腹減った4
「なんで私は、そんなに、嫌われてるんですか?」
「いや、なにも期待できないヤツだと、思っているだけだよ」
沙羅の、包み隠さない本心である。
「それは、ヒドい。」
「伸びしろが、なにもない奴だと、思っているだけだよ、ダメ子」
「私、なにをしたんですか?」
「食い物を、黙って食っただろうがぁ!」
「毒味ですよ! 毒味!」
ダメ子は、スマホ付きガントレットの画面を、沙羅に見せ。
「ほら! こうやって、画像つきで、植物図鑑、更新しておきましたから!」
ディスプレイに映る、今、採ったであろう、草や木の枝などが、表示され。
指でスワイプすれば、次々、画像が流れていく、だが。
「説明文も、名前も、「???」じゃ、意味が、ないだろうが!」
「しょうがないじゃないですか! 分からないんだから!
説明文が、あるのだって、ありますよ!」
「見せてみろよ!」
ほら、と。
先程、隠れて食べたと思われる、木の実の画像の下に。
確かに、他とは違い、説明文らしきものが、添えられている。
味 すっぱい。 水分たっぷり。
果肉が少なく、腹の足しにならない、と。
「お前の、感想じゃねぇかぁ!」
「それ以外、なにがあるって、いうんですか!?」
「逆ギレ!? マジで、お前!
逆ギレして、くれちゃうのか!?」
「いっつも、文句ばかり言って!
私に、どうしろっていうんですか!?」
「万能になってくれ。できる子に、なろうよぉ~♪」
「イライラするぅ。本当に、イライラするぅ…」
喧嘩を始めた二人の間に、申し訳なさそうに、入ってくる岩沢に。
二人は、売り言葉と、買い言葉を飲み込んだ。
「この腕はぁ、私の体だったからぁ…」
自分のせいで、二人が喧嘩したんだと。
勘違いできるほどの逸材は、二人から、毒気を抜いていく。
「うん、大丈夫だよ。岩沢が、すごく、カワイく、見えてきたから」
先ほど行った「今・できること」会議に出た全てが。
実際に、できる事、やってみた事の全て、ではない。
本人達すら気づいていないか。
当たり前過ぎて、口にしていない、スキルが有る。
当然過ぎて、口にする必要すらないと言うよりも。
当たり前過ぎて、改めて、自分に、できることを言ってみろと言われ。
思いつかないのだろう。
気づいていない、コレが問題だ。
だが、やってみて、初めて自覚デキる、のだから。
気づかない限り、いつまでも、お蔵入りスキルに、なってしまう。
なにもない今、彼女たちのスキルこそが、生き抜く鍵である。
お蔵入りさせる余裕など、ないが。
本人ですら、気づいていないモノを、見つけ出すのは、難しい。
沙羅は、現場と会議室の隔たりを、見たような気がした。
沙羅は、つまみ上げた、ピンポン玉ほどの大きさの宝石を、刈り取った草山のの上に添え。
山のように積んだ物が、魔法石を崇めるための供物に見える。
あとは、手順を踏めば、生命錬成の力が、発動するのだろう。
沙羅は、岩沢を作ったときのように、人物像・名前を考え始め。
「木、緑、自然、う~ん」
さすがは、ゲーム脳というか、オタク脳というか。
沙羅が、すぐ頭に浮かんだのは、フェアリーだった。
妖精という名前通り。
トンボのように薄く、キレイに透き通った羽をもち。
光、輝いている存在だ。
金髪の髪は長く、後ろで結ってあり。
手のひらサイズの小さな体に、透き通る白い肌。
白いワンピースが可愛い、そんな女の子。
後半は、完全に沙羅の趣味である。
沙羅は、イメージを固め。
ゆっくりと、名前を考えている思考に、雑音が鳴り響く。
「沙羅様、私は? 私は可愛くないの?」
空気を読まないダメ子は。
沙羅の大事な時間を、かち割るため、身を乗り出した。
「どこかに旅立って良いよ?」
「ヒドい! どうせ、今度、生まれてくる子も、
岩沢ちゃんみたいに、おバカで。
草を食べ物だって、差し出してくるようなヤツですよ!
