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動乱群像録 98

「勝てなければ意味は無い。あの茶坊主もそれを知って沈黙しているんだろうからな」 

 佐賀の卑屈な笑み。そして『茶坊主』と言う言葉に参謀達は苦笑いを浮かべた。

 殿上嵯峨家の家督。四大公の一つとして知られるその地位は長く不在が続き、地下佐賀家の当主である佐賀高家は泉州をはじめとするコロニー群の管理を代行している西園寺家に何度と無く足を運んでその家の家督相続を運動していた。だがそれは無駄に終わって西園寺家の三男と言う地位の西園寺新三郎に奪われることになった。

 先の大戦では憲兵隊の隊長として幾多の戦争犯罪に手を染めて捕虜として地球に送られた新三郎こと嵯峨惟基の非道を訴えて廃嫡と自分への相続を訴えたが殿上人は誰一人彼の言葉に耳を貸すことは無かった。そして遼南皇帝として立った嵯峨を指を咥えて見ているしかない自分を影で嘲笑している目の前の参謀達にどういう顔をすればいいのか佐賀は分からなかった。

 今回も西園寺派に付くことを強制されるかと思えば、嵯峨の言葉は自分の態度は勝手に決めろと言う投げやりな言葉だけだった。同僚の嵯峨家三家老の池幸重は西園寺基義が嫌いだと平然と言ってのけ、烏丸派の重鎮として胡州陸軍の西園寺派の軍を釘付けにするために南極基地に居座って同僚の醍醐文隆の軍が動くのを待ち構えている。

 そんな状況だったが、佐賀はこの状況でもまだ迷っていた。

「越州の脅威が無いと分かれば第三艦隊は全艦をこちらに向けてくるんだろ?」

 佐賀も自分の言葉が震えていることは分かっていた。参謀達の表情は変わらないが誰もが腹の中では自分の優柔不断にあきれ果てているだろうと思うと自分自身に腹が立ってくる。

「それでは高家様……」 

 参謀の一人、片目のアサルト・モジュールパイロット上がりの大佐が仕方が無いと言うように口を開く。それにすがるような目を向ける佐賀。他の参謀達が唖然としているのを知りながらも佐賀はその大佐の言葉にすがるしかなかった。

「動くタイミングをずらせばいいのですよ。どちらが勝つか。分からない現状では烏丸公にだけ恩を売るのは得策ではありません。ゆっくりと戦闘宙域に現れて勝ちそうな軍勢に協力する。それが昔から一番賢いやり方です」 

 佐賀は自分が言いたかったことを代弁してくれた片目の大佐にすがりつきたい気持ちをようやく抑えて咳払いをした。彼には周りの部下達がその卑怯極まりない策に同調するだろう上官をあざ笑っているような妄想に駆られながらしばらく呆然と周りを見渡した。


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