恵もなく。

 コンパスが使い物にならない、富士の樹海に、興味本位で入いり。

 帰れる確率は、恐ろしく低いのも、うなずける話しだ。


 現地の人でさえ、体にロープを巻き付け、入り口から伸ばし続けて、捜索するのだから。


 例外として、森に慣れており。

 大きな空間を、庭のように把握しているなら。

 どうにでも、なるのだろうが。

 沙羅達に、そんな地理感覚があるわけがない。


 森が庭だと言えるのは、境地的役に立つ、特殊技能なのだ。


 万能の方法論として、空を飛べれば良いのだが。

 ここに並ぶ人物達は、間違いなく、二足歩行の陸上生物である。


 こうして、沙羅の思考は一周し。

 思いつきに、花を咲かせるのだ。

     

「岩沢。お前のロックフィンガーで、まっすぐ道をつくれるか?」


「おお~。さすが沙羅さまぁ~」

 ダメ子が、バカにしているのにすら気づかず。


 「わかった」の、一言で動き出すから、岩沢は、岩沢なのだ。


「岩沢ちゃん! ちょっ、まっ!」

 なんの迷いもなく岩沢は、横穴の外まで走り出し、沙羅の声も聞かないまま、地面に向け拳を突き立てる。


「弾けて、道になっちゃえ~」

「沙羅様、止めてぇ~」


 岩や、石を思いのまま操る、お力は。

 標高が三千を余裕で越えるであろう、山肌に、すべり台を構築したのだ。


 闇雲に、この規格外の力を。

 村があるであろう、方向に向かって、撃ち抜いたらどうなるか。


 遭難二日目にして、村を崩壊させるという現実と、オチが見えるというモノだ。


 最悪の結果を避けるために、大きな声を上げたダメ子の努力も虚しく。

 岩沢の左手の甲が赤く光だし。


 すぐに地面に変化が現れた。


 小石が地面から生え出し、地面に転がっていく。

 パラパラパラと。


 むなしい音が、森の奥まで聞こえ、想像していた結果は、いつまでもやってこない。


「え~っと?」

「今は、素直に喜んだほうが良いですね、これは…」


 沙羅の声に、ダメ子は、胸をなでおろし。

 沙羅は、行き場のない感情を、横穴の壁に叩きつけた。


 ダメ子は、咳払いを一つして、沙羅に、いつもの無表情を見せる。


「沙羅様。私もそうだから、やっぱりと、思っていましたが…」


「なんだよ」


「自分の領分以上のことはできないですよ、私達は」


「願いの話か?

 ダメ子と岩沢は、今を救える方向性の力は、あるんじゃないのか?」


 ダメ子は、誰かに助けてほしい。

 岩沢は、この最悪な遭難状態を打破してほしい。  


 沙羅の願いの方向性で言えば。

 人里にたどり着くため、というのは。

 岩沢と、ダメ子の領分であると、言えなくもない。


 森踏破は、この二つの思いに、そった願いにも思える。


 ダメ子は、過剰解釈だと言いたいのだろうか?


 話は、そんなに、ややこしいモノなどでは無い。


「違います。「遭難状態の打破」は、言い換えれば、この横穴生活を、何とかするための力なんですよ。

 しかも岩沢は、何から生まれましたか?」


「何が言いたいんだ?」


「つまり、岩沢は、岩や石に対する力しか持っていないのですよ。

 今の結果で、確信しました」


 この理屈でいくなら。

 岩肌を、すべり台を作り変えたり、階段を作り上げた力の説明は、つく。


 今いる山は、言ってしまえば、大きな一つの岩の塊なのだから。


 厳密に言えば、土は違うが。

 砂は石や岩に分類できるのだが、ダメ子が言いたいのは、そんなことではない。


 土の大地と、緑の空間に対して。

 岩沢が力を行使しても、存分に力を使えないと、言うことが言いたいのだ。


「それで行くなら、ジュライ子、最強説が浮上だろうに」


「え、私?」

 気の抜けたジュライ子の返事の横で。

 話についていけない岩沢は。

 結果に納得がいかないようで、外で、何度も拳を突き立てていた。


 繰り返すたび。

 石が地面から浮き出て、地面にパラパラと散るだけを繰り返しては、頭を傾げる。


「さ~らぁ~」


「ばっ! お前! 突進は勘弁しろ!!」

 沙羅に全力で避けられ。

 地面に転んだ岩沢は、ついに泣き出した。


 話が、ブッツリと切られる側の苦労も知らずに。


 岩沢は、沙羅に、地面に寝るよう指さされ。

 どこまでも素直な岩沢は。

 全力で突進を回避する沙羅に言われるがまま、地面で頭を撫でられ、メンタルの回復にまわった。


「沙羅が、つめたい。膝枕してくれない」

「うん。それは、人間規格に、なったらしてやる」


「どうすればなれるのぉ~」


「良い子にしてたら、なれるよ~」


「わかった~。岩沢、いい子にするぅ~」


 岩沢の世話は、人の身に余ると、噛み締めながら。

 しばらくは、口先で、ごまかしながら、教育しなければならないと、沙羅は、強く誓った。


「で、だ、な。ジュライ子」


「沙羅様。なんか私、馬鹿らしくなってきた」


「馬鹿野郎!

