動乱群像録 92
「遠いな……抵抗する部隊は?」
醍醐は仮説テントでじっと座ってコーヒーを飲んでいた。絶え間なく響くアサルト・モジュールの飛ぶ爆音と装甲車両の地響き。あわただしく連絡士官達が駆け回るのを満足げに眺める。
「元々この星の部隊は西園寺さんの息がかかっていますから。現在清原派に同調して篭城している部隊は三つ」
眼鏡の連絡士官が試すように手にした端末のモニターを隠して醍醐を見つめる。
「陸南の田村さんと北最上の織田さん……」
そこまで言うと醍醐はコーヒーをテーブルに置いて立ち上がる。そのまま正解を言われて安堵しているような将校をどかせるとそのまま端末のキーボードを叩き始める。
「陸南の四千は分断しているが織田さんの所は南下されるとことだな。南極の池。あいつはなんだって清原と組したがるのか……」
モニターにはロマンスグレーの中年男の顔が映っていた。
池幸重少将。醍醐、地下佐賀と並ぶ嵯峨の三老と呼ばれる嵯峨家の家臣団の頂点に立つ男。兄の佐賀高家が嵯峨家の領邦欲しさに清原派に付いたような清原派の揺さぶりを受けたわけでもなくただ胡州星上の四条畷に継ぐ宇宙港を固めて沈黙する様は驚異的に見えた。
「あれじゃないですか?西園寺卿が嫌いだとか」
「別にそんなことは無いだろ?惟基が嵯峨の家督を継げたのはあの人の助言があったからだぞ。嫌いならそもそも西園寺の三男で康子様に頭の上がらない惟基の相続を認めるわけが無い」
そう言って醍醐はモニターの前の椅子にどっかりと腰をかける。
「それなら何で……」
眼鏡の将校を一瞥してモニターを見る。そして醍醐はにんまりと笑ってその連絡将校を見上げた。
「わからん」
明るくそう言われると将校もただ呆れるしかなかった。
「あいつのことだ。俺と自分のどちらが強いか比べたいとかそんな理由じゃないのか?胡州は軍人の国だ。あいつも俺もそれを思い知らされて今まで生きてきた。名声や出世。どちらも上位の貴族じゃして当たり前。お互い将官として部隊を仕切るような立場になった。ならどっちが強いか決めてみたくなる。そんなところじゃないのか?」
平然と楽しむように言い切った上司に連絡将校はただ呆れた顔を向けるだけだった。






