1−2 馬鹿は全裸で駆け回る
いつの間にか気失っていた俺は、大草原にポツンと立つ大きな木の根元で寝ていた。
異世界へ来た第一の心境は、ものすごい不安感だった。
何故なら、全裸だったのだ。
「あのやろぉ、いつかぶん殴ってやる」
神へ一矢報いる事を心に決めたアタマ・ワルシは、そそくさと小さな股間を隠し、あたりを見回した。
「なんもねぇ」
そこは本当に何もないだだっ広い草原だった。
「頭の悪い俺でもわかる、これ、死ぬわ」
裸で木の根元に居座り続け3時間ほど経過し、少し離れたところに何やら動くものが見えた。
「あれは?なんだ?」
尻についた土を落とし、馬鹿は考えなしにダッシュで近づき大声で助けを求めた。
「おーい!助けてくれぇー!」
かすかに見えていたものが近づくにつれ鮮明に見えて来た。
「ちょいちょいちょい!!」
動いていたものは異世界ならではの代表的な生物スライムだった。
「マジかよ、どうやって倒すんだ、こちとら全裸だぞ、しかもなんか思ってたのよりデケェなぁ」
スライムは雫型で大きさは人をダメにするクッションくらいあった。
「一発ぶん殴って逃げてみるか」
静かに近づき後ろから思いっきり蹴飛ばした。
するとスライムは破裂し小さな光となって舞い散った。
一瞬の間を置いてスライムがいた場所へ光が集まり別の形へと変化する。
「おぉ!これはかの有名なドロップ品って奴じゃねぇか!」
光は皮袋になり、中には水が入っていた。
「これはぁ、飲めるのか?まぁ、ダメならダメで吐きゃいいか」
アタマ・ワルシは楽観的だった。
「くぅ〜、うめぇ!」
水は普通の水で飲料として申し分ないものだった。
「この感じならまだ死なずに済みそうだな」
もう一度木の根元に戻り、座り込んだ。
この時、アタマ・ワルシは馬鹿だから気付いていなかった、自分の尋常じゃない移動速度に。
今度は1時間ほどで動くものを見つけた、今回のものはスライムじゃなさそうだ。
またさっきと同じように考えなしのダッシュで近づき大声を出そうとしたが、相手側の様子がおかしかった。
こちらにものすごい勢いで近づいてくるのだ、目を凝らすとダチョウのような大きな二足歩行の鳥が駆け寄って来るではないか。
「これは、いけるか?…いけるな!」
アタマ・ワルシは本当に楽観的だった。
駆け寄ってくるダチョウ風の動物にドロップキックを喰らわせた、着地に失敗し腰を地面に打ちつけた以外は完璧だった。
今回もダチョウ風の動物は光になりドロップ品を落とした。
「何かな何かな?!!こ、これは!!」
今回のドロップ品は靴だった、異世界へ来て初めての装備品はダチョウもどきの靴だった。
「いっぇーい!初の装備ゲットォ!早速装備しよ!」
全裸に靴を履いた変態が誕生した。
早速、木の根本まで移動する、その時やっと馬鹿は気づいた。
「あれ、俺ってこんなに足速くなかったよな、靴のおかげか!」
あ、やっぱり気づいてなかった
さっきと同じ手順で何回かモンスターを倒し物を集めた、最初こそ何も無かったが、食べ物をドロップする大きなカエル型モンスターを倒す事により飯問題も解決した。
「よし、冒険すっか!」
靴を履き、必要最低限の物資を持ち、とうとう始まりの木からアタマ・ワルシは動き始めた。