動乱群像録 93
「でもそんな無意味で無謀な戦い……基地警備部隊は旧式の九七式しか配備されていないはずですよ。たとえ援軍が来たとしても……」
「陥落するだろうな。遅かれ早かれ」
そう言うと醍醐は笑って見せる。その様子に再び眼鏡の将校は呆れた。
「だがな。それで十分なんだ。赤松の第三艦隊。士気は高いし練度もそれなりだ。だが豊州だのなんだのの勢力を飲み込んで大軍になった清原さんとこと比べるとどうしても見劣りする。俺等が宇宙に上がって支援しなければ戦いがどう動くか……」
醍醐の言葉に将校もようやく気づく。
「時間稼ぎですか?でも外惑星に展開している部隊が現在急行中ですし……」
「おいおい、全面内戦に突入のフラグは立てないでくれよ。他の艦隊は間に合わないよ。間に合ったところでそうなれば地球の勢力や同盟が顔を出すことになる。恐らく胡州は解体されて貴族云々の話ではなくなるな」
そう言われて将校はようやく気が付いた。この戦いは第三艦隊と清原派の合同軍の直接対決ですべての帰趨が決定されること。それを阻止するためには一刻も早く部隊を宇宙に上げる必要があること。
「それじゃあ、基地のシャトルで部隊を打ち上げればいいんじゃないですか?」
「おいおい、それじゃあ上がったはいいが個別撃破されておしまいだよ。そのくらいのことは考えてるさ兄貴も」
実の兄が陸軍でもうだつの上がらない指揮官だと知っている醍醐。決して兄を舐めているわけではなかった。
「そうするとやはり我々が決戦に間に合うかどうか……」
「そうだな。それとどれだけの部隊を宇宙に上げれるかで勝負の半分は決まる」
そう言うと醍醐は満足そうにテーブルに置きっぱなしになっていたコーヒーのカップを手に取り静かに飲み始めた。