動乱群像録 88
「結局戦争かよ」
「戦争やないで、内乱や」
明石の私室で愚痴る魚住に明石が突っ込む。中隊長の私室と言ってもそれほど広くはない部屋。ただでさえ巨漢の明石の他に三人も集まれば狭苦しくも感じられた。持ち寄った酒とつまみを手に沈痛な面持ちで四人は飲み続けていた。
「これが胡州の現実という奴だろうな。貴族制と言う体制をどう評価するかで国が真っ二つに割れる。いつかは経験しなければならない事実だ」
あっさりそう言ってウィスキーを喉に流し込んだ別所を見て黒田は苦笑いを浮かべる。
「俺達は全員爵位持ちだからな……魚住。お前の親類はどうなんだ?帝都は烏丸さんの影響が強いんだろ?」
黒田も人造人間の出自だが、赤松の口ぞえで海軍士官だった嫡子を亡くした泉州の黒田家の末期養子として爵位を得ていた。
「ああ、多分ほとんどは清原さんの部隊にいるんじゃないか?元々俺は馬が会わないから顔を出さないけど……と言うか陸軍の大半は清原さんか佐賀さんの下にでも付いたほうが多いだろうな」
そう言って魚住は酒をあおる。第三艦隊が越州ににらみを利かせながら帝都に反転している状況。四人とも今跳躍航行で宇宙に上がったばかりの清原の軍の本隊を叩きたい気持ちはあった。だが宇宙の軍艦の航行を定めた東都条約で惑星軌道上への軍艦の跳躍航行は禁止されていた。そしてそう言うことを守らなければ地球軍や同盟軍がてぐすね引いて介入の機会をうかがっている現状を悪化させかねないことも知っていた。
「それにしても……いらいらするな!」
魚住はたまらず立ち上がり何度かファイティングポーズをとった後でパンチを何も無い空間に放つ。
「止めとけや。疲れるだけやろ」
そんな明石の言葉に諦めたような顔を浮かべて魚住が椅子に座る。
「でも魚住の気持ちも分かるぞ。俺の部下の連中も開戦を決意したときは盛り上がったが今となっては親類を敵に回すのがわかってどんどん士気は落ちているところだ。これじゃあ戦いにもならないぞ」
黒田はそう言うと上目遣いに黙ってウィスキーをなめている別所を見上げた。