拉致
人生初小説‥
君はどこへ向かう?
さあ、どこだろうな。
目的地は無いの?
あるよ、目的地はある。
なら、そこに向かってるんじゃ無いの?
そこは目的地であって向かってる所じゃないんだ。
なら、貴方はどこに向かうの?
また同じ質問か。
だって気になるじゃない。教えてよ。
そうだな、強いて言えば
「白帝銀河同盟?」
マヌケ、表現するならその言葉がしっくりきた。目の前のアホ毛を生やした女が口をあんぐり開けて餌を待つ雛鳥になる妄想がいよいよ現実になろうかとしていると
「うちらは大海賊団だよ?あんな正義を具現化したような白帝様の下に就くなんてそんな真似はメンバーが黙って無いよ」
大海賊、そんな言葉を使ってはいるがメンバーは俺を含めた二人だけの海賊にもならない弱小盗賊団だ。船も第一次の対戦で使われてた百年前の時代遅れな輸送船一隻だ。
ツッコミを入れる気力も無い、いっそ三日前のあの楽観的な俺を殴ってやりたい。
「ちょ、船の一つや二つ減る物じゃないでしょ!うちに一つ位頂戴よ!」
「バカヤロウ!そんな戯言は頭金五十万払ってから言え!」
「だからそれはうちが大海賊になってから払うって言ってるでしょ!」
「お前みたいなペタンコ貧弱娘が大海賊なんてなれる訳無いだろうが!商売の邪魔だ!出てけ!」
「はいはいはいはい!こんなオンボロザコ戦艦初めからうちに似合わないって思ってたわ!ラッキー!」
朝から造船所で騒ぎが起きていた。何でも二万スピリカで戦艦を買おうとしていたらしい。それにしてもあの娘、巨人族の店主に、あんな言い返せるとはよほど肝が座っている。
「せっかくこんな田舎の星まで来たのにあんな小さい船も買えないなんて‥」
娘はため息を漏らしてる。気の毒だとは思わない、そんな世間知らずを気の毒に思うほど俺は優しくは無いのだから。
「お、あんた金持ってるわね!」
!?
声の主を探すとすぐ横に先ほどまでうなだれていた娘が俺の一生懸命貯めた貯金を持っていた。ニヤニヤと笑いながら金と俺を交互に見ている。
「あんた!運が良いわね!」
こんな娘に絡まれてる俺は運が悪いよ。てか、早く金を返してくれ。俺の金をお手玉の様に回すのは辞めてくれ。
「実は大海賊であるうちのメンバーを探しててね。なんと今ならこのスピリカで大海賊のメンバーになれるわ!お買い得ね!入るしか無いわね!」
どうやら頭に寄生虫でも飼ってるらしい。何が悲しくて俺の大切な貯金を妄言を垂れ流す娘に吐き捨て無ければならない。第一見返りが無さすぎる、ここはさっさと金を取り返して家に帰り
「うちの大海賊メンバーになればうちの甘いサービス付き」
「やったわ!これで海賊船が手に入ったわ!」
やれやれ、良く考えてみればこんな娘さんが困ってるのを見捨てる程俺は鬼畜では無い、本当にやれやれだやれやれ。
「よし、それじゃうちの甘いサービスをさっそく披露するわ!」
やれやれ、生まれ落ちて二十一年ヒューマ族として日々真面目に生きてる俺がそんな誘惑なんかに、まあ向こうがどうしてもと言うからなぁ。しょうがない。たまたま、ポケットにあったこのスキンを使う時が
「ちゅっ♡」
は?
「投げキッスなんて特別だからね!まだ誰にもした事無いんだから!世界中のお宝でも比較にならない貴重な投げキッス。本当は迷ったけど、まあ貴方に免じてサービスよ!」
そして現在に至る、あの詐欺紛いな悪質極まりない手法で俺の百二十万スピリカはこの時代遅れな輸送船に変わった。
輸送船に無理矢理詰め込まれ扉をロックされると船は進んでしまった。通勤途中に拉致されたのだった。
商業星グンゲイルを旅立った俺達は自動運転で近くの星へと船を進めていた。
「っていつまでメソメソしてんのよ。もう三日じゃない諦めなさいよ。」
お前には苦労してやっと就職したのにいきなり拉致されつい先程無断欠勤によりクビを言い渡された哀れな男の気持ちはわからんだろうさ。
「ま、まあ!そんな会社よりうちの大海賊に入ったほうが何倍も良いわよ!やったぁ!」
この女は一回手痛い目に遭って欲しい。
「て、そんな話は良いわよ!さっきに戻るけど白帝銀河同盟なんて反対よ!」
白帝銀河同盟
第三次大戦において四つの銀河を非武装非暴力で平和条約を結ばせた驚異的な人物を中心とした同盟だ。最強の科学力を誇る白帝銀河同盟は現在のありとあらゆるテクノロジーを開発した化け物の様な最強同盟。
何も白帝銀河同盟に加わる訳じゃない。通行証を貰いに行くだけだ。通行証が無きゃ銀河間を移動できないだろ。
「へー‥」
マヌケ面で生返事してる、こんな奴が果たして海賊としてやっていけるのだろうか‥