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異世界 完全遭難のネリナル ~生命錬成サバイバル~ 白の章 素材から、生命を生み出し、大自然を生きよ  作者: chickenσ(チキンシグマ)
三章 平和の白龍 東大陸
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56話 光の柱を見た人々は、口を揃えてこう言った 1


 この事件が落ち着くまで。

 リカを、預かってくれないか。


 沙羅が、そう言った言葉を、リカが、拒絶した。


「私は、沙羅様の、おそばにいた方が、良いと思います」


 何を言っても、この言葉しか。

 繰り返さないリカに、根負けし。


 サイモンに、送り出されたのが、少し前の話だ。


 そして、あれだけ強情に、ついてくると、言った意味を。

 スグに見せつけるのも、リカである。 


 説明すらせず、ついて行くと言われれば。

 わがままにしか、聞こえないが。


 荷馬車の荷物の陰で、身を潜めながら。

 町の人と、リカが、会話をしている姿を見れば。


 何も言えない。


「リカは、何歳なんだろ…」


 ここは、異世界だ。


 身なりが十五・六歳、程度に見えても、だ。


 実年齢を、そのまま表すとは、考えにくい。


 ゲームで、散々見てきた。


 若い期間が長く、長寿な。

 エルフのような特徴を持った、種族であっても、だ。


 今なら素直に、受け止められるだろう。


 今回の件を、丸く収める方法として。


 ソニャに、法の力を使えば。

 全て解決なのは、間違いないのだが。


 ソニャの元に、たどり着くこと自体、至難の業である。


 ソニャの屋敷。


 ギルドが、ある場所に、たどり着くには。

 中央、噴水広場を越える必要がある。


 初めて来たときを、思い出せば。


 それが、どれだけ至難の業か。

 想像がつくというモノだ。


 街の入り口から。

 全ての道は、中央噴水広場に、束ねられている。


 この町は、扇状の区画が並び。

 その上で、四角の区画を作っているのだ。


 メイン導線は、扇状に延びた道であり。


 四角く区切られた道は、同じ所を、一周する形に作られている。


 隣の、メインストリートに行くには。


 一度、中央広場に行くか。

 街の外側を、大回りするしかない。


 沙羅が走り抜けた、裏路地の出口は。


 同じ、メインストリートに、繋がっていたのだ。


 あのとき、サイモンに、助けてもらわなければ。

 全てが終わっていたと、説明されたときは、冷や汗モノだった。


 四角の裏路地は、建物の、出入り口を確保する為にあり。

 左右の移動を、楽にする目的で、作られていない。


 南北を行く、何本ものメインストリート。


 このメイン導線を、つなぐ東西に延びる道は、限られている。


 まるで、埼玉県のようである。


 埼玉県なら。

 少ないが東西を結ぶ国道が、存在するが。


 この街に至っては。

 一度、県外に出るか、中央に行くしかないわけだ。


 さらに言えば。


 サイモンの屋敷は、街の端の端。



 ソニャの屋敷から、一番離れた位置にあり。


 倒れた沙羅を連れ出した手段は。

 布袋に入れて、荷物の中に隠して連れてきた、となれば。


 難易度の高さは、これ以上ない。


 人の目が、直接、治安に、関わっているとなれば。


 中央に向かう荷馬車が。

 見当違いの場所に行くのも、怪しまれる。


 そもそも、沙羅一人で、だ。


 住民であり、自警団である。

 市民達が歩き回る、メインストリートを。


 一人で、歩いて行くのは、自殺行為だろう。 


 中央噴水広場に、近づく暇もなく。

 暴行にあい、目的達成どころの話では、ない。


 リカが、馬車と荷物を、サイモンに頼み。

 成り行きを見ていた沙羅は、相当な、マヌケだっただろう。


 中央ギルドに、行くまでの距離は。


 スレイや、植葉と歩いた距離感を想像すれば、かなりのモノだ。



 全力で、露店を食べ歩いたとは言え。

 それ相応に、時間が、かかっている。


 こうして、リカに、荷馬車をひかせ。

 サイモン商館から、中央ギルドに、納品と。

 誰も、あやしまない、日常の一つに、溶け込めなかったら。


 目的地に到達することは、不可能だ。 


 どういう形でアレ。


 リカを買うことが、デキなかったら。

 ココで、詰んでいたのだ。


 一度、拠点に戻り。

 植葉の力を受け取ろうとも、思ったが。


 そこまで、時間的な余裕は、ないのだろう。


 サイモンが、あそこまで。

 必要最小限に、会話を、切り上げたのだから。


 もっと、時間があれば、と、言っても。

 限られているのだから、仕方ない。


 何度も、サイモンの言葉尻が、言っていたように。


 だが、問題は、待ってくれないのだ。


「沙羅様。×××が、あるようです。

