めんどくさいけど死の谷で激闘してみる
デスバレーとやらについた。
草木がほとんど生えていない、荒涼とした谷間だ。
死の谷と言われるのも頷ける。
大小の岩がころがっているが、ここに敵が隠れているとやっかいだ。
俺は横を歩いているメグに話しかける。
「メグ、本当に来て良かったのか?」
「メグも力になりたいの。魔法がきっと役に立つの」
「そうか……でもなるべく後ろの方にいろよ」
マリーが辺りを見渡しながらつぶやく。
「殺風景な所ねー、まぁだから魔獣がいるんでしょうね」
「前から思っていたんだが、その魔獣と、魔人と、魔物ってどう違うんだ?」
「んー、簡単に言うと、魔人・魔物・魔獣の順で格が高いのよ。魔人は知性を持っている種族で、人類の敵と言えるわね。魔物は昨日のガルーダみたいな奴。今回のジャッカルは魔獣だから、普通の動物に毛が生えたようなものよ。凶暴な動物程度でも魔獣と言われる場合もあるわね。今回の敵もそうかもしれないわ」
「なるほどね……」
「来ました!」
ミルンが叫ぶ。
岩の影からぞろぞろとジャッカルが何匹も出てきやがった。
ガルルル…
見た目は犬みたいだが、鋭い牙を持っている。
どうすっかな……炎魔法+風魔法で焼き払おうか。
と、物陰から新たなジャッカルが出てきた!
ミルンに襲い掛かる!
「掌底っ!」
ミルンが掌拳でジャッカルの喉元を正確に狙って打撃を食らわせた。
ギャンッ!
ジャッカルは倒れて気絶してしまった。
他のジャッカルが襲い掛かる!
「はっ!はあっ!」
ミルンは素早い身のこなしと正確な打撃で、3匹のジャッカルを全てダウンさせてしまった。
すげえな……俺の魔法や筋力100の打撃は悪魔から与えられた力技だが、ミルンの洗練された動きには修行に裏打ちされたキレがある。
あと、戦いながらぶゆんぶゆん揺れる乳も凄い……。でもあれってかなりのハンデだよな……。何かサポーターのようなものをつけてあげたい。
「やるじゃないかミルン、驚いたよ」
「えへへ……畑で悪さする獣をよく狩ってたんですよ」
「私も行くわよ!抜刀!」
マリーが叫んで鞘から剣を抜く。
「たあーっ!」
ズシャ!
おっ、当たった!
マリーが剣でジャッカルを斬りつけたが……
グオオオ!
まずいな、トドメを刺せずに手負いの獣になってしまってる。
と、メグが進み出て来て、すっと手を前に差し出した。
「スレプト!」
メグがそう唱えると、メグの指先から緑の波動が飛び出す!
キュウウン……
波動が当たると、ジャッカルは眠ってしまった。
「メグ、ナイスフォロー!」
「治癒魔法の応用なの」
「さあトドメよ!」
グサッ!
マリーが眠っていて動かないジャッカルにトドメを刺した。やった!討伐数1!
それにしても、なんというナイス連携……ではない!
見ていて、ミルン:メグ:マリー=6:3:1くらいの戦力比に感じる……。
「あんた、何見ているだけで怠けてんのよ!」
戦力比1割のマリーに怒られた。
マリーたちが危なそうならすぐ魔法を撃つつもりだったが、ここまではミルンとメグの活躍で危なげ無かったんだよな。
別にめんどくさいわけじゃないが、彼女たちだけでやれる間は俺は見守るべきだろう。
マリーは今後ミルンと手合わせして成長を期待したいが……。
キャン、キャン!
5匹倒したところで、残りのジャッカルは逃げて行った。
「快勝ね!マリーンドルフ旅団の実力もかなり高まってきたわ」
勝手にチーム名つけんなや。しかも中二病臭い。俺の考えた黄金血盟団と大差ないぞ。
「サトシ、あんた今日の討伐数ゼロじゃない。それじゃ分け前もらえないわよ!」
元からもらう気無いし……と言ってもいられないか、金もいずれなくなるし。次からは本気出す。
ミルンがおろおろしてマリーに訴えかける。
「わ、分け前ならあたしの分からサトシさんに……等分でもいいです」
「だめよ!あなたは今日の武勲第一等なのよ、これからも頑張ってね。メグ、あなたもよくやったわ」
「マリーも頑張って欲しいの」
「え、ええ……頑張るわ」
マリーもすっかりリーダー気取りだな……別にマリーとその座を争う気もないけど、めんどくさいし。
まあリーダーは弱くても戦術指揮に長けてれば問題ないんだが、マリーは猪突猛進するだけだもんなあ。
「さあ、ジャッカルの毛皮を剥ぎましょう!牙も必要ね」
「あ、あたしそれ得意です」
「さすがミルン、農民の子ね」
「えへへ」
微妙にミルンを馬鹿にしている気もするが……マリーの100倍役に立つんだけど。
肉は捨てるんだな……まずそうだしな。
と、近くの岩肌の中から地響きが聞こえてきた。
ゴゴゴゴゴ……。
「なんだ?……あれ?何か動いてないか?」
ゴゴゴゴ……ドバァーン!!
ガラガラガラ……。
人型をした岩人形のようなものが出てきた!
かなりでかい。身長は5メートルくらいあるだろうか。
「な、なんだこいつは」
「これ、ゴーレムよ!はやく逃げて!」
逃げようとは、マリーにしてはいい判断だ。
「ゴーレムは依頼票に書かれて無かったから、倒してもお金はもらえないの!総員退却よ!」
なるほど……もし報酬があればマリーはこいつにも剣を振り上げて突っ込んでたのか。
ドガアアアアアアアン!!
ゴーレムが腕を振るった!
「きゃあああ!!」
またマリー……ではなく、ミルンがやられた!
ごろごろごろ…ずどん!
ミルンが転がって岩に激突した。
「大丈夫か!メグ、治癒を頼む!その間に俺がこいつをやる!」
「まかせてなの」
メグがミルンに駆け寄って行く。
よくもやりやがったな……こいつには、俺の最大をぶつけてやる……。
炎魔法レベル100と風魔法レベル100の混合だ!
ビュゴオオオオオオ!!
炎の竜巻がゴーレムに激突した!
「これがガルーダに使った魔法ね!ほんと、凄いわ……渦巻いてて、素敵……」
マリーがうっとりしている。見世物じゃないんだがな。
……ん?なんか、おかしい……。
「サトシ!効いてないみたいよ」
残念だが、その通りだ。
……そうか、そういうことか。
ゴーレムは体が岩でできているから、炎に強い耐性がある。
そして岩だから、風にもびくともしない。
今の俺との相性最悪だな……。
じゃあ物理で殴るしかないな!
「だあっ!」
ズガン!
俺は走ってゴーレムの前に出て、足を思いっきりぶん殴った。
少し欠けただけか……なんという固さ。
相手の体が大きすぎて、抑え込むこともできない。
万事休すか……?
…………と、言う事は、奴が来る。
俺の周りの全ての動きが止まった。
「お困りのようレスね。さあ、選択の時間レスよ」
そして目の前に、例の悪魔がまた現れた。