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41話 雨戦(うせん)1


 雨宿りスポットにて、切り株に橋渡しにした岩の板。

 沙羅は、岩沢に家を作ったときと同じ厚みの、岩の板を作らせた。


 真横から見ると、厚みが思った以上がない。

 厚さは親指ぐらい、長さ一メートルほど。

 横幅が、手のひらほどの平均台の上を歩けば。


 中央にさしかかる頃に、違和感を感じ。

 遊んでいると、勘違いした岩沢が乗れば、そのまま二つに割れた。


「当然といえば当然か…」


 目で見てしまえば。

 元・製造業勤務の沙羅は、原因を、より鮮明に理解する。



 岩や石も、種類がある。

 種類が違えば、強度も変わる。


 金属と同じだ。

 鉄、ステンレス、アルミ、亜鉛では。

 軽さも、強度も、特性も、全く違う。



 そして、なにより、大きいのは。


「どうゆうことですか、沙羅様?」


「確かに、石や岩で作れば、確かに頑丈なんだ。

 完成してしまえばな」


「……」


「完成するまでの段階では、いくらでも、壊れるんだよ」


 ナニを、当たり前のことを。

 そうではない。


 完成するまでは、壊れているのと変わらない。

 事実を飲み込んだのだ。

 

 意識できているようで。


 意識できていなかった。


 思い返せば、当たり前だ。

 制作中は、制作できる環境で作業するのだから。

 それが、なんであれ、だ。


 制作物を完成させるまでは、邪魔が入ってはならないし。

 壊れているのと、変わらないのだから。

 手を止められるタイミングは、限られる。



「そう、ですね」

「曲がらずに、割れちまう素材は、スゴく作りづらいな」


 岩・石は、木材と違い「しなり」がない。

 岩製の弓や、釣り竿がないのは。

 弦を引き絞った所で、しなりがなく、あたりが分からない。

 弓なら、威力が出ないからだ。

 木や竹の「しなり」が、この二つの道具の心臓だ。



 岩や石で、同じものを作っても役に立たない。



 弓を引き絞れるかどうか、かなり怪しい。

 矢が飛んでいかないだろう。


 硬いものは、脆い。

 高校生にもなれば、教科書にも書いてある、当然の常識を。

 沙羅は、再度、確認させられた。


 岩・石の建造物に、ある一定以上の「ねじり」力が加わると、自壊を始めてしまう。

 この緩んだ地面が。

 粘土のように、大きな構造体、建造物を、作り上げることを、全否定しているのだ。


 水平ではない地面も、一役、かっているのだろう。


 緩い地面は、重いモノを置いたそばから。

 重みで、すぐに、望んだ形になるわけではない。

 落ち着くまで、しばらくかかるだろう。


 地面の歪みは、上に立つ建造物に「ねじる」力を作り出す。

 均等に、地面に重みが掛からない、制作方法が。

 「ねじる」力を、さらに大きくし。

 最後には、崩壊という結果となって、表れるのだ。



 なら、重い一枚の厚い板を、地面の上に乗せたらどうか。

 根本的な解決に、ならないだろう。

 床をある程度、平らにデキないのだから。

 どうしても、無視できない傾斜がついてしまう。



 なら、厚い板の上に、家を作ったならどうか。

 平らではない板の上に作っても。

 傾斜問題を解決デキていない。



 傾いている床に重たいモノを乗せても。

 傾きによる自重で負荷をかけ、同じ結果を生むだろう。



 「しなり」がない建築資材は。

 歪みを受け止める、何かが必要だ。



 石積みで作っているわけではない。

 一つの板の固まりである、四角に。

 石積みで作ったときにデキる、隙間が存在しない。

 この隙間こそ、歪みやズレ衝撃の力を逃がす。

 重要な役割を担っているのだ。



 何かしらで、石同士を貼り付け、積み上げるが。

 力が加わり、一番最初に壊れ、力を受け止めるのが。

 この石同士の隙間にある、泥やコンクリートだ。



 形がデキてから、隙間にある資材が壊れても。

 スグに建物が崩壊することはない。

 それこそ、大きな地震が必要だろう。



 岩沢建築は、根本的に考え直す必要がある。

 ナニも考えず、もう一度同じモノを作るのなら。



 地面に工夫が必要だ。

 重量物をのせても、沈まず。変形しない基礎が。



 解決デキないなら。

 いくら、方法を、こねくり回しても。

 同じ問題を抱え続ける。



 石や岩は頑丈だが。

 構造物を作るとなると。

 作り方一つで、紙の家以下になる。


 家とは、自然と同じだ。

 あらゆる要素が組み合わさり、家という形を維持している。

 家の壁・床等々。

 適切な方法で、適切な手法で一つ一つ加工し、設置しなければ。

 とてもではないが、住めたものではない。

 段ボールの家、以下なのだ。


 それでも良いと、作ってしまい。

 寝ているときに、建物が崩壊してしまえば、命に関わる。

 