 ココからは、××します」


 もう、すでに。

 単語を、聞き分けることが、怪しくなっている。


 今更、駅前留学しておけば、と、後悔しても、遅いのだ。


 言葉が通じなくなる問題を。

 屋敷にいる時点で、話し合いに、のせられていれば。

 とも、思うが。


 のせたとしても、結果は、同じだっただろう。


 話が、通じなくなる前に。

 ソニャに、法の力を使うしかない。


 で、話が、まとまっていたに、違いない。 



 幸い、ソニャの居場所は、屋敷の中だと、分かっている。


 最悪、言葉が通じなくとも。

 行動が変わることは、ないだろう。


「沙羅様、×××、お願いします」

「分かった」


 リカ不安を、させないためにも、同意だけ、返すが。


「沙羅様? ×××です」


「え? ちゃんと、隠れてるじゃないか」


「×××、さら×、××××!」


「…マジか」


「××さら、××××…」


「リカ、言葉が、理解できなくなった」 


「?」


「だよな、そう言う反応に、なるよな…」


 高卒の沙羅に。

 英語以外の言語を、理解しろと言っても、難しい。


 逆も、しかりだ。


 大事な部分の話し合いが、終わっていて良かったと。

 ため息を、ついている場合ではない。


 今、この瞬間に、言語理解が、なくなった。


 実行に移している、出だしも、出だしで。


 サイモンも、ソリドも、ソニャにさえ、言葉が通じないだろう。

 意思の疎通は、イヤでも、ジェスチャーに、頼るほかない。


 隠れていなければ、ならないというのに。 


 言語の便利なところは。

 声だけで、相手に、意思を伝えられることである。


 こんな、原始的な理解を。

 こんな所で、噛みしめている場合ではない。


 馬車が止まり。

 沙羅が入っていた、木箱の蓋が外され。


 リカの顔が、沙羅を、のぞき込んだ。


「さら××、×××…」


「リカ、もうしょうがないから。

 ソニャの所まで、行ってくれ」


「×××、×××?」


「なに言ってるか、さっぱり分からん」


 顔が見えているので。

 ジェスチャーも加えて、伝えようと試みたところ。


 リカは、ほんとうに、かしこいようで。


「×××」

「だから、分からないって」


 驚いたのも、一瞬。

 通じない言葉を、いくつも、沙羅に投げかけるが。


 沙羅が両手を挙げ、そのまま、耳元で手を振れば。


 リカは、口を開けたまま、少し固まり。


 馬車に積んであった、紙にと、インクで。


 馬車と、ギルド会館だと思われる。

 なんとも言いがたい、絵を描いて、突き出してきた。 


 スゴいと思っていたリカは。

 絵心を、まだ習得していない、ようである。



 馬車で、ギルド会館へ行く。

 それぐらいは、受け取れるから、絵は、偉大である。


 沙羅は、親指と、人差し指で、丸を作り。

 自ら木箱の蓋を、閉めようとするのを、同意と受け取ったのか。


 リカは、渋々、戻っていく。

 

 この世界にも、しっかり、馬は存在する。


 沙羅は、聞いて驚いたが。

 姿形は変わらないが。


 コチラの馬は。

 寿命も、体の丈夫さも、別格のようだ。


 馬と聞いて、想像するサラブレッドより。

 野生の馬は、ひ弱で、寿命が短い。


 あの巨体で、草食動物なのだから。

 繁殖力が、ネズミ並に高い、訳でもない。


 体力も低ければ。

 足を、スグに痛めてしまうから。


 生存能力も、想像した、とおりしかない。


 野生の鹿や、イノシシのほうが。

 よほど強い生き物だろう。


 人を乗せて走れるからこそ。

 生き残った、生き物なのかもしれない。


 より強い馬を、掛け合わせ、生み出すことは。

 軍事力の増強に、直結するのだから。


 中国圏なら、赤兎馬が、どれほど良い馬だったのか。


 繁殖させるだけで。

 どれほど、役に立ったのかは。

 歴史が証明しているほどだ。


 馬にも、種類があるが。

 サラブレッドよりも大きい、一馬力と数えられる馬場さんが。

 重宝されてきたのは、牛より早く、走れたからだろう。


 一頭あたりのトルクは、牛のほうが高いが…。


 なんてことを。

 暗い箱の中で、悶々と、考えることぐらいしか、デキない。

 今の状況を、覆す方法もない。


 トコトコと、揺られる荷馬車の箱の中。



 馬車が停止したのを感じ。

 話す、リカの声に、複数人の男の声が混ざり。


 妙な浮遊感。


 聞こえなくなった、リカの声。


 リカが箱を開けるまで。

 身動きも、物音も立てては、ならないと。


 体育座りで、うつむいていた、沙羅の頭の上から、日光が指す。


 ああ、やっとついたのかと。

 顔を上げれば。


 そこには、男の顔が二つ、飛び込んできた。


「…え?」



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