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67話 してくれるな、と、言っている 1


「横穴なら、帰らなくても、イイんじゃ、ないですか?」


「今、気づいたのか、オマエは」


「沙羅様、優しいですね」

「うるせぇよ」


 ダメ子は、そそくさと。

 ジュライ子・植葉。

 ソニャ、レレーナを集め、横穴に消えていく。 


「勝手知ったる、なんとやら、か」

 新拠点より、生活に必要な仕事が少ない。

 究極的に、食料さえあれば、生活可能だ。

 ある意味、快適と言えば、快適だろう。


 快適の概念が。

 やることの多さで決まっているのが、納得いかないが。

 このまま、夜になっても、なんとでもなる。

 さすが、初期に生活を支えた、空間なのだろう。


テンションの高いままの、ブルースカイと岩沢は。

 次の輸送は、ドウすれば、良くデキるかに、花を咲かせていた。


 やる気があるのは、良いことなのかも、しれないが。

 どんなモノでも、度を過ぎれば、やり過ぎなのだ。


真面目に、仕事に取り組んでいると言えば、聞こえは良いが。

 数字を上げすぎれば、そのアト、苦しむのは、自分である。


高評価を得ようとして、ドツボに、ハマっていくのだ。

 そのあとの。

 頑張れ、休むなの言葉。

 毒性の高いことと言ったら、ない。


 高い評価は、内職をいかに数こなすか、で。

 求めてはならないと、誰か一人でも言えば、変わるのだろうが。

 残念ながら、最後は精神論に行き着く場合が、ほとんどだ。

 

