17話 倒れてた沙羅が悪い
体の重みを感じ。
眠りから覚醒していく感覚を確かめ。
沙羅は、ゆっくりと目を開けた。
視界には、なかよく三人の顔が並び。
三人並ぶ頭の頂点が、綺麗に三角形を作り、沙羅を見下ろしていた。
覗き込む瞳の色は、金と黒と茶色。
三つの顔は、全て違うが。
浮かべる表情は、皆一緒だ。
月の光が、ぼんやりと三人を照らし、暗い顔を、よりいっそう引き立てる。
「そんな顔して、どうした?」
三人は顔を合わせ、深い息を吐き出した。
「どうした? じゃないですよ!
横穴で、グッタリと倒れていたのは、誰ですか!」
顔に感じる冷たい空気、だが、体は温かい。
布団もないのに、どうしたモノだと見てみれば。
横穴の岩肌、高反発が売りの地面に。
外から集めてきたのだろう、葉っぱのベットがしかれ。
沙羅の体には、ダメ子の上着がかけられ。
その上から、さらに、大量の葉っぱが、ガサガサと崩れ落ちる。
火の近くに寝かされているのも、この暖かさを作り出すのに、一役かっているのだろう。
三人の髪に刺さった、葉や枝やゴミが。
今まで、どうしていたかを、沙羅に教えているようだ。
「添い寝してたのか?」
「だって沙羅ぁ~。体が、氷みたいに、冷えてたんだよぉ~」
「沙羅先生の唇も、青く変色していたから、みんなで、あたためなくちゃ、って」
沙羅は、安堵の息を吐き出した。
主に、よこしまな思いから。
(寝ているときでよかった…)
三人を、見慣れてしまい。
女だと言う事を忘れているから。
付き合っていられる部分は、大きいだろう。
問題がありすぎて、普段は思いもしないが。
この三人は、口を開かず、ただ、立っているだけなら。
美女であり、かわいいのだ。
純粋に外見だけなら、コレ以上の女性は、そうはいないだろう。
さすが、沙羅の力で生まれた、人外生命体だ。
そうでないなら、近寄るのすら、敷居が高いだろう。
岩沢・ジュライ子に関して言えば、存在が犯罪である。
装飾があるとはいえ、きわど過ぎる。
水着程度の面積しか、大事な部分を隠しておらず。
女性の肉体を、外に放り出しているのだから。
寝るときに抱き枕にしたら、翌日。
間違いなく男の子が爆発し、下着を、とんでもない事にしてしまうほどの破壊力だろう。
これは、大きな問題である。
現在、着替えもない沙羅にとって、下着が汚れることは、死活問題だ。
一つの大きな問題が、知らずに通り過ぎてよかったと。
沙羅の視線は、周辺へ泳ぎだした。
目線がグルリと一周し。
三人に、視線を戻した沙羅の表情は、ゆがんでいく。
「なぁ? 何なんだ、この惨状は?」
横穴の中は、枯れ木や葉が散乱し。
まるで、山賊にでも襲われたかのような、ありさまだ。
わざわざ聞かなくても分かるのが。
口に出したくなるほどに、ヒドイ。
横穴の中にある、努力たち。
努力だけだ、結果はない。
この状態から想像される経緯は、きっとこうだ。
倒れている沙羅を見つけ、三人は動転したのだろう。
帰りが遅いと、沙羅を見に行ったジュライ子は。
暗い源泉の近くで、体が冷たく冷え切り、声をかけても起きない沙羅を発見した。
どうして良いか分からず。
ダメ子を呼び出して、まずは薪の近くに寝かせるが。
沙羅が、目を覚ます様子がないことに動揺し。
ああでもない、こうでもないと、ダメ子とジュライ子が話しているのを尻目に。
岩沢が暴走して、とんでもないことになった。
ヤバいと、取り仕切り始めたダメ子は。
まずは、暖めようとしたのだろう。
それが、横穴の狭い床に、所狭しと散乱する、枯れ木や葉っぱである。
もっと暖めようと、焦って作った、いびつな薪台は投げ捨てられ、床はボコボコに。
そして、もう無理だと諦めたのだろう。
誰もが想像する、男の部屋以上に。
散らかりほうだいの横穴の中は、足の踏み場も、なくなっている。
はだしでココを歩けば、足の裏を、真っ赤に染め上げるだろう。
そして、原始的な方法にたどり着き。
最終的に肌で暖める事にしたのだろう。
横穴の中は、その経緯が、目で見て取れるほどの惨状だった。
枯葉や汚い葉っぱが、部屋の隅に山済みにしてあるだけなら、カワイイものだと思える。
散らかっているだけなら、片付ければ良いだけなのだが。
だが、それだけではないから、山賊に荒らされたように見えるのだ。
「横穴が崩壊している件」
奥の部屋まで続く道は、瓦礫でふさがれ。
かろうじて水だけが、静かな空間に、わずかな、せせらぎを作っていた。
岩沢が暴れた痕跡だと思われるが。
なぜ、壊したかは不明である。
岩沢の子供並の発想力・精神では、何をしても、おかしくないのが困りものだ。
横穴の広さが、振り出しに戻ったどころか。
ヒビが出口に向かって伸びている。
いつ崩れても、おかしくないと思うが。
そうならないように所々、不自然にキレイに直されている。
もはや、生活空間と言って良いのか、悩むほどだ。
逆に言えば、被害を、この程度に済ませ。
要点だけは押さえた、ダメ子を賞賛してもよいだろう。
だが、褒めようとした、そのときにダメ子は。
「あのですね、沙羅様。岩沢ちゃんがですね…」
視線を逃がしながら、言い訳を並べようとするのだ。
「ダメ子ちゃんだって、悪いんだよぉ~」
素直に言えば良いモノを。
こうして始まった。
めんどくさい、めんどくさい。
罪の、なすり付け合いに、沙羅はうんざりし。
目でジュライ子に答えを求めると、顔は真横へ逃げていった。
だから、沙羅は、こうせざる、えなくなるのだ。
ジュライ子も共犯かと、深いため息を吐き出し。
沙羅は、立ち上がり、仲良く並んだ三人に、人差し指を突き出す。
「おい、馬鹿ども! おこった事を、正確に話せ!」
それは、と。
三人が言いよどみ。
今度は言葉ではなく、目線での、なすり付け合いが始まった。
沙羅が、頭を左右に揺らせば。
頭の上にいたのだろう。
焦ったスカイブルーが、髪の毛にぶら下がり、視界の半分を埋め尽くす。
「ちゃ~」
両足を沙羅の顔に伸ばし、一息つくスカイブルーは。
和服の中身が見えている事も気にせず。
沙羅を横目で確認し、視線を泳がせてから、にこやかに笑った。
人の髪の毛と、顔を使って。
ロッククライミングを、している四人目のメンバーに、沙羅は、深い溜め息を吐き出す。
「ごまかせてると、思ってるのかなぁ?
