表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/194

動乱群像録 75

 安東は車から降りると玄関で立ち止まった。

「御前……」 

「いや、いい。気にしないでくれ」 

 心配そうに言葉をかけてくる運転手の田中にそう言うと玄関を開いた。目の前に座っている安東の子供時代からこの家に仕えている飯田という名の下男が眠りから覚めて驚いた表情で安東を見上げた。

「これは!御前!」 

「気にするな。たまたま暇ができたから帰ってきただけだ」 

 そう言うと安東は静かに腰を下ろして軍用のブーツを脱ぐために腰をかける。

「恭子様は今日は発作もなく……」 

「分かってる。ちゃんと顔は出すさ」 

 妻の恭子の名前を出されて少し照れながらコートを飯田に差し出した。

 恭子は病んでいた。医師は心労がたたっていると言うが、それだけが原因でないのは安東にも分かっていた。確かに彼女は兄の赤松忠満と夫との対立に心を痛めていたのは事実だが、それ以上に何かがあるのではと安東は医師を問い詰めて答えを引き出した。神経系が次第に衰弱して死に至る病気。医師は安東にそう打ち明けた。神経系に欠陥がなければサイボーグ化しての延命は可能だが、肝心の脊髄から小脳にかけての神経に問題があるとなれば話は別だった。

 延命の道が無い。そのことは恭子には黙っているが、彼女もうすうす感づいているらしく最近は軍務で忙しい安東がたまに顔を出しても会おうとしない日が続いていた。

「それじゃあちょっと見てくるよ」 

 飯田にそう優しく言い残して安東は廊下を恭子が暮らしている別館へと進んだ。彼の領邦である羽州はアステロイドベルトでも大型の小惑星が多く存在していて資源に恵まれたところだった。父母に早くしなれて姉であり今は敵である赤松家に嫁いだ姉の貴子と二人で烏丸卿の後見で暮らしてもこの屋敷を管理できる程度の収入はあった。

 庭の大きな緑色の岩に目をやると、そこには恭子の姿があった。

「恭子!起きていて……」 

 安東が思わず庭に下りたのを見て恭子は驚くような表情で手にしていたトンボ珠を振り回しながら別館の方へと消えていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