めんどくさいけど契約してみる
俺は真っ白な空間に居た。
上下左右背後360度、どこを見ても真っ白だ。何もないし、どれだけの広さなのかもわからない。
多分凄く広い。どこまで行けば壁や床があるのか全然わからない。
ここはどこなんだ…。
昔の映画『2001年宇宙の旅』『マトリックス』とかで、よく主人公が真っ白な空間に行ったりするけど、あれみたいだ。
10代なのに古い映画をちょっと観てたりする俺って偉い。
ほら、昔の洋楽を少しかじっただけで、今の邦楽はクソだとか上から目線で言う奴いるじゃん。高2病ってやつか?俺もそれなのかもしれない。
でも自分を客観視できるだけ、俺ってたいしたものだろ?
これも日々家で寝転がりながら高度な思索にふけった賜物だな。俺マジ哲学者。
「人は考える足である」
なんつって。意味は知らんけど、偉い哲学者の言葉らしい。俺って博学じゃね?己の教養の深さに、つい下を見ながらニヤニヤしてしまう。
……学校で一人でニヤけてるのを見られたらまずいから、下を向く癖がついていたりする。
「葦の間違いなのレス。お前はバカなのレス」
「はっ!?」
顔を上げると、目の前に変な奴が居た。
「俺のどこがバカなんだよ」
「足って言ったのレス」
「口頭で足って言ったってわかるのかよ。俺は、あ、葦って言ったし!」
「お前は足と葦の発音をちゃんと分けているのレス。絶対、体についている足の方だと思っていたレス」
「ぐぬぬ…」
こいつ……嫌な奴だな……。つーか、葦って何だか知らねーし。
……ついかっとなって、そいつの不審さを警戒する前に会話してしまった。
「お前、誰だよ」
「僕の名は下級悪魔・メフィストフェレス。メフィストって呼んで欲しいのレス」
悪魔だ?……確かに、それっぽい姿をしている。
顔の部分は白いが、それ以外は紺色で、いかにも漫画とかによく出てくる悪魔って感じだ。尖った耳、尖った尻尾。
ステレオタイプな悪魔だな。
顔は絵文字で言えば(・v・)みたいな顔をしている。
そこそこかわいいと言えなくもない低い頭身で、語尾も変だし、ゆるキャラっぽくもある。
「悪魔って…本気で言っているのかよ」
「この状況で疑うのレスか?見ての通り明らかに現実世界ではないレスよ」
確かにそうだが…。
「ここはどこだよ」
「ここは冥界と現界のはざまなのレス。お前は死んだのレス」
「……え?死んだ?嘘だろ」
「本当レス。お前は自分の部屋で死んだのレス」
「どこをどうやったら死ぬんだよ。確か…ベッドから横に落ちて、それで……」
「そうレス。そしてお前は、心臓を太い針で貫かれたのレス」
「そんな……」
「お前の世界で言う、剣山とかいうやつレスね」
「なんでそんなものが……あ!」
そうか……里美が探してたアレって、生け花で使う剣山だったのか……それが俺の部屋に落ちていて、それが胸に刺さったとは……なんという不運だ!死ぬとかありえねえ!
「マジか……ここは死後の世界ってやつかよ」
「そういうことレス」
俺は里美のせいで死んだことになるんだな……いくらかわいい妹とは言え、妹のために死ねるかよ……。
「死因なんかこの際どうでもいいレス。お前は僕と契約をしなければならないのレス」
「契約!?なんでよ」
「お前は心臓を貫かれて死んだのレス。僕たち魔界に心臓を捧げたということレス。それにより悪魔との契約をする権利と義務が発生したのレス」
「いや、捧げるつもりないし」
「古来より我々との契約を望んで自ら心臓を剣で貫いた者も大勢いるのレス。もう手続きは始まっているレスよ」
なんでこんな得体の知れない奴と契約とかしなきゃならんのよ。
こいつが本当に悪魔だとしたら、悪魔との契約とかろくなことにならんだろ。
「あの……そういうの無しで……それより、生き返らせて元の世界に返してくれない?」
「無理レス。神なら可能かもしれないけど、僕らは死を司る悪魔なのレス」
「ダメかー」
「そう落ち込むこともないのレス。僕の話を聞けばそう悪い話でもないと思うかもしれないレス」
そしてそのメフィストとかいう悪魔はレスレス言いながら説明を始め出した。
俺は異世界とやらに行かなければならないそうだ。
俺が来た世界での復活は無理だが、そこでなら生き返らせてくれるらしい。その異世界はなんでもこちらで言う数百年前のヨーロッパみたいな所だそうだ。会話や読み書きは最初からできるようにしてくれるとのことだが……魔物がウヨウヨいるそうだ。
「そんな物騒でめんどくさそうな世界じゃなくて、もっとまったりした所にしてくれよ」
「ダメなのレス、そーゆー契約なのレス。でもその代わり肉体を強化してあげるのレス。人間の中では最強クラスになるレスよ」
「でもその魔物とやらよりは弱いんだろ?」
「そうレスね。そこでレス、お前に魔法の力も与えてあげるレス。ただし、今全ての力を与えはしないレス。段階的に与えるレス。3つの選択肢の中からその都度、選ぶのレス。ただし」
メフィストはそこで一度、言葉を切った。
「ただし?」
「魔法を習得する代わりに、代償も3つの中から選択して受けてもらうのレス」
「来たよ、さすがは悪魔の契約だな」
「でもせいぜい罰ゲームみたいなものレス。これはこれで楽しみではないレスか」
「はぁ……めんどくせえな」
「お前はよくめんどくさいと言うけど、望んで契約したのに変な奴レス」
「ゆるキャラのお前に変な奴言われとうないわ!それに望んでねえぞ、事故でこうなったんだ!」
「そうかカッカしなさんなレス。行けば前の世界よりいい思いが出来るかもしれないレスよ」
「そんなこと言われても、実際行ってみないとわかんねーよ」
「そうレスね。もう他に質問は無いレスか?」
そうだな……あ、肝心な事がまだわかってなかったわ。
「お前らの目的は何なんだ?こんな契約をしてお前らに何の得があるんだ?」
「目的レスか……。それは……秘密レス」
「けっ、どうせそんなことだろうと思ったわ」
「でも、目的はちゃんとあるレスよ。いずれわかる時が来るのレス。……じゃ、もういいレスね。行くレスよ」
「おい待てよ、まだ心の準備が」
「――Nachsenden!」
メフィストが何か言った瞬間、目の前が真っ白になった。