絶対、私のほうが、可愛いハズです!」
岩沢は、バカ枠のようだ。
どちらかというと、パンツ枠を突き抜けた存在だと思われる。
「マジうぜぇ…。
今度こそ、ちゃんとしたヤツが、生み出せるハズだろ?
ココまでやれば!」
ダメ子と、岩沢は、ちゃんとしていないと、明言した。
「私達が、ダメみたいな言い方、やめてくださいよ!
こんなに役に立ってるのに!」
「岩沢が言うなら、まだ分かる。
でも、お前が、ソレを言うか?」
「完璧じゃなくたって、
私達が、生まれてきてるじゃないですか!」
それが、問題なのである。
「ダメ子さんよ。岩沢と同列で、自分を語るなよ?」
「え?」
「ダメ子・岩沢じゃなくて、
ダメ子と、岩沢だから。
ソコを履き違えないように」
「私だけ、駄目な子判定!」
「今更、何、言ってんだよ?」
「どうせ、沙羅様のセンスの無さで、
次の子には、ジュ子、なんて名前つけちゃうんでしょ!」
「今度は、フライヤっていう名前だぞ」
ダメ子が、返す言葉を失い。
固まった。
「沙羅様、待遇に不満があります!」
「食べ物を何とかしてくれ、ジュ子__」
と、沙羅が、手をつき出せば。
沙羅の周りに、いくつも魔方陣らしきモノが浮かび上がる。
どうやら、この生物を生み出す力は。
掛け声など必要なく、材料を用意して、あとは想像力と願い。
生み出したいという、意志さえあれば、使えるようだ。
「なんて、いうわけない…。」
なんて言うフェイントは、全力スルーしたまま、ことは進んでいくようだった。
すぐに、魔方陣から、光の文字が吐き出され、素材の山に向かう。
「ON・OFFが、ゆるすぎる!
ダメ子、コノ野郎!」
「私は、関係ないじゃないですか!」
「オマエきたねぇぞ! 逃げるのか!」
途中キャンセルが、きかないのは、なぜだろう。
沙羅が周囲を見渡し、止めようと動くが、もう遅い。
止めたくても、止める方法が、分からないのだから、どうしようもない。
願うだけで止まらないなら。
もう、あとは、成り行きに任せるしか、ないのである。
光の文字は、枯れ木・葉っぱやツタを飲み込み。
祭壇のように積み上げた、全てを、光の内側に消し去っていく。
大きな木さえ、光の中に溶けていき。
全てが飲み込まれていく光景は、恐ろしく思えた。
光のワルツと言えば、聞こえは良い。
光が、次々に周りのものを、無作為に飲み込んでいく光景は、神秘的ですらある。
そこで、終わるかに思われた光の侵食が。
周りの地面・自生している草・花すらも、飲み込み始めるまでは。
「どういう、こと、だ?」
やると決めたら、とことん止まらない、この力。
途中でやめるとして。
光に飲み込まれ、消えたモノは、どうなるのだろう。
光に飲み込まれたモノは、例外なく光になっている。
光の核に、意思のようなモノがあり。
光自身が、成長を求めているのだとすれば。
ON・OFFが、ゆるい理由に、納得できてしまう。
一度、始まってしまうと。
もう、歯止めがきかない。
たとえ、失敗に途中で気づいても。
一つの生命が生まれるまで。
変化を、眺めている時間はある。
恐らく、焼いた肉が、生肉に戻らないのと同じく。
コーヒーにミルクを溶かしたら、ブラックコーヒーに、戻せないのと同じように。
一度、手を下せば、戻せない力。
失われたモノは、二度とは戻ってこない。
さながら、光の化け物が。
周りのモノを、見境なく、食い荒らしていく光景に、感じられてもおかしくない。
素材にできるものが、何でも良い、と、いうことなら。
この光は、文字道理、なんでも食い荒らす。
沙羅の、どういう事だと口にした疑問は、一つの答えになっていった。
複雑なことなど、何一つなく。
すごく、シンプルな答えだ。
持って生まれてきてしまうであろう、中途半端な能力すら。
食糧問題を、解決するための力であれば、なんでも良い。
中途半端な力の種類は、多いほうが良い。
