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59話 遭難22日目 ブルーの山へ 1


 遭難22日目


 日は、昇りきり。

 火の近くで、雑魚寝している、みんなの姿の中に。

 沙羅の姿だけがない。


 ジュライ子は。

 今か今かと、入り口を見ながら、火の番を続け。


 ついに、外が明るくなり。


 太陽の光が、ハッキリとした頃。

 望む影が、入り口から顔を出した。


「沙羅先生…」

「おう、おはようさん」

 入り口の縁に手をかけ、元気そうに笑う姿。


「大丈夫ですか? 寝ましたか?」

「ああ、大丈夫だ」


 言葉通り、顔に疲れが見えず。

 元気そうな所を見れば、嘘なんて言っていないことが分かり。


 笑顔を返すジュライ子に、言われるがまま。

 沙羅は、みんなを起こし始める。


(大丈夫なんだよな。一徹ぐらい)

 やせ我慢でも、なんでもなく。


 徹夜独特の倦怠感、妙なテンション上がり等々。

 何一つ、感じない。


 至って平常運転だ。


 徹夜明けなら。

 誰でも、顔や言葉に出てくるモノだが。


 ジュライ子が、寝たという嘘を、素直に受け入れるほど。

 自然に沙羅は、立っていた。


(あと、2・3日はイケるな、コレは)


 寝ようと思えば、寝れるが。

 眠気に負け、寝てしまうまで。

 大分、かかるだろう。  


 身体は、これ以上なく、充実しているのだから。

 なにも、問題に思えなかった。


(寝なくて良い体が。

 今、手に入るなんて、皮肉だな)



 夕飯にさえ顔を出さなかった、沙羅は。

 いつものように、ダメ子の頬を、はたく。


「体痛いんだから、もうちょっとぉ~」

「そいつは、悪いことをした」


 声だけで目を開く、ダメ子も、さすがだが。


 昨日のことを、全部無視して。

 ダメ子の眼前に座り込んでいる沙羅も、さすがだった 


「え? 沙羅様? 沙羅様!?」

「よしぃ~。オマエら、起こしてやるからなぁ~」


「ウチ、起きた。植葉ちゃん? 巻き込まれるよ」



 その一言で、体を起こす植葉も、さすがである。


 のんきに寝ているのは。


「リカと、スレイと、ソニャか」


「えっと…。

 リカちゃんは、起こさない方が良いと思うな。ウチは」


「沙羅先輩、私も、そう思うわ」


「ねぇ、二人とも。じゃあ、止めようよ?」


「何言ってるの、ジュライ子ちゃん。

 沙羅様が、リカちゃんを起こすと、どうなるのか。

 知りたいじゃない」


「姉さん…。なんて、悪趣味な」


「みんな、通る道よ」

「ごめんさい、リカちゃん。言い返せない…」


「ジュライ子姉さん、ソコは止めないんだ」


「ブルースカイちゃん。

 今止めても、いつかは、そうなるんだよ?」


「あ~」


「じゃあ、リカを起こすか」


 沙羅は、リカの体をゆする。

 だが、死んだように、力のまま転がった。


「え? 生きてる?」


「沙羅先輩、生きてるわよ。

 リカちゃんはね。

 眠りが、とっっっても、深いのよ」 


「……」


「沙羅様、正解です。そうなります」


「起こすの、やめてイイか?」


「ダメです。責任を持って、起こして下さい」


「誰も、起こしたがらないだけ、じゃないのか?」


「沙羅様?」

「なんだよ」


「正解です」


「なぁ__」

 みんな、姿を消していた。


「ダメ__」

「体が痛い…」

 心苦しかった。


「リカ、朝だぞ。起きろ」

 リカの体が、ピクリと動いた。


「さすが、沙羅様です」

「なにがだ?」

「一発で反応しました」


「…いつも、どうやって起こしてるんだ?」

「念仏のように唱えます」


「…いってみろよ」

「沙羅様が起きたよ。恥ずかしいよ?