 この二人の、タチが悪い所は。


 頑張って数字を上げ。

 自ら上げてしまったハードルに、音を上げるモノだが。

 そのまえに。

 見ているだけの周りが、音を上げる所だろう。


 ドンドンやれ。

 言われたからと言って。

 やり過ぎれば、中間管理職でも、立場が危うくなる。


 優秀すぎる人材は、はじかれるモノだ。


はじく力、以上の圧力で、圧倒的な結果を見せつけない限り。

 すぐに中間管理職を、すり抜け。

 社内の有権者に、届けるほどなら。


 中間管理職の立場としては。

 見えている水槽の魚だ。


泳がなくなったら。

 殺されるのは、管理者である。

 口八方になれば、いよいよ、だ。


絶対に、そんなことには、ならないから。


 能ある鷹は、爪を隠して。

 ちょいと、バカにされるぐらいの数字で納め。

 余裕を持つのだ。


周りに成績を求められ。

 うまく誤魔化すのと同じだ。


 さっさと、自宅で勉強を進めてしまい。

 テストで七・八十点を取り。

 授業中、黙って座っていれば。

 ノートに一日、落書きをしていても。

 問題がないのと、同じである。


 労働者は、評価を得るためではなく。

仕事そのものが好きか。

 生活をするために、働くのだから。


 この二つがないなら、労働者である必要がない。


 コンナことを、態度や、口に出せば。

 ロクなコトに、ならないから。


 うまく、隠すのだ。


 誤解さえしてくれれば。

 あとは、乗っかっていれば、良いのだから。

 全てに、勝つ必要は、ないのである。


 ココら辺のワビさびを。

 どのように、教えれば良いか。


 ブルースカイと、岩沢を見て。

 沙羅は、深いため息を、吐き出した。


「拠点の仕事を、黙って見ていたのは。

 帰ってから、困るから。

 言わなくてもやるなら、説明する必要もない、ですか?」


 横に立つリカが、笑顔で、突っ込みを入れてくるから。

 沙羅は、居心地が悪くなる。


「そういうコトを、ワザワザ言いに来て、ドウしたいんだ?」

「褒めているだけですよ?」


「さっさと、下に行くぞ、リカ」


「テレてる沙羅様、可愛いです」

「勘弁してくれ、マジで」


「イヤです」

「はぁ…」

 のそのそと、歩く沙羅の後ろに、リカは続いた。




全員で、下に行く必要もないと。

 すんなり飲み込んだ、メンバーを尻目に。

 岩沢・ブルースカイ・沙羅・リカは。


 落下していた。


 リカを抱えた沙羅は、壁に手を伸ばし、ガリガリと減速し。

 スグに、ブルーの遺産のある、部屋の前に立つ。


「岩沢、階段、作っといてくれ」

「なくても、イケる気がする」

「オマエらは、リカの存在を、もう少し、考えて行動しろ?」


「私がいなかったら、階段は、いらないんですか?」

「壁蹴りで、どうにでもなるな、きっと」


「本当に、規格外ですね、みなさん」


「沙羅は、ウチが運んで。

 岩沢ちゃんは、自力で行った方が早いよ、きっと」

「ソコまでの速さを、求めてねぇ」


 冗談抜きで、3・4万段ある深さを。

 カップラーメンが、デキる前に、登り切れてしまうだろう。


「岩沢、成り行きを見てなくて、イイから、早く作れ」

「はぁ~い」


「最初から、穴にしちゃうのは、考えたね、沙羅」

「下りるのは、オレでも、加減が効くからな。

 上るのも、オマエが、リカを抱えて飛べれば__」


「沙羅様、ソレは、イヤです」


「…階段なんて、いらなかったんだからな?

