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プロローグ

「陛下、ここは我々が残りますので皇子をお連れして地下にお進み下さい!」

騎士団副団長 イザックの声が城内に響く。

「アルマとエマは無事か?」

「はい!第二小隊がお2人と共に既に地下へ移動しお守りしております。」

ガブリエル王は一瞬安堵するがどう見ても情勢は良くない。

「ここ数年は他国との大きな争いもなく穏やかに過ごせていたがこんな事になるとは…」

「第三小隊が視察団の護衛で出払っているという情報が漏れていたのかもしれません。更には本日は団長も不在。ザヴィの者らは我がイシュトリア帝国の動向を常に気にしておりましたがどこまで知っていたのか…」


モルフォール王が治めるイシュトリア帝国は自然豊かな上に商業も発達している大国で100年程前に建国されたばかり。ガブリエル・モルフォールはイシュトリアの五代目の国王にあたる。

建国当初は他国から侵略目的の攻撃を受けていたが、初代モルフォール王と契約を結んだ魔道士の一族により帝国は守られ平和な日々が続いていた。

それでもまだ諸外国は資源豊富なイシュトリアの攻略を諦めたわけではなかった。何度も密偵を送り込んでくるザヴィ帝国がまさにそうである。


イシュトリア帝国とザヴィ帝国の間には大きな海がある。

移動の際には3日程度をかけてその海を渡る為、争いを仕掛けてくるにしても前もって応戦する準備は整えられるはずだった。

「ザヴィが飛行術に長ける者を多く従えたという噂は本当だったようです。それを使いまさか半日でやって来るとは…申し訳ありません。」

「イザック、致し方あるまい。今はこの危機をどう乗り越えるか考えよう。最後の手段に出るしかないのか…いや、でもそれは…」

「父上、それはもう少しお待ちくださいっ!!私はイザックと共にここに残ります。どうか父上はルイを連れて地下へ!」

「フェルマン、それは出来ぬ!」

「アリスも闘っています。この命尽きるのであればアリスを守り死にたい。私のわがままをお許し下さい!」

第一皇子であるフェルマンの眼の先には腕に傷を負いながらも懸命に結界を張り続けるアリスがいる。

その前方には攻撃魔法を繰り出すアリスの両親の姿も見えるが、魔力をかなり消耗しているようで攻撃魔法の間隔が開いてきている。

敵の数はまだ50人余りはいるという所だろうか。


「国王達と魔道士、騎士団もまだいたぞ!」

ザヴィ帝国の兵士が叫ぶのが聞こえる。

「イシュトリアを落とすにはあの魔術士が先だ!モルフォールは後で始末すれば良い、急げ!」


「奴らがここにまで来たか…」

僅か数人となった第一小隊の騎士団に対し陛下の側にいるよう命令を下したイザックはすぐさま駆け出したが、同時にフェルマンもその後を追う。


イザックは弓の名手でその実力を買われ副団長となったのだが、短剣を使用した近距離も得意だ。

10名程を倒し奮闘を見せるが敵の数が多く、胸と足を突かれ遂に倒れた。

「このまま魔道士と第一皇子を殺すぞ!」と向かって来る。

「お父様、お母様、もうあの魔法を使うしか道はありません。3人の最後の力で唱えましょう!」

結界を解きそう叫んだアリスに向けて向かってきた兵士の後ろから複数の矢が放たれる。

「アリスっ!」

庇うようにアリスの前に立ったフェルマンの身体には数本の矢が刺さっていた。

「フェルマン様っ!!」

「アリス…」

アリスの周りに光が集まる。

「何っ?!また結界が?」

「いいから矢を放て!剣を持つ者も前に!手を休めるな!!」

アリスの周りに出来た巨大な結界に敵国の兵士達がざわめく。

残りの魔力はほとんど無かったはずだが、アリスの未解放だった魔力が解放され強力な結界が作られたらしい。ただおそらくそれも長くは保たないだろう。

フェルマンの白金色の髪によく映える純白の服がみるみる血に染まっていく。

「フェルマンっ!」

「兄上っ!」

フェルマンのもとにはガブリエルだけでなく第二皇子のルイも駆け寄って来ていた。