だから、色んな種類の素材を使うべきだ。
「そうか、だから…」
だから、目の前の光は。
沙羅の願いを、聞き届けるためだけに。
必要なことを、しているに過ぎない。
命令に、反しているわけでもなく。
暴走しているわけでもない。
この、恐ろしいと思えてしまっている光の光景は。
誰でもない、沙羅自身が、望んだ結果である。
自由度が高い、力だから、こそ。
本日三回目になるが。
ポンポン、打ち出して良いモノではない。
もっと思慮深く。
気をつけなければ、望まない結果すら、生み出すのだから。
この光の怖さ、それは。
間違えてはならない、という事実、そのものだ。
間違いに後で気づいても、修正がきかない。
元に戻すこともデキない。
この力において、元に戻すとは。
買ってきた犬を、生きながら土に返すのと変わらない。
ダメ子が、自分で死ぬと言い出したのは、冗談ではなく。
失敗したから、元に戻すとは、こういうコトだ。
生き物を素材にしても。
生命錬成の力なのだから、元の形に戻せる訳ではない。
つまり、素材とした生き物を、別の生き物に変える。
これが、唯一の修正方法なのだろう。
沙羅は、自分が持たされた力に。
体が震えるのを感じ。
目線を、上げれば、光が、一箇所に収束し始めていた。
今回はもう、コレ以上、なにかを食い荒らすことはないと思えば。
深い溜め息が、一つ出てくる。
ふと、沙羅は。
光を、呆けて見ているダメ子の背中を。
光へ向かい蹴りとばした。
本気で焦ったダメ子は、前に体勢を崩し。
その拍子に、服から、木の実が、いくつか宙に舞う。
木の実は、光に消えていき。
ダメ子は、踏みとどまった。
「なにして、くれてるんですか!」
「いや、もっと良い子になるかと思って。
今、なにを落としたかな? 君は?」
「私の食料が!」
どうやら、途中キャンセルは、できなくても。
途中で、なにかを放り込むことは、出来るようだ。
変な体制になるのも恐れず、踏ん張らなければ。
ダメ子は、光の中に消えていたのだろう。
ダメ子が地面に体を丸め、最後の果実が光にとけたとき。
ダメ子の顔は、沙羅へ向かった。
半泣きの顔は物語る。
なにしてんの? ねぇ? なにしてくれてるの?
「オマエも、あの光の中に、放り込んでやるよ」
「あんまりだぁ~」
体のサイズよりも、羽や、外郭のせいで大きく見える体は。
何かに、あたることも出来ず。
地面に、この世の不条理を叫んだ。
その姿に、沙羅は。
自分の心が、晴れていくのを感じた。
沙羅は、胸のあたりが、赤く光だしたのを確認し、意思をこめる。
「こい、フライヤ!」
沙羅の胸から、赤い光が飛び。
赤い光を飲み込んだ、黄金光は。
無駄なく、一つに集約していく。
沙羅の肩から、無駄な力が抜け。
やっと終わりだと、安心したからだろうか。
視界が左右に揺れ、ボヤけていく。
頭を振り、再度目を開けるが。
視界はハッキリするどころか、だんだんと、暗く暗転していく。
立ちくらみにも、似た感覚。
膝に力が入らなくり、沙羅は、膝を地面につく。
強烈な脱力感が全身を襲い、上半身が、ユラりとゆれ。
地面に倒れると思い、急いで突き出そうとした両腕に、力が入らない。
意識が、後ろ側に引かれていく感覚が、沙羅を支配し。
奥歯を、かみ締めようとも、もう遅かった。
自分の意志で。
自分の体の何一つ、自由にすることができず。
どうしようもなくなった、視界。
地面が見えたような。
白く染まったような。
沙羅の曖昧な意識は、そこで暗闇に落ちた。
暗闇に落ち、薄れゆくの中。
沙羅は、ファンタジーな理由に、行き着き。
ゲームで、散々意識させられていた数字。
なぜ、そんなことすら、思いつかなかったのかと。
笑いそうになるほど、シンプルな答え。
わかり易い答えを噛み締め、最後の意識を閉じた。
MP、マジックポイント切れか、と。