 ここで、やる気を失ったら、明日は、もっと、やる気が無くなるだろうが!」


「そうですねぇ~」


「で、ジュライ子最強伝説よ」

 もう、結論をさっさと、だしてほしいダメ子と。

 沙羅の期待の視線を受けたジュライ子は、髪の中から粒を取り出す。


 二人の顔を見つめ、震える指先が、地面に粒を埋めた。


「さ、さぁ~。みなさん、ごいっしょに?」


「ジュライ子は、食糧倉庫の立ち位置を主張しているわけだが、ダメ子さん」


「ジュライ子ちゃんなら、草木と、話ぐらい、できると思ったんですけどね」


「え? できますよ?」


 ハッキリと言い放った言葉に、二人は固まった。

 ジュライ子は、二人の反応に戸惑い、両手を広げ、小さく期待を拒絶する。


「草木、お花も、そうだけど。

 種が舞って、地面に根を張って、成長して枯れるまで、その場を動かないの」


「なんとなく、言いたい事が伝わってきたけど、ハッキリ言ってくれ」


「だからね、自分の回りのことしか知らないの。

 誰が通ったとか、昨日の天気とか、土に栄養がないだとか。

 動物みたいに、動き回るわけじゃないから…」


「周りの木に聞いていけば、分かるんじゃないのか?」


「言い方は悪いけど、勝手に生えて、勝手に種をまいて、勝手に枯れていく。ソレが植物なの」


「ほかに興味がない?」


「違うよ、他、という考えがないの。

 コミニュケーションする必要がない植物に、相談してほしいって言っても、無理だよぉ~」


「ちなみに、ジュライ子は?」

「それは…」


 チラチラと沙羅を見るたびに、頬が赤くなっていくのが、全ての答えだろう。


「ジュライ子ちゃん。なんで、このタイミングで沙羅様に、こび売ってやがるの?」


「ち、違いますよぉ~」  


「コレコレ、俺のために争うんじゃない」

 ジュライ子とダメ子の視線が、ふざけた沙羅を突き刺す。


「ご、ごめんなさい」


「今のは、沙羅様が悪いですからね。で、どうします?」


「ちゃ~」


 叫びにも似た甲高い声が、足元から発せられる。


 ブルースカイは、肩で息をしており、顔には、汗が浮かんでいた。

 すぐに、沙羅の膝に痛みが走る。


「イッテェ!」

 ブルースカイの両手に握られた、細い日本刀の先が、沙羅の膝に刺さっていた。


「ブルースカイさん、洒落になってないんですが!」

 あいもかわらず。

 足元から、ちゃっちゃ言ってる、ブルースカイの必死な姿に。

 沙羅は黙って、日本刀を摘み上げた。



 膝をさすれば、刺し傷独特の痛みが走り。

 膝までズボンをたくし上げ、見えた傷口には、うっすらと血がにじんでいる。


「おいたはダメだぞ、スカイブルー」

 取り上げられた刀を、取り返そうと。

 必死にピョンピョン、はねる姿は、なんとも愛らしかった。


「沙羅様。ブルーは、癒し要員ですね」

「ブルーって言うな、おばあちゃんが、出てくるだろうが」

 言葉に反応するように、ダメ子の鼻から、空気が必要以上に吐き出された。


「細かく馬鹿にしたな、お前」


「し、してませんよ」


 沙羅は、指先に違和感を感じ。

 視線を刀をつまみ上げた指を見れば。

 パタパタと飛び、日本刀を取り返して、満足そうに掲げるスカイブルーが、ソコに居た。


 皆の眼前を、おもちゃの鳥みたいに、パタパタと飛んで見せ。

 まるで、憎き敵を討ち取ったと、いわんばかりに掲げられる、つまようじ刀。


 今、こうして。


 村に行こう企画。

 最大の問題である、方角問題解決方法が、今。


 小さな体によって、示されたのだ。


「ブ、ブルーが、が飛んだ!」


「沙羅様、これで先に進めますよ!」


「ああ、そうだな!」


「沙羅先生、よかったね。ブルーが飛んだから…」

 三人の視線は、スカイブルーから、互いの顔に向かい、頷きあう。


「ブ、ブルーが飛んだ!」


 鼻から口元に落ちていく感情は、次第に腹筋を刺激していき。


 声が出ないよう、沙羅は地面を叩き。

 ダメ子は奥歯をかみ締め。

 ジュライ子は全身に力を入れる。


 だが、我慢すれば、するほど。

 こみ上げる衝動に、皆の顔と体は、地面に向かっていく。


 三人は、床に這いつくばり。

 なんだか分からない岩沢は。


 震える三人を見渡し、思いついたように、言葉を発した。


「沙羅、ダメ子、ジュライ子、アウト~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