動乱群像録 81
『総員に告げる!』
赤松の珍しい標準語アクセントの演説に全員がモニターに目を向けた。鋭く光る眼光。いつもの上下の隔ての無い気さくな指揮官の面影はそこには無い。明石もじっとモニターを見つめ続けていた。
『清原准将貴下の部隊が現在帝都を占拠して我々の後方に進軍してきていることは諸君も承知していることと思う。いや、今回の作戦が立案された時点で彼等がそれをもくろんでいたのは私も君達と同じく承知していることだった』
静かに周りを見回した明石の目には頷く兵達の姿が見えた。
『彼等は貴族制こそが胡州を胡州たらしめていると言う。だがそうだろうか?胡州に生きる人々の中で貴族の称号を持つのは一パーセントに満たない。武家と合わせても五パーセントを超えるかどうかと言うところだ。それだけの人物が胡州を胡州たらしめているのか?私ははなはだ疑問だ』
その言葉に頷く隊員達。彼等も多くは武家の出身だが、平民出の隊員も多い。上流貴族の出でありながら隣に立つ嵯峨楓も赤松の言葉に頷いていた。
『胡州を胡州たらしめている一パーセントの人々の為に軍を動かす。これは正義と言えるだろうか?これが誠と言えるだろうか?少なくとも私はそうは思わない。また、そうして政権を力で奪取することが正義だとはとても信じることができる話ではない』
赤松はそういった後、静かに手元にあったコップから水を飲む。いつもならこう言う時には茶々を入れる魚住もただまっすぐとモニターを見つめて赤松の次の言葉を待ち続けていた。
『彼等が一パーセント、多く見て六パーセントの人々の為に軍を動かすなら我々は残りの九十四パーセントの人々の為に軍を動かす!幸い濃州に関することだが、越州軍は攻略を断念して補給のため動けずにいる。ここで我々が決起部隊へと矛先を向けても濃州の安全は確保できる状況にある。つまり我々の敵は唯一つ。清原氏の私兵だけだ』
誰もが黙っていた。だが明石も兵達がこの瞬間を覚悟し、待ち構えてこの艦隊の出撃に加わっていることをこのわずかな瞬間で理解した。
『清原氏の手勢は弱くは無い。君等と同じ胡州軍の厳しい訓練を乗り越えた猛者達だ。ただ、それは相手とて同じことだ。我々をそうやすやすと挟み撃ちにして殲滅できるとは思っていないだろう。だが、彼等の大義はわずか六パーセントの人々の大義だ。それに対して我々の大義は九十四パーセントの大義。義は我等にある!そのことはこれから決戦に挑み、それに勝利するまで忘れないでいてもらいたい』
そう言って静かに赤松は敬礼をした。ハンガーの兵士達はモニターに向けて敬礼をする。明石もいつの間にかそんな兵達に合わせて敬礼をしていた。