動乱群像録 99
「日和見を決め込めと言うのか?」
佐賀の言葉に誰もが少しばかり複雑な表情を浮かべた。そしてその顔つきが佐賀をさらに苛立たせた。確かにそうすれば参謀達の身分は保証されるのは間違いなかった。だが寝返りを打った自分への世間の風当たりは想像するだけでぞっとした。
「日和見とは言い方が悪いですね。ただ戦いに間に合うかどうか分からない事情が多くあると言うことですよ。清原提督には醍醐派の陸軍部隊のけん制が必要だったと、赤松さんには烏丸派の勢いに飲まれたと説明すればいいだけの話です。ある意味事実ですから」
片目の鋭い眼光が佐賀を貫く。そしてその口元の笑みが佐賀に決意を迫った。
「……文隆の軍は何隻の艦艇を用意できるんだ?」
佐賀は熟慮の後そう言って視線を机の上のモニターに落とした。参謀達は安堵したと言うように資料を探し始める。
「恐らく南極基地の艦艇に池少将は手をつけないでしょうから。多ければ戦艦『伊勢』級を三隻。巡洋艦は五隻ほどがあるはずです。軌道上に待機している同調した泉州の艦艇を含めれば我々と同規模の艦隊を編成できるはずです……」
そこまで言うと片目の参謀は明らかな笑みを佐賀に向けてくる。
「それなら警戒は必要だな。我々にはその脅威……いやその監視をする義務があるだろ?」
小声でささやく佐賀。その落ちつかない様子に参謀達はまた不安にさいなまれているような顔になる。
「だれか……不服なものはいるのかね?」
明らかに泣き言のような調子で佐賀がつぶやくが誰一人それに答えるものは無い。自分がどう言う部下に出会ったのかを佐賀はここで始めて思い知った。
『文隆、赤松君……君達がうらやましいよ』
自分の決断力の無さを棚に上げて佐賀はそう心の中で独り言を繰り返すだけだった。