 岩沢に感謝しろよ、オマエ」

「…はい」


 ブルースカイは。

 おとなしく、光る球体まで歩く。

 触る前に、後ろを振り返り。

岩沢・リカ・沙羅に、良いか確認できるなら。


 なぜ、暴走するのだろう。

 不思議なモノだ。


 少し引きつった顔が、本人の思いを代弁している。

 気持ちの良いコトでは、ないのだろう。

 ブルーに体を貸すというのは。


 やはり、怖いのだろう。

 そう、思うが。

 どこか、違和感を沙羅は、感じ。


 違和感の正体を探せば。

 ブルースカイの目線は、沙羅ではなく。

 リカに、向けられているコトだと気づき。 

緯線を外さず、躊躇したまま、動かない。

 見て取れるほどの時間。

 迷う、ブルースカイの手は。


「ブルースカイちゃん、始めましょう」

 リカの声に、握りこぶしを作る。

 ゆっくりと変わっていく、ブルースカイの顔に。

 表情に。


 違和感が、警鐘をならしている。


 見覚えのある顔。

 そう、あれは。

 ブルースカイが。

 初めて、大きな姿を見せてくれた、あのとき。

 消えると分かっていて。

 踏み出してくれた、森の中。


 見ていられなかったから。

 法の力を使ってまで、送り出した、あのときの顔。


ちゃーちゃーと。

 ハエのように飛び回っていた、姿しか、知らなかったから。

 ギャップに面食らった、あのとき。


「私達は、進むしかありません」

 正面の光る球を見つめ。

 手を伸ばす背中に、沙羅は。


「おい、ナニを、しようとしてる?」


「今から、ご説明、さし上げるところです」

 説明する。

 言い含んだ。


「ブルー様より、お聞きください」

 のぞき込んだリカの顔に。

 不安が、かきたてられ。


「説明、さしあげる?」


 ブルースカイの体を、淡く青白い光が包み。

 ゆっくりと振り返り。

 目を開ける、ブルースカイの顔に、表情はなく。


 青く、深く。

 沙羅を見る目が、沙羅を捉えると、ほころんだ。


「笑っていられるようだな?」

 肩に、何かが乗った、重さを感じ。

 一度、区切られた、話の先に。

 言いようのない、焦りが浮かぶ。


 力の熱ではない、感情の熱が。

 今すぐに、引き返せと叫んでいる。


 一歩、下がった自分の足に、沙羅は、驚き。

 逃げてはならないと。

 前に足を進め、ブルーの前に立った。


「ツメは、あるようだな」

 背後のリカが、目を閉じるの見て、沙羅は確信した。


「ナニを、隠してやがる?」

 ブルーは、目を閉じ。

 ゆっくりと、口を開く。


「私は、ハムスターだったのだ、沙羅」

「話を、そらす気か?」


「そう答え、そう聞こえると言っている。

 まだ、あまりにも、言葉が足りない」

 淡々と、ブルーは続けた。


「沙羅を、この世界に送った、神代行 後藤は。

 沙羅の世に生まれ」

 昔話を子供に聞かせるように、ゆっくりと。


「ある日、ビールを飲もうと。

 冷蔵庫を開けたら、神になったそうだ」


「ふざけてるのか?」

 ブルーは、まっすぐ沙羅の目を、のぞき込み。


「そうだ。ふざけた、この世界の成り立ちだよ」   

 用意した言葉を、飲み込み。

 続く言葉を、待つしかない。


「後藤は、神代行とは言え。

 この世に、干渉デキることは、わずかだと知った」


 たとえば、全体から見れば、小さな変化。

 五十年後に、望んだ未来に、たどりつければ、それで良し。

 ダメなら、もう一度。


 それが、勇者のような人物を作るために、力を与えることでアリ。

 革新を進めるための、知能だったが。


 人の世の中で。

 逸脱した個人の力は、所詮、個人の力でしかない。


 神が望む変化を、生むには。

 与えた力と、革新のわずかでも。

 皆の力に変えなければ、変化は、あり得ない。


「ソノ話が。

 どう、オレと、なんの関係があるんだ?」


「あるのだ、全て。

 中年の四十歳 独身貴族。

 ビールっ腹、デコハゲが進行した。

 絵に描いたような、加齢臭漂う。

 人生、あきらめで塗り固めたような。

 野暮ったい、オジさんが。

 この世界の神だと言っても、誰も信じまい?」


「都市伝説の、幸せの小さなオジさんか?」 


「沙羅。そう、斜めに構えるな。

 こんなに、ふざけた話が。

 この世界の歴史だと、言っている」


「なに言ってるんだ? マジで」


「歴史を美化しすぎだよ、沙羅。

 どんな偉人であれ、当時の姿を見れば。

 偉人ではない、人々から、してみれば。

 人と、事件。功績しか、あるまい?」


「中年オヤジが、オレを。

 この世界に、送りつけたって。

 言ってるんだぞ? オマエは」


「信じないだろう? 沙羅だけではない。

 痛く傷ついた、後藤は、神の力を使い。

 性別すら捨て、後藤が思った。

 見目麗しい、女神の姿を手に入れた」


「後藤が、思ったって…。

 オタク臭が、漂ってきたんだが?」


「情熱のほとんどを、傾けてしまったから。

 独身貴族だったのだろう。

 この世に、干渉デキることが、少ないとなれば。

 かなりの時間を、持て余す」


「五十年に一回、なら、そうだな」


「後藤は、寂しかったのだ」

「…ちょっとまて」


「そうだ沙羅。四竜は、後藤が、寂しくて生み出した、ペット。

 この、白龍ブルーは。

 ジャンガリアン・ハムスターだった」


「笑えないぞ、ブルー」

 笑わせる必要なんて、ドコにもない。

 ブルーの顔に、沙羅は気圧され。


「東西南北、中央。

 この5大陸で、昔、終わりのない戦いが始まった」

 冗談ですらない、と。

 目に、たたき込まれる。


「戦いは、文化だ。

 殺し合いも、無駄になるまでに意味がある。

 コレこそが、歴史だ」


 それでも、短期間に。

 人類史に起きた戦争を、詰め込んだような。

 戦いが起きれば、そんな悠長なことは、言えない。


「国の乱立、国の陥落が続き。

 末期は、疑心暗鬼が、殺し合いを推し進めるだけの。

 国民もナニもない、殺戮ゲームだった」


勇敢なモノ、優秀なモノは。

 一番、最初に死ぬか、殺される。


 相手の力を、そぎ取り、平伏させるのが戦い。


 ならば、終わりがなく。

 高回転の戦争が続けば。

 力がない国から、なくなり。


 国という体裁を保てなくなれば。

 組織で武器を取る。


 組織が、維持できなくなれば、集団に。


 最後は、ただの、髪のつかみ合い、泥のかけあい。

 根性論が横行してしまえば、収拾がつかない。


「史実が残っていなければ。

 後の世に、ミスティリンクと、呼ばれていただろう」

 痕跡が、いっさい残らない戦い。


 弱肉強食の自然界のように。

 生きるため。

 誰一人、例外なく武器を、手に取った。


 自ら、建造物を破壊し。

 食料を焼き、自然を焼き。

 自らさえも、燃やし尽くした。


 ある程度の未来を予見できる、神代行は。

 この戦いの結末に。

 勝者などいない、病と飢えで、完全に死滅する未来を見た。


 神代行の干渉頻度では、収集なんてつかない。

 目に見えて分かる。

 醜悪な状況を、打開する存在が必要だった。


「全て、この世の歴史に記されている、事実だ」 



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