1−1 馬鹿は死んでも治らない
今日はいい天気だ。
空には雲が一つもなく、綺麗な月と星々が輝いている。
2021年2月22日、今日は猫の日だそうだ。
多くのSNSでは猫の写真や動画で溢れかえる中、俺は今、巷で話題の異世界転生の小説を書こうとしている。
これまでの人生で一度も物事をちゃんと最後までやり切った事がない俺だが、今回はやり切ってみようと思う。
「よっしゃ、書くか」
俺はパソコンに手を伸ばし執筆を始めた、だが全く話が浮かばない。
それもそのはず俺は馬鹿だった。
そしてその馬鹿が突然、突拍子もない事を思いつく。
「異世界転生って言っても俺、異世界行った事ねぇや、いっちょ転生してみるか!」
本当にあの時の俺は馬鹿だった、突然転生すっか!と思いつき、自宅のベランダから飛び降りた。
まさか、本当に転生できるとも知らずに。
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目が覚めると俺は俺を見ていた幽霊になっていたのだ。
思ってた以上に自分死体はぐちゃぐちゃになり汚い肉の塊になっていた。
「あぁ、掃除する人ごめんなさい」
馬鹿は死んでも治らなかった。
何か温かい空気の流れを感じそちらに目をやると白い光が近づいてくるのが分かった。
「これは?異世界への入り口かな!」
馬鹿なのにカンだけは鋭かった、光が近づき眩しさで目を閉じると次の瞬間には別の場所にいた。
真っ暗な世界。
「えぇ!?ここが異世界!なんもねぇ!!」
「お前、馬鹿だろ」
どこからともなく聞こえた声にいきなり罵られた。
「お前、名前は?」
「このやろぉ、いきなり人を馬鹿にしやがってぇ!テメェに名乗る筋合いなんざねぇ!」
「よし、お前の名前は「てめぇになのるすじあいなんざねぇ」だな?」
「お前、馬鹿だろ」
やったぜ!言い返してやった!
心の中でそう思ったのも束の間、全身に電気が走るような激痛が走った!
「痛えぇぇぇ!!!!!!」
「馬鹿にするな、これでも俺は神の1人だぞ」
「え、かみさま?マジでぇ?」
「まじまじ、痛いやつもう一回やる?もうちょいバリエーションあるけど」
「いえ、すみませんでした」
即座に地面に頭をこすりつけ謝罪した、馬鹿でも痛いものには弱いのだ。
「分かればいい、で本当の名前は?」
「あ、はい、自分は神谷勇気って言います、はい」
「ふぅ〜ん、合わんな」
「え?」
「イメージと合わん、よし!今日からお前はアタマ・ワルシだ!」
「あたま・わるし?」
「まぁ、お前の願望の異世界転生させてやるからその名前で頑張れ、アタマ・ワルシ」
「え?ちょま」
「「パン!」」
「はい、転生」
「おい!コラァ!そんな適当に決めるんじゃねぇ!!」
俺の叫びは虚しく消えた。