「アリス、すまない…私は君を置いて先に…」

「フェルマン様、私もすぐに…すぐにご一緒しますのでご安心下さい。」

「父上もルイもありがとう。アリス、君の腕の中で尽きるというのは…なかなか良い…最期だったよ…」

フェルマンが静かに息を引き取った。


「陛下、申し訳ありません…最後の手段…転生魔法を使うしか最早道はありません。」

アリスの父がそう言うとガブリエルは苦しそうな表情で頷いた。

「いや、こちらこそ不甲斐無き王ですまない。宜しく頼む…」


初代モルフォール王と魔道士との契約は、国を守る事だけではない。

王家と魔道士の一族の血が途絶えないようにと、転生魔法を生み出した。

"双方の同意のもとでないと発動しない"という条件下で効果が得られる転生魔法である。

・魔法を発動した時点でこの世界での魔道士の一族は命を失う

・未来に於いて同じ日・同じ時間に亡くなった子孫がこの世界に転生される

・該当の者がいなかった場合は転生者が現れない

・魔法発動時点の侵略や内戦の危機は回避され、その原因である者たちは直前の記憶が消去された状態で国外に戻される


この転生魔法の存在自体、王家と魔道士の一族以外にはごく一部にしか明かされていない。

発動後の10年間は国全体が守られるという事も同様だ。


魔道士3人が手を合わせて呪文を唱えると魔法陣が浮かび上がり城を覆ったかと思うとすぐさま巨大な光となり帝国を包み込んだ。

爆風と共にすぐ近くまで攻め入っていたザヴィ帝国の兵士達の身体はバラバラになり命が尽きている。

生き残った者たちは国境まで飛ばされたようだがほんの数名のみだ。

城外にいるイシュトリアの騎士団は手負いの者が多く、国境まで深追いは出来そうにない。

魔法が正常に発動したと言う事は彼等の直前の記憶は消去されているだろうし、まずは自国の情勢を立て直す事が急務だ。



つい今さっきまで死闘を繰り広げていた城の1階付近に魔道士3人の姿は無く、それぞれが肌身離さず身につけていた石だけが残っている。

王家の紋章が刻み込まれたその石をガブリエルが手にすると、先程とは違う魔法陣がその場を包み込む。

爆発音に似た大きな音の後に、見慣れない服を身に纏った男女が現れたが2人とも意識は無さそうだ。

漆黒の髪を1つに束ねた色白の男性。歳はフェルマンより少し下くらいだろうか。

その傍らには女の子の姿もある。

少し青味がかった黒に近い髪色。この辺りでは見かけない色の髪は長く、横たわる彼女の顔を隠している。

はっきりとは見えないがルイと左程変わらない年齢だろう事が分かる。

「これは…転生者?転生魔法も成功したのだな!!」

ガブリエルがそっと2人を抱きしめると同時に、ルイの後ろから走り寄る騎士がいる。

地下に逃げ込んでいた第二小隊の隊長プロストフが様子を見に来たらしい。

「フェルマン皇子っ…そして副団長も…」

「フェルマンの事は残念だった。しかしアリスと共に逝けて本望だろう。実に穏やかな顔をしておる。」

声に詰まるプロストフにガブリエルが続ける。

「イザックもまた、見事であった。最後まで我々を守り散っていったぞ。良い兄を持ったな。」

「有難いお言葉、感謝致します。王妃様と皇女様をこちらにお連れ致します。」そう告げるとプロストフは足早に地下へと向かった。


「ルイ、これからはお前も忙しくなるぞ。」

「…はい、父上。」

王位継承権がルイへと移る事で今までと教育方法も変わってくるだろう。ルイにとって、いつも優しくそれでいて強さも持つ兄の姿は常に尊敬の対象だった。

兄と同じ美しい青色の瞳を涙で潤ませながら強くなる事を決意する。

(兄上は死ななくても良かったのでは…僕には先程の兄上の行動が理解出来ない。それが恋や愛だというのなら、僕はそれをしなくていい。この国の事だけを考えるんだ)


「しばらくは敵の攻撃も届かない。まずは城の修繕と転生者の覚醒を急ごう。」

ガブリエルの声が静かに響いていた。

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