みんなで作る物語 4 白の章 完
「ほれ、頭を上げてみろ」
「ナニして、くれてんですか?!」
「はいはい」
まだ、誰も顔を上げようとしない様子を見て、沙羅は。
「ダメ子、もうチョイ痛い目、見るか?」
「なんで!?」
「オマエが、全部、訴えたんだろ? オマエが、ソウさせろ」
一瞬、細くなった、ダメ子の目元に。
沙羅は、まっすぐ目線を返し。
「ちょっと、ホント、早く、お辞儀をやめよ?!
私が、とんでもない…。
沙羅様! なんで、両手を、白くしているんですか!」
「説得力あると思って」
「殺す気ですか!!」
「説得力あると思って」
「早く、顔上げて! みんな、もう、ダイジョブだから!
なんで、急にコンナこと、するんですか!」
「オマエの仕込みの、後始末させてやってるんだ、喜べよ」
「空気的に、そんな感じじゃ、なかったでしょ!」
みんなの顔が上がり。
沙羅は、疑問だらけの顔を、見渡して、ダメ子から手を離す。
「オマエら、さぁ?」
どうせ、望みを口にするなら。
そうなるかどうか分からない、ケド。
ソウしたい未来、があるのなら。
「みんなで、面白おかしくスゴしたい、ぐらい、言ったらドウだ?」
沙羅の言葉を、噛みしめるように聞く、彼女たちに。
沙羅は、見慣れた笑みを返し。
そのまま、座り込む者。
深い、ため息をつく顔。
口を押さえて、泣き出したリカの顔を。
沙羅は、まっすぐ見た。
「ココから、始めるぞ」
チュートリアルと、ゲーム本編の、区切りを決めるのは。
誰でもない。
線を引くのは。
沙羅自身、彼女たち自身だけだ。
誰かに、作られた物語などでは、ないのだから。
言葉で言う「覚悟」。
目覚め、悟るのなら。
この場を、区切りとするなら。
儀式は、必要なのだろう。
露骨に、わかりやすい形で。
それこそ、卒業式、成人式、結婚式、葬式のように。
「なら、キスを…」
露骨で、滑稽で、分かりやすく。
気づけば、ぽろぽろと泣いている、ダメ子を見て。
そのまま、沙羅は。
ぶっきらぼうに、口を重ねる。
「ダメ子が、いたから。この世界で生きている」
上空に、訳も分からず放り出され。
海に叩きつけられ、命を失わなかったのは。
ダメ子が、いてこそ。
沙羅は、岩沢の頭を撫で、口を重ね。
「岩沢がいたから、住む場所を、生活ができた」
二頭身のフザけキャラのハムスターを、山に向かって走らせたから。
横穴という、雨風しのぐ場所と、水源を得ることがデキ。
ブルーと出会うことがデキたのは、岩沢が、いてこそ。
沙羅は、ジュライ子の頬を、つつき。
真っ黒な瞳から、流れる涙を拭い。
「ジュライ子がいたから、オレは、オレでいられた」
菜っ葉とは言え、食料を口にデキ。
沙羅に、一人の時間を与え続け。
増えていく、クセのつよい姉妹達を、陰ながらまとめ。
精神的な当たり前を、口にし続けていた。
ジュライ子が、いたからこそ。
沙羅は、白龍の姿のまま立つ。
ブルースカイを、抱きしめ。
「ブルースカイがいたから、オレは、白龍のままでいようと思った」
白龍でなければ、白龍だからこそ、デキることがあると教え。
コンナ力を、持ち続けようと、思えるきっかけを、沙羅に与えたのは。
なんとか、サバイバル生活の実利を黙って、支えたのは。
ブルースカイが、いたからこそ。
沙羅は、スレイの頭を撫で。
「スレイと、レレーナがいたから。法の力を、むやみに使わなかった」
あの事件があったから。
この世界を、ゲームのような世界だと思わずに済んだ。
法の力が、恐ろしいモノだと、理解できた。
強大な力は、チート能力は。
手にしてしまえば、持て余すのだと、心の底から思えた。
そんなモノが、あったところで。
デキるコトなんて、たかが、しれている。
そう、思えるのは。
スレイと、レレーナが、いたからこそ。
沙羅は、植葉の震える両手を握り。
「植葉いたから、オレは白龍として、覚醒できた」
あれだけ、行きたかった人里に行き。
人の作った、暖かい食事の味を噛みしめ。
ソニャ・ソリド・サイモンと会話がデキのは。
小さな二人が、のびのびと、生活していたのは。
彼女が、スレイとソニャの意見を受け止めたから。
両性という、特殊な身体を持ちながら。
それでも、情愛に深い、植葉が、いたからこそ。
沙羅は、ソニャの前に、かがみ。
キツイ目元の顔を撫で。
「ソニャがいたから、オレは…」
「ハッキリ、言いなよ」
「オレは、吐き出せた」
「合格さね」
領主ソニャが、いたから。
話を聞いてくれたから。
ようやく、素直に、泣くことがデキた。
記憶なんてない、小さな、体になっても。
その面影は、感じることができ。
どうしても、思い出してしまう、領主ソニャが。
今のソニャに、かぶって見えるから。
吐き出したモノを、間違いだと思わずに済んでいる。
こうして、望んで、ソニャが、そばに、いてくれるからこそ。
沙羅は、リカの前に立ち。
「もう、泣いても良いんだと、俺は思うぞ?」
「だれの、せいですか…」
「すまない」
「こんな、奇跡があって良いのでしょうか…」
「リカがいたから。あきらめずにすんだ」
「もう、ダメです…」
リカが、いなければ。
ソニャの一件からの沙羅を、支え。
リーライフ・ネリナル達と違う、立場で。
モノを言う、彼女がいなければ。
屈んで、泣き出すリカに。
年相応の、顔を見て。
安心している自分に、沙羅は気づき。
泣きじゃくる唇に、口をつけた。
子供のように泣き出す、リカを見て、立ち上がれば。
脱力した体を、地面に落とし。
泣いている一様、数通りの姿を、沙羅は見渡す。
「さて、オマエら帰るぞ」
沙羅の声一つで。
皆の涙腺は、崩壊し。
つられるように、沙羅は。
光る大きな球を見上げ。
膝から崩れ。
気づけば、胸を貸し合っている、彼女たちに。
一人一人と、抱きつかれ。
沙羅は、自分が、したことの重大さを、噛みしめた。
東の白龍は、平和の化身。
弱者を守り、弱者を飲み込み。
弱者を救い、願いを叶える者。
美しく、天舞う、姿は。
大空美麗のブルー。
この先の記述は。
また、書き残せる者が。
沙羅を知る、誰かが。
好き勝手に、書き並べるのだろう。
書かれた本人と、同じように、好き勝手に。
終わりも、始まりも。
物語として見るからこそ、あるのなら。
プロローグであり、エピローグなら。
もう、と。
言う前に、始まっている今が。
過去と噛みしめる、未来の自分に、幸、多かれと。
言葉で区切らぬ、思いを。
思うまま表現できるなら。
そんなに美しい世界はないと、思えるのなら。
手にすべき「宝」は、ソコにある。
異世界 完全遭難のネリナル
~生命錬成サバイバル~ 白の章 終
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