動乱群像録 95
「それじゃあ何か起こるみてえな話し振りじゃねえか」
「要ちゃん!そんな『ねえか』なんていけません!」
「ああ、すいません……母さん」
「『母さん』……?」
「いえ!お母様!」
父親に突っ込みを入れるはずが母康子にいつものように叱られた要だが、さすがの父も要がそんなことにはごまかされるわけはないというように大きくため息をついた。
「あのな、要。お前も何度か地下佐賀の大将にはあったろ?どう見る」
「どう見ると言われても……」
曖昧な要の返事に父親の顔は厳しくなる。普段は家族の前ではいい加減でだらしの無い父だが、政敵を目の前にして論破する際の気合を何度か見たことのある要の表情は硬くなる。
「俺は正直お前にはこれまでの西園寺家は譲るつもりは無いんだ。爺さんも俺も反骨で鳴らした一門だ。お前は度胸は据わっているがそれだけじゃ世間を渡っていくのは無理だ。軍人になるのを最後は許したのもお前の人を見る目が甘いからだ。その目つきや言動で一度会った人間の特徴をすぐに捉えることができるかどうか。四大公家なんぞに生まれるとそれくらいの芸当は求められるんだぞ。良く覚えて置け」
珍しい父親の説教に要は頭を掻きながらどう答えるか迷っていた。
「分かったの?要ちゃん」
猫なで声の康子。ここで逆らえばどうなるか分からないと言うことで要は仕方なく頷く。
「じゃあ、佐賀高家。どういう人物だと見る」
再びの父親の問いかけにしばらく要は考えていた。
「気が強いような……」
「まさか……あいつは小心者だよ。さも無きゃとっくに新三郎の首と胴体が離れているはずだ」
あっさりと自説を覆す父に短気な要の視線は鋭くとがった。