してくれるな、と、言っている 2
「戦いを終わらせる方法は、一つ。
全ての敵を滅ぼすこと」
凜としたリカの声が、沙羅の意識を引き寄せる。
「誰もが、そう、盲信し。
敵の概念さえ、曖昧なことに、気づかない。
大戦を見かねた神は、四竜を使わした」
四竜は、戦いを滅した。
剣をとることを。
やめることを、力ですり込んだ。
剣を握るだけで、竜に罰せられると。
四竜は、数ヶ月で、人から戦いを取り上げた。
四竜は、東西南北に、人を分け。
徹底した飼い殺し、統治を始めた。
竜が全知全能でアリ、絶対無比であるが故に。
各大陸を繁栄させ、豊かな生活を人に与える。
竜が、神であるが故に。
人は、考える必要がない。
人は、すがれば、神は答える。
竜が、この世の全て、であるが故に。
拳をあげず。
へりくだり。
慈悲を願えば、与える。
「竜を奉るコトこそが、人類史と、呼ばれるモノだ」
やけに通るリカの声。
本に書かれた文章を、朗読しているだけだろう。
そうだと、分かるから。
沙羅は、聞くほかないのだ。
「全知全能の神が、我々、後藤のペットだと言っている。
歴史など。
未来の物書きが、偉業を並べ、後生に美しく伝えるモノだ」
「なら…。神代行は、なんでオレを、ココに送ったんだ?」
大戦を終結させたなら、竜の役目は、終わっている。
ソニャの街しか、見ていない沙羅でも。
根付いた文化を、感じることがデキた。
できあがった、世界に、救世主は必要ない。
救済は、すでに終わっているのだから。
「なんで、オレ、だったんだ?」
法の力のような、強大な力なんて、なくても。
この世界は、やっていけるだろう。
白龍を継ぐ必要すらない。
沙羅を、この世界に送り込む理由なんて、ドコにもない。
「かわいそう、だったのだろう」
先の言葉が、なにも思いつかないほど。
簡潔に言い表された。
「なぜ、この人物なのかと、後藤に聞けば。
そう、笑って言うだろう。
四竜は、長く生きすぎた。
もう、竜という現存神も、害でしかない。
だが、全てが、終わったわけではない。
我々四竜は、後藤に願ったのだ。
代行者を、と」
沙羅は、白くなった思考をたぐる。
かわいそう、だったから。
ブルーの願い通り。
神代行の後藤が、人物を選ぶとき。
送る張本人が言ったであろう、言葉には、含みがある。
馬鹿にした、言葉などでは、ないだろう。
背景に、これだけのモノが、並んでいるのだ。
かわいそう。
なんて、初見で、出てくる言葉ではない。
コトの始まりが。
後藤が神代行になり、大戦が起こったことなら。
ブルーと、リカの言葉が。
この世界で見たモノが。
沙羅の体に、少しづつ、実感を、のせていく。
「…コレは、ドコまで繋がっている、話なんだ?」
「まだ、歴史を区切れる話では、ないだろう」
一つ一つが、終わったと思っていれば、続きがある。
スレイの件が、たまたま、やり直せただけなら。
この話の流れの中、些細なことでしか、ないなら。
上空落下から始まった、サバイバルは、途中でしかない。
始まりは、メールからだ。
そう、思っていることも。
説明一つ受けず、始まってしまった、全てが。
経験してきた、全て。
そのものが、チュートリアルなら。
まだ、チュートリアルすら、終わっていない。
こうして、ブルーと話しているのも。
リーライフ・ネリナル達と、コウして生活してきたのも。
小説の始まりに、終わりに。
プロローグと、銘打たれるなら。
これで、終わりと、始まりを、区切るなら。
始まりだけが、埋まった。
終わりのプロローグは。
沙羅が、立っている地点などではない。
本を、途中で読むのを、やめれば。
読み進めたストーリーは、なかったことになる。
完結し得ない、書かれたフィクションに。
決着が、訪れることはない。
あるなら、勝手な妄想だけだ。
読むのをやめるときは、本がつまらず。
読むに堪えないから、投げ捨てるのだから。
巻数を重ね、全ての話が繋がっていたら。
オチを知るには、ネットで、ネタバレを覗くしかない。
簡潔に、説明されたところで。
