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動乱群像録 94

「親父……いつまでここで篭っているんだ?」 

 いらだたしげに叫ぶ陸軍士官学校の制服を着た娘に頭を掻きながら西園寺基義は困っていた。妻の康子の活躍でどうにか私邸から抜け出し、現在は帝都で数少ない西園寺派の拠点である近衛師団の基地に篭ったまま三日を迎えようとしていた。

「そんなに戦争がしたいの?要ちゃん」 

 母、康子のやたらと穏やかな笑みに引いて構える要。要は三歳で全身の九割を失ってそのまま遺伝子解析で成長後の彼女を模した義体を使用している。実際予科学校に進んでからは軍事用とまでは行かないとは言え民間の軍事会社などが使用している強力で頑強な義体を使用している。生身の普通の人間なら喧嘩を売るのは自殺行為と言えるが、相手は一個中隊の警備部隊を薙刀一つで蹴散らした母である。しかも要も相当に康子には鍛えられたので彼女には頭が上がらないところがあった。

「母さんの言うとおりだぞ。清原君も馬鹿じゃない。第三艦隊を叩かずに俺を処刑するためにここを急襲すれば軍事政権として烏丸さんを立てても国際世論は納得しない。ただでさえ先の大戦の負けのおかげで対外資産の凍結や各種の輸出禁止目録の数を減らせないでいるこの国だ。一挙にベルルカンのような失敗国家が出来上がるくらいのことは考えているさ」 

 そう言うと平然と妻の入れた煎茶をおいしそうに飲んだ。

「だからって……赤松さん頼みでいいのかよ」 

 食い下がる娘。それを余裕の笑みで西園寺は見つめる。

「もちろんそれじゃあ困るよね。たぶん今の戦力でぶつかれば赤松君には悪いが勝ち目は無い。特に時間をかけての戦闘となれば濃州攻略を諦めて反転してきた越州の城君の部隊と挟み撃ちだ。見事に全滅となるだろうね」 

 そこまで言うと再び湯飲みに手を伸ばす。そんな父親に心底あきれ果てたと言うように立ち上がる要。

「親父。死ぬときは西園寺家の当主らしくしろよ」 

「え?俺が何で死ぬの?」 

「第三艦隊が壊滅したらここも危ないんだよ!それとも惟基さんを頼って遼南に亡命する準備でもしているのか?」 

 怒りに任せて顔を寄せてくる娘に少しばかりからかいすぎたと反省するような笑みを浮かべる西園寺。

「まあ聞け。今のままではと言ったのを聞いてなかったのか?今のままじゃなければいいんだよ」 

 父親の妙な言い回しに引っ張られるようにして要は静かに畳の上に座り込んだ。


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