 つまり。


「岩沢建築は、今は、どうがんばっても、使えない」


 岩沢が、もっと、大人びていたなら。

 大きく変わっていただろう。

 単純なモノしか理解できない弊害だと言えば、その通りだ。


 だが、そんなことを言った所で。

 岩沢を攻めたところで。


 震えるスレイを、暖めることなど、デキはしない。

 

「なら、木材で作るのは、どうでしょう?」

「それこそ、どうやってやるんだ?」


「どうにかして」

「テメェなぁ…。新しい妹、増やすぞ?」



 もう、これぐらいしか、解決策がない。

 ただ、そう思い、なにげなく言っただけの言葉だった。

 だが、ダメ子は。


「それだけは、絶対に、やめた方が良いです」



 ハッキリと、言い切った。


 冗談でもなく。

 自分のためでもない。

 アナタのために、言っている。


 ダメ子の、まっすぐ、射ぬくような目線が。

 沙羅の目から脳に、直接伝えた。



 だから、聞きたくなるのだ。


「なんでだ?」


「また、沙羅様の心に。傷が残ります」


「……」


「もう、スレイちゃんのときみたいに__」


 沙羅には、ダメ子のいつもの声が、ゆっくりと聞こえ。


 その先の言葉に構えている、自分を自覚し。


 それは、まるで。

 相手の振り上げた拳に対し。

 体が防御しようと、無自覚に動いてしまうような。

 そんな、感覚。



 そして、来るべき暴力は。

 シッカリと、振り落とされる。


「もう、沙羅様が。

 全部、抱えちゃうようなことは、やめてください」


 振り落とされたのは、拳ではなく言葉だ。


 だから、否定さえしてしまえば。

 なかったことになる。


 誤魔化してさえ、しまえば。



 考える間もなく、沙羅の口は動いた。


「オマエ、何を言ってるんだ?」


 なにを、こんなに怖がっているのか。

 沙羅自身、気づけないまま。


 全てを見越している、ダメ子は。

 何一つ、ブレることなく。


「沙羅様が、竜騎士スレイさんの一件で、

 思い描いていた終わりは、違いますよね?」


「今の形が、サイコーに決まってるだろ」



 次いで出た言葉が、ダメ子に、確信を与えた。


「って、思わないと、やっていられない、ですよね?」


 もう、皿の口から、勝手に言葉が出ることはない。


 ザーザーと、降りしきる雨に打たれ。

 雨宿りスポットからでは、二人の話し声は、聞こえないだろう。


 ケンカをしているように見えても。

 いつも通りのコミュニケーションだと。

 気にも、とめないだろう。



 沙羅とダメ子が。

 誰かに聞かれたくない話をするなら。

 これ以上の環境もない。


 周りを見渡し。

 そうだと、沙羅は、気づいてしまったから。


 沙羅の足は、雨宿りスポットに向けられ。

 その肩を、ダメ子につかまれるのだ。


「ダメな理由、分かりますよね?」

「分からない」


 事実だ。

 沙羅は、何も分からない。

 考えることをやめているから。



 これ以上、考えたら、「分からない」では、すまされないから。


「じゃあ、なんで逃げるんですか?」

「逃げてる?」

 ダメ子は、深く、ため息を吐き出し。


「沙羅様、お願いします」

「……」


「法の力だけは。

 みんなの命や、体調が、直接、かかわる場面で、だけは。

 使わないで、ください」


「使わないと、どうにも、ならないだろ?」



 次いで出た、言葉が。

 出てしまった、言葉が。

 沙羅が、沙羅自身の体を凍らせる。


 やってしまってから、気づいても、もう、遅い。


「なら、また__」


 考えることを、やめてしまった理由を。

 もう一度、焼き直すように。


 竜の涙が、自分のモノになってしまった。

 根本的な理由を、ダメ子は。


 考えないように、逃げるなら。


「お子さんを連れて、笑っている。

 竜騎士スレイさんの姿を__」


 ああ、だめだ。


 もう、何をしても、逃げられない。



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