動乱群像録 87
「どうだ……どれだけ集まった」
それほど広く無い胡州下河内基地の司令室。本来連隊規模しかいないはずの陸軍基地は陸軍、海軍両軍の兵士でごった返していた。そこで醍醐はひたすらすすっていたラーメンのどんぶりから顔を上げて目の前の連隊長の小見中佐に顔を向けた。
「現在胡州の基地の四割はうちが我々に同調することを表明しました。あちらが抑えてるのは二割。まあ問題は宇宙に上がる手段を清原一派に握られていることですが……」
その言葉に頷く醍醐。彼は清原達の決起が近いと知ってからすべて準備を整えてこの内紛に備えていた。下河内連隊は元々混成連隊として嵯峨惟基が立ち上げた部隊。上層部には醍醐の顔が利いた。
「しかし……あちらも大変でしょうね。うちにも下士官クラスで烏丸さんの所から寝返ってきた兵隊がたくさんいるもんで正直困っているくらいでして……」
准将の階級章をつけた髭の陸軍士官が笑う。
「烏丸さん達の兵隊は士気が低いですからねえ……って最初から自分達の利益にならない公約をバンバン掲げている連中と心中するほどお人よしは多くないと言うことですよ」
そう言うと醍醐は仕上げとばかりに湯飲みのお茶をすすりこむ。
「ですが……状況はいささか不利ですね。宇宙に上がるには四条畷か極地港でないとアサルト・モジュールで宇宙戦争ができる船は扱っていないですから……」
小見の一言に醍醐は頭を掻く。
「四条畷は今は清原さんの直系の部隊が十重二十重で守りを固めてるはずだ。さすがにあの部隊とやりあうには戦力が足りないなあ……」
「醍醐さん。極地の池さんには?」
小見の言葉にがっかりしたように肩を落としながら見上げる醍醐。その姿が滑稽で隣の陸軍准将が噴出していた。
「小見君。池の野郎の頭の固さは有名だからな。清原さんのことは嫌いだろうが保科さんの遺志を継ぐとなれば話は別だ。保科さんには色々お世話になった池のことだ。簡単にはいかないぞ」
そう言うと醍醐は外の喧騒を見上げるべく立ち上がった。