多くの文字、絵の並びが、語るモノが。
伝わるハズがない
結果を掴んだところで。
ノウハウを得るには、経験するしかない。
濃密に、積み上げられてしまった、全て。
始まりは、上空でも、メールでもなく。
もっと前から、望まれてしまった、モノが。
形に、なっただけに、すぎないなら。
四竜に望まれたモノが、大戦の終結ではなく。
法の力のように、願いだけが、始まりだったなら。
ドウすれば、願いが叶うのか。
願いも、夢も。
形があるようで、明確な形など、ドコにもない。
思い、でしか。
ないのだから。
アトに続くのは、どのように形にするか、だけだ。
形にする人物として、沙羅が、選ばれたなら。
すべて、仕組まれたと捉えるのは。
間違っているのだろう。
問題が、用意されていただけだ。
数学では、ない。
答えが、人の数だけ存在する問題に。
沙羅は、答えを示しただけ。
沙羅で、なかったら。
同じ状況におかれ、答えが変われば。
リーライフ・ネリナル達の数も、法の力のあり方も。
サバイバル生活なんてコトにすら。
なっていない、かもしれない。
「どうせ呼ぶなら、楽しく生きて欲しい、そうだ」
メールを送りつける前から、神代行は、沙羅を知っていた。
知った上で、送りつけた。
「かわいそう、だった、から…」
本当の始まりは、この言葉から、なのだろう。
「この世界に来ても困らず。
生活水準が落ちるコトにさえ、目をつぶれば。
妄想、偶像、作り物でしか。
あり得ない世界に、来たことを。
受け入れられる人物、それは」
夢だったのは、ドコからだろう。
目覚めてからなのか。
全てを無視しして、寝たところから、なのか。
メールを見てから、なのか。
考え始めた自分に、沙羅は驚き。
なぜ、かわいそうなのだろうと、思考は落ちていく。
母が、息子や、父の言ったことを聞かず。
母が信じれると、認定した人物の言葉が、全てになり。
自分の家族のことですら。
ママ友か。
どこぞの、オヤジか。
金持ちの意見を丸呑みして、決め。
自分で、自分の考えを、正当化する理由が、根拠が欲しくて。
何かを、アテにしてしまう。
めんどくさい人だった、コトだろうか。
一度は、部長まで上った会社が、なくなり。
転職したとき、平社員として、しか就職できず。
萬年、平社員止まり。
人を使っていたのに、使われ続けるから。
変な曲がり方をした、自尊心が。
無意識に、コンビニ店員を、見下す態度に表れ。
無意味な、マウントをとって。
精神の安定を保ち続けた、父に。
育てられたから、だろうか。。
二人の言うことが、イチイチ鼻につき。
醜悪だと、思ってしまい。
根拠のない、親マウントで。
何でも、ごり押しされるコトに。
心の底から、嫌気が、さしたことだろうか。
良くも悪くも、親だから。
何も言わず。
黙って、疎遠になる道を。
もう、オマエなんて知らんと、言われる選択を。
ワザと選び、一人暮らしを、始めたことだろうか。
本質を見抜いたところで、くだらない。
これなら、見抜けず、幻想を見ていた方が、良かった。
そう、思えたことだろうか。
オブラートに包まれない、薬や毒を、言い分けなく飲み込む。
ゲームで言うなら。
A指定、Z指定、十八禁ラベルなしで、プレイすると言うことだ。
見たくないモノを。
嫌悪感を抱くモノを、ただ。
そういうモノだと、見ること。
その中で、磨かれていくのは。
じつに、くだらない。
感覚的な度合い、呵責、見て見ぬふりをする、線引き。
自分の中にある、価値観。
一言にするなら、感覚的な全て、だけだ。
だから、沙羅には、思えてしまう。
つい、考えてしまう。
神代行、後藤が言った。
かわいそう、だった、は。
「もう、人生が終わっているモノなら__」
そんなに、優しい言葉などではない、と。
「死んでいる方が、都合が良いんだな。
だから、かわいそうだった、んだな」
だった、は。
本を読み終えなければ、出てこない。
途中なら、かわいそうだ、救われて欲しいになる。
過去に対する感想だ。