 寝顔、見られちゃうよ?」


「……」


「唱えてると、だんだん起きます」


「だんだん、なのか…。

 リカ、寝顔かわいいな?」


 リカの上半身が、持ち上がる。


「えっと、そういう感じになるんだ…」


 目は閉じている。

 頭は、下を向いている。


 だが、体だけは起床している。


「ダメ子? 怖いんだが?」

「あと、一押しです」


「リカ、起きろ」


 顔が、持ち上がった。

 だが、目は閉じて。


「半開きだ」


「……。ごめんなさい。

 私が悪かったので、もう、やめて下さい」


「リカ~」

「おうあぁおう、ございまぅ…」


 意識が、曖昧だった。


「なんか、スゴいことに、なってきてるな」 

「もう、やめてあげて」


「リカ~」


 目が沙羅を捉え。

 鋭い目が、すわり。


「沙羅様? おはようございますぅ」

「ああ、おはようリカ」


「沙羅様だぁ~」



 顔をペタペタ触られ。

 抱きつかれ。

 最後には、全力で、なで回される。


「ダメ子ぉ?」


「ああ、そうなるんだ。

 これから朝は、沙羅様でお願いします」


「ダメ子ぉ?」


「沙羅様、それは幸せなパターンです」

「……」


「私たちは、朝食の間、チクチクやられました」


「その可能性が、俺にはないと?」

「ないですよ?」


「なんでだよ」


「私たちが起こしたら。

 人を殺しそうな目で、見られるんですから」


「……」


「えへへ」

 こうして、22日目が始まった。



 もぐもぐと。

 朝食を食べる、みんなの視線を。

 全力で、沙羅は受けていた。


「ソニャちゃん、わたしも__」

「バカは、命があるときにしか、いえないねぇ~」


「えっと、ダメなの?」

「今は、やめといた方がイイねぇ~」


 沙羅の膝の上には、リカが座り。

 沙羅の口に、焼いた芋が運ばれる。


「沙羅様、あ~ん」


 沙羅は、しかめっ面で、芋を口に含み。


「コレは、どういうことになってる?」


「沙羅様、話しかけないで下さい。 

 スゴく、怖いです」


 みんなの食事スピードは、心なしか速く。

 ブルースカイは、恥じらいもなく。

 必死に、口にモノを詰め込んでいた。


「ブルースカイ、はしたないぞ?」


「話しかけないでよ、怖いから」


「リカ、怖いのか?」


「誰ですか? そんな事を言う人は」

 リカの声に。

 みんなの視線は、手元の食器に落ちていく。


「ジュライ子ねぇさん、起きてる。起きてるよ」


「いいえ、ブルースカイちゃん。

 あれは、まだ少し、目覚めてないのよ」


「なにそれ、もっと怖いじゃん」 


「ああ、起こせば良いのか」


 沙羅の言葉に、みんなの顔が上がり。 


 空になった食器で。

 リカの頭をコンっと、叩く、沙羅が映った。


「……」


 沙羅以外は、リカの笑顔が固まったのを、目撃し。


 沙羅は、特等席で。

 リカの顔が、赤くなっていくのを見た。


「よし、リカ、落ち着こう」


「沙羅様?」


「ああ、おはよう。

 岩沢の姿を見ないんだが、ドコに行ったんだ?」


「岩沢ちゃんは、最初の横穴がある山に行ってますよ」


「会話が成立した!?」


「ブルースカイ姉さん。

 いま、一番ヤバイところだから、黙りましょ」


「ブルーの山の?」

「そうです」


「なんで、そんなところに?」


「岩沢ちゃんの魔法石は、山で、とれたんですよね?」

「そういうことになってるな。遠いだろ」


「えっと、岩沢ちゃんですよ?

 走ると、道ができる、岩沢ちゃんですよ?」


「……」


「いつも、楽しそうに、かえって来ます」


 岩沢の全力疾走。

 何も考えず、山まで力加減も考えず、駆け抜ければ。


「移動する隕石…」

「良い、たとえですね」


 さぞや歩きやすい道が。

 ブルーの山まで、できていることだろう。


「ブルースカイちゃんに、様子見てもらってますし。

 そろそろ、かえって__」



「さ~ら~。おはよ~」


「きましたね」


 まるで、朝のジョギングを終えた、清々しさすら感じる。


「ね~。リカちゃん、あったよ」

「ああ、やっぱり」


「うん。ブルーじいちゃんのだと思う」

「岩沢よ。ばあちゃんだぞ」


「ん? じいちゃんは、じいちゃんだよ」


「そうか。じゃあ、もう、それでイイや」

 沙羅が、リカを探すと。

 隣に見慣れた、リカが笑って座っていた。


「なんで、ブルーさん。山に引きこもったんでしょうか?」


「全部なかったことに、しようとしてる…」

「ブルースカイ姉さん。触れるのやめよ。

 いじったらダメなところよ、ソレ」


 沙羅の視線は、ソニャを追い、リカに戻った。


「聞けなくても、分からなくても、簡単です

 山に、なにか。

 居座らなきゃいけない、何かが、あったんですよ。

 岩沢ちゃんには、魔法石のついでに、探してもらいました」


「なら、行くか。ブルーの山に」


「えっと…。遠いですよ?」


「あ~。岩沢、山までかけっこしようか」

 まばらだった視線が、沙羅に集まり。


「全力で、やるぞ」


「「「「え?」」」」



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