動乱群像録 96
「実際命を賭けてまで貴族制を守ろうと言う人間がどれだけいるか……とりあえず利益だけを見て動いている人間は御しやすいものさ」
父の笑いにどうにも納得できないような表情を浮かべる要。母、康子は親子でそっくりなたれ目を見て面白そうに微笑んでいる。
「じゃあ佐賀さんが寝返ってくるわけですね」
「あのなあ、すぐに結論を出そうとするのは良くない癖だ。止めたほうがいい」
「裏切るって言ったのは親父じゃないか」
そう言って要は康子を見た。父を『親父』と呼んだことで明らかに康子は不機嫌そうな顔をしている。冷や汗を流しながら要は父に向き直った。
「寝返るって言うのはそれなりの勇気がいることだ。そこまでの度量は佐賀君には無いよ。ただ、いくつかの烏丸派ということで宇宙に上がった人達には色々粉はかけてみたよ。結果はかなりいい具合だ。清原君は切れ者だ。仕事も速く決断力もある。だが人徳は……」
「まるで自分は人徳があるみたいじゃないか」
「要さん!」
「すいません!お母様!」
康子に謝りながらも納得できない要。父もようやく娘の人生経験が足りないことを悟って大きなため息をついた。
「ともかく戦場は入り乱れての乱戦になるだろう。そうなれば実戦経験の豊富な赤松君に分がある。清原君も懐刀の安東君の使い方次第で勝機は見出せるだろうが……」
「まるで人事だな。清原准将が勝ったら親父は斬首だと思うぞ」
あくまで楽しんでいるような父に釘を刺してみた。
「なあに、人の上に立つと言うのはそれなりのリスクを負うものさ。俺は四大公の筆頭に生まれちまった。兄貴は遼南で好き勝手やって戦死。弟もそのまま実家に魅入られて今じゃあ遼南皇帝だ。俺が責務を果たさないわけに行かないだろ?まったく因果な生まれだよ」
西園寺はそう言うと妻子を見ながら満足げに頷いた。