君は、本当に、竜から生まれた子なのかなぁ?」
スカイブルーの足元に、沙羅が手を差し出せば、素直に上に乗り。
バツが悪そうに、手を頭に回し、顔を傾けて笑う。
「なんでも、笑って許されると思うなよぉ~?」
スカイブルーは、ちゃっちゃと、話す努力を試みるも。
全く意味がない事を、だんだんと、感じとり、最後には腰をおろす。
背中の羽が不機嫌そうに動き、必死に考える姿。
「スカイブルー」
顔が上がり、沙羅を覗き込む顔。
「可愛いから許す!」
瞬間、脇で俯いている三人の顔があがった。
その瞳には、希望の色が宿ったのを沙羅は感じ。
やめさせよう、出鼻をくじこう。
と、沙羅が口を開く前に、ダメ子が動き出す。
「沙羅様! 私、焦っちゃって、皆に指示を出したら、暴走しちゃった、てへっ!」
沙羅は。
ダメ子を、この瞬間ほど、殴りたいと思った瞬間は、ないだろう。
コレをカワイイと言ったら、いろんな方面に敵を量産できる。
あざとい笑顔を、貼り付けた顔に手を回し。
舌を少しだすダメ子。
本人が思いつく限り、精一杯のブリッ子は。
作為的という言葉を簡単に突き抜けていき、沙羅のカンにさわった。
続くように、ジュライ子が申し訳なさそうに動き出し、沙羅の肩をたたく。
やめれば良いモノを。
「私が、最初に沙羅先生を見つけたんだけど。
私一人じゃ、どうしようもなかったから、皆を呼んで…」
ジュライ子は、一度俯き、一言つぶやくと、体を沙羅に摺り寄せてきた。
「お腹が減っているから、焦っちゃうと思って。
みんなに、ご飯を食べてもらったら、もっと火がついちゃって…」
もはや、言っている意味が、わからない。
男性受け良くするのは、非常に簡単だ。
ソレは、男性から見れば、なのだろう。
外見が良くても、自分を可愛く見せるのは、技能だと。
沙羅は、思い知る。
沙羅が、無言で真顔を向けると、ジュライ子の目線は、左に逃げていき。
沙羅は、その姿に、みんなのうたの時間を強要する、ジュライ子の姿が浮んだ。
倒れている沙羅を、早く運び出さなければ、いけないというのに。
悠長に歌を強要する、純粋無垢なジュライ子を止めるため、その他二人の、必死に努力する姿までセットで。
「ごめんなさい。沙羅先生が言うなら私…」
ジュライ子が顔を真っ赤にして、自分の体に向けた腕を、沙羅は掴み上げる。
「18禁は、なしの方向で行ってくれ」
ジュライ子は、うなだれ。
ジュライ子のターンが終わるのを見計らい、岩沢が動き出した。
もう、オチが見えている岩沢の行動に、ため息を吐き出せば。
「さらぁ~。私が洞窟、壊しちゃったぁ~」
ギルティである。
なんのひねりもなく。
カワイく言えば、許してもらえるから、正直に言ってしまえ。
女々しい根性を、丸出しのまま、あっけらかんと言い放つ、岩沢。
この二人の姉と妹から、可愛さを学ぶには、無理があるのだろう。
沙羅は、まだ、ぼやけている頭を左右に揺らし。
また、深いため息を吐き出した。
手元から見上げるスカイブルーを横目に。
人差し指を、再度、三人に力強く人差し指を突き出して。
「ダメ子・ジュライ子・岩沢アウト~」
三人は、表情を固めたまま。
沙羅が地面を指差すと。
少し離れたところで、何も言わず三人は、綺麗に正座して座る。
キチンと着席してから、すぐに始まった。
隠そうともしない目線での会話に、沙羅は眉間を押さえた。
「お前ら、この短時間で仲良くなるのは、良いんだけどな?」
三人の顔は、同時に沙羅を覗き込み。
「頼むから。
俺を、コレ以上、俺を追い詰めないでくれ…」
静かな横穴の中に。
知能指数が足りていない、スカイブルーの、脳天気な声だけが響